第5話 俺の物語に救いはないらしい
「さぁ、一体何をした御影!」
うちの担任の熱血教師は今日もうるさい。
すぐ怒鳴る。
「なーんにもしてないです」
「なんだって? じゃあ小倉のあの声はなんだったんだ」
先生の隣で、小倉がほくそ笑む。
まじでウザイ。
「先生は騙されてますよ、あいつは悪魔のような女です」
「お前だよ悪魔は」
「なぁんで」
先生の鋭いツッコミに、思わず情けない声が出る。
「どうする? 小倉」
ずっと俺が否定するので、埒が明かない。
「そうですねー、まぁ初犯なんでね」
「お手柔らかにお願いします」
もう俺には軽い罰を祈ることしかできない。
なぜならもう、冤罪は覆ることがないのだから。
「二度と私に近づかないということで、どうでしょうか」
「ま、まじで!? 全然いいよそれで!」
し、しまった。
思わず喜んでしまった。
願ったり叶ったりだぜ、全く。
「じゃ、そういうことで」
「お、おい」
俺は速攻で職員室を出た。
他の教師からも青い目で見られるので、心地が悪かった。
「案外短かったな」
「おう」
職員室の外には、凌太と美月が待ってくれていた。
きっと、傷ついた俺を慰めてくれるのだろう。
やっぱり持つべきものは親友である。
「あ、あのさ、もし悩み事があったら相談乗るぜ」
「お、おう」
「す、ストーカーはダメだよ·····」
「は、はい」
二人からの慰めを受け、俺は若干センチメンタルになっていた。
凌太は別にいい。
美月の反応が一番、心に来る。
心無しかいつもより、距離がある気がする。
「わ、わりい、先に帰るわ」
「ちょ、待てよ!」
俺は待ってくれた二人を、置き去りにして走った。
ひたすらに、全てから逃げるように。
(なんて世界は残酷なんだ、もう誰も信じられん)
街へ出て、人混みを抜けて俺は夕日に染まる公園に居た。
なんか·····、エモいな。
「なんで俺だけ、こんな目に会わなきゃいけないんだー!」
悔し涙なのか、悲しみの涙なのか分からない。
公園のベンチに腰掛け、人目も気にせずに泣いた。
「ママー、なんであの人泣いてるの?」
「見ちゃダメよ、ああなったら終わりよ」
親子の声が心に刺さる。
こうなったら終わりらしい。
「·····大丈夫ですか?」
「へ?」
「さっきからずっと泣いてますが」
「て、天使?」
泣いてる俺に、ハンカチを差し出しながら話しかけてくれたのは女性だった。
俺より少し年上だろうか、綺麗で優しい声をしている。
「話、聞きましょうか?」
「·····いいんですか?」
俺は全てを話した。
何を言われても、引かれていい。
この気持ちが晴れるなら。
すっかりと日は落ち、夜になっていた。
「ずっと大変だったんですね」
女神、天使などでは彼女の存在は語ることができない。
俺の発言を一度も否定することなく、優しい相槌だけを打ってくれた。
「今日はありがとうございました、お名前だけでも聞いていいですか?」
「はい、私の名前は小倉叶です」
「お、小倉·····?」
俺の中の小倉と言えば、あいつしか居ない。
だが、万が一ここら辺が小倉密集地域の可能性がある。
「もしかして·····、妹さんとか居ます?」
「はい、可愛い妹が居ます」
「名前って、風花さんですか?」
「そうですよ、知り合いですか?」
終わった。
幸い暗くてよく見えないが、俺の顔は真っ白になっていた。
どうやってもあいつとの関わりが切れない。
これって運命?
「い、いや? たまたまですよ」
「ほんとうに? 私の風花ちゃんに手を出したらどうかしてましたよ」
「ハハッ、それじゃあもう遅いんでじゃあ」
俺はそそくさと逃げ帰るようにして、その場から立ち去った。
多分、あの人シスコンだ。
もしバレたら殺される。
「ま、これからのことはこれから決めよう」
俺は能天気だった。
人生設計はしっかりと立てて置くべきだと思った。
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