第8話 作戦の行方

俺は虎視眈々と、その時を待った。

獲物を狙うライオンのように、足音をたてずに動いた。

この家の誰かに借りればいいだろうと思うだろう。

実は、俺と美月の家は隣同士だったのだ。


「なんとか2階まで上がれれば」


2階まで上がれれば、美月の部屋からベランダへと飛び移ることが出来る。

それを実行する為には高い壁があった。


「俺今タオルだけなんだよな」


腰にタオルを巻いただけの状態で、幼馴染の女子の家を動き回るのだ。

ここまでしなくても、美月の部屋着を借りるなり、父親から借りたり出来る。

だが、ユウキには変なプライドがあった。


「だって恥ずかしいじゃん」


思春期に入った男子はとてもめんどくさい。

女子に少しでもかっこよく見られたいと思ったり、洋楽を聴き始めたりする。

その中でもユウキはかなり拗らせている。

例えば、女子の前ではクールに髪をいじったり、ラップの練習をし始めたこともあった。


「そろそろか·····」


完全に湯冷めしている。

足音を殺しながら、ぺたぺたと歩く。


「──!」

「ユウキ、そろそろ出なよー」


美月の想定外の出現は間一髪、掃除用具入れに入り、回避。

これはユウキが感覚を研ぎ澄ませていたおかげだ。


「·····いない」


そのまま2階へ上がる音がした。

これを好機と見て、一気に攻め立てる。


(行ける、今なら階段下までは行ける)


渾身の横転で、なんとか階段下までたどり着いた。

出来ない横転のせいで、大きな物音が鳴ってしまう。


「誰だ!」

「誰か居たの?」

「物音がしたのよ」

「·····!」


まずい·····、小川一家の大集合だ。

もしここでバレたら、色々終わる。

ここで俺は、唯一の特技を披露する事にした。


「ニャーン」


俺の猫のモノマネは似ていると評判だ。

モノマネでメスの猫を射止めたこともある。


「猫だ」

「猫なら仕方ないわね」

「でも家の中だったような·····、まぁいいか」


天然って言うより馬鹿だな。

この一家は。

強盗とかに入られたらもうダメだろ。

まぁ、今は自分のモノマネの練度を褒めることにした。


「よし行ったか」


三人とも2階へ上がったことを確認して、上へ上がる準備をする。

玄関から出ることも考えたが、鍵の音でバレるかもしれないし、そもそも家に帰りたくない。


「さぁ、本当の戦いはこれからだぜ」


小声で最近ハマっているフレーズを口に出しておく。

その方が気合いが入る。


「パンツゲッチュ作戦」


自分はどこまでやれるのか、更なる高みを目指す。

心臓はバクバク鳴っている。


「開始!」


まずは、じっくり、ことことと階段をゆっくりと登る。

少しの軋む音すら許されない。

極限の緊張状態。

ここで待機時間だ。


「美月が部屋から出なきゃなんねぇ」


ここで難関ミッションだ。

美月を部屋から出さなければならない。

考えろ、考えるんだ俺。

ここでピンチが訪れる。


「はぁ、ユウキ大丈夫かな」


なんと美月は中々風呂から上がらない、俺を心配して部屋から出てきたのだ。

このまま行くと鉢合わせだ。

ドクンッ、ドクンッ、と体中の血液が早く循環する。


「ユーウーキー、いい加減出てきなさい」

「·····」


美月は何にも気づくことなく、1階へと降りていった。

ポツンと、ユウキの流した汗が落ちる。


(あ、あっぶねぇ)


ユウキは間一髪で、天井に両手両手を使って、張り付いていたのだ。

少しでも上を向かれていたら終了。

賭けだった。


「よし、これでパンツを履ける」


俺は喜びのあまり走ってしまった。

その音で、美月が上に上がって来る事を考えていなかった。

部屋のドアを勢いよく開けた。

助走を軽くつけて、飛び出した。


「行っけーっっ! ──あ」


イメージと現実は乖離している。

想像では、軽く家のベランダに着地して居るはずだった。

だが、現実ではあと数センチ足りずに、地面へ急降下。

幸い下に草があった為に、軽傷で済んだが家族からはめちゃくちゃな罵詈雑言を食らった。

しかも美月は一部始終を目に焼き付けていた。


「もう誰か殺してくれー!」


ユウキは一人で駄々をこねた。





















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