第9話 小学四年生 大神の家に行くとか嫌なんだが。結論、喧嘩売って逃げた 上





 やあ、諸君おはよう、私だ、利根田とねだ 理子りこだ。小学四年生になったぞ。九歳か…、早いものである。小学三年生の時は少し紹介したと思うので、ざっくりと行こう。

 

 大神はその後も一貫してやさぐれた孤高の一匹狼みたいな感じであった。精神年齢がアルファ(確信)だとやはり早く成熟するとでも言うのか?中学生くらいの思春期が既に始まっている感じである。


 もちっと心開けよ。世界は愛に満ちているぞ。折角のオメガバースの世界だぞ。


 まぁ揶揄いまくって健太をけしかけてやったら、鬱陶しそうにしながら若干相手をするようにはなっていたが。健太も追いやれて万々歳である。


 何か健太、無駄に大神をライバル視してるし。運動神経がアルファ並みだからだろうか?小学生男子の思考は分かりやすいのか分かりにくいのか謎である。


 ああ、ちなみにだがこのオメガバースの世界は狼の設定を元としている。


 うむ? 意味が伝わりづらいか?


 まぁ番に一途なのも、群れのリーダー役をアルファと呼ぶのも、フェロモンというか発情期があったりするのもそこから来ているのだ。アルファの身体能力が化け物なり獣染みてたりするのもそこからであるな。


 いや、ガチで上位のアルファだと何処の特撮ヒーローだ?レベルでマンションからマンションの屋上を飛び移れるとの都市伝説がある程度にはヤバイのである。


 ケモミミファンに朗報だが、ケモミミが生えてる版のオメガバースの世界も探せばちゃんと出てくるぞ。前世山田 莉子もちゃんとケモミミ属性まで嗜んでおり、この半獣姿堪らんと真夜中に月に向かって吠えたとか何とか―――


 げふん。ケモミミでも全身獣形態版でもどちらでも御馳走なので早く読みたいものである。誰か私に提供してくれないだろうか。尻尾振って皿の如く舐めまわして嗜んでみせるぞ…!


 おっと、話が逸れたな。すまんすまん。


 まあという訳で小学四年生となったのだが、今度のクラスでは何と聖也くん、お花ちゃん、大神、私とそして腐れ縁の健太だよ!全員集合!なのである。いやもう健太はいいよ健太。


 さて、仲はどんなだと言うと、基本私とお花ちゃんと聖也くんでよく行動している。


 まぁ聖也くんとお花ちゃんはワンセットというかべったりだし、お花ちゃんは私のこと大好きだからひよこの如く着いてくるしな…!ほら私モッテモテふうーー!!


 という訳で、二人の花が飛び交うアルファ(確信)とオメガ(多分)の可愛らしい恋模様を至近距離で眺められるという至福の位置な訳だな。


 お花ちゃんはぽんやりしているから、イマイチ聖也くんのことをどう思っているか分からないが、まぁそこは我が脳内補正で何とでもいけるのである。


 今見た!!?皆さん今見た!!?こけたお花ちゃんに手を出して立ち上がらせた勢い余って二人抱き着くシーン見た!!?うっひょおおおおはい黙ります。


 健太?


 健太は何だか最近聖也くんにまで突進してよく絡んではあしらわれている。というかドッチばっか誘ってくんなし。


 ええい鬱陶しい! お前はアルファ(確信)探知犬か! 麻薬犬ばりか! 猿顔の癖に犬気取りなのか! 犬猿の仲という言葉を知らんのか! もう泣きついても算数見てやらんぞ!


 という訳で、こちらも大抵鬱陶しいけどいつも通りな感じである。


 大神はというと…。何か小学三年生の時と変わらずというか、よく一緒に居る組に聖也くんが加わったことで、益々話す機会が減ってより壁が分厚くなった感じである。


 まぁあんま喋ってないし薄皮一枚程度の差な気はするが。相変わらず女子も男子も触れれば切るみたいなオーラで近付けさせないし、席替えになるたびに窓際の席を無理やり変えさせて陣取っては、やる気なさそうに窓を眺めているし。


 おい可哀想だろ、やめてやれよ。


 おい、何で席を譲った奴は男子も女子も頬を染めてるんだよ。

 顔か? やはり顔なのか? 解せん。


 まぁ授業に出るようになっただけマシかという私である。それ以上はあんま関わる気はせんよ。


 ちなみに聖也くんは学級委員に毎度無理矢理多数決で任命させられているが、大神の態度に関して我関せずな感じである。一応王子様スタイルで先生に頼まれた時はそれっぽいやんわりした注意のセリフだけ投げ掛けているが、お互い興味ないといった感じだ。


 まぁ聖也くんの大事なことなんてお花ちゃんに関わることだろうしなぁ。 


 崖の上で私とお花ちゃんが死に掛けてたら、迷わずお花ちゃんだけ助ける男。それが聖也くんである。


 私涙目。あ、でもそのシチュエーションでの二人の感動的な再会とか……死に掛けながら最後に目にする二人がこう抱き合ってたら――いいな!最高かよっっ!!


 げふん、すまない萌えがな。命賭けれるぞ。萌えがないなんて転生してる意味がない!!


 とか何とか考えていたら天罰が当たったのだろうか。


 ある日、先生に放送で呼び出されたので何であろうかと小首を傾げながらてってこ私一人向かったのである。我ながら真面目な優等生であるので、呼び出されたのも何か褒められることであろうかとあわよくば図書カードでも貰えないかとうっきうきスキップだった程度には能天気だったのである。


 まさかあんな頼み事とはな……優等生つらいっっ!!







「利根田、大神と仲良いだろ。これ届けてやってくれ。家もお前が一番近いから」

「先生、それは目の錯覚というものです。そして職務怠慢と個人情報漏洩という凄まじいコンボを繰り広げています。大人しく大神くんへとそれを自らが届けるが吉でしょう。私は何も聞かなかったことにしてあげますので」


 全くもって時間の無駄であった。誰だ優等生だと何か褒められると言った奴は!何か貰えるどころか、厄介ごと頼まれるだけじゃねーか…!


 では!とくるりと回れ右しようとした襟首を掴まれる。


 ぐえっ!やめろ潰れたカエルみたいな声が乙女の口から!うへぇ、カエルを思い出しただけでメンタルががが。


 一瞬にしてぐってりしていると、心身共に少女虐待をやりやがった鬼男教師もといあだ名はゴリ男先生がぴらりとプリントを目の前で揺らした。


 ええいっ、悪の組織のメカゴリラーマンみたいな顔しやがって…!見たことないが。


「いやぁ、ここんとこ一週間程大神学校来てないだろ? 親御さんに連絡しても大丈夫だの一点張りだし…。正直大神の御両親は有名処なんだよ。賢い利根田ならわかるだろ?」

「それで、大ごとになるか、大ごとにする前に私が一度様子見て来いってことっすね…? 確かにご両親が大丈夫と言ってたら踏み込みづらいのは分かりますが…。全く、素直に言ってくださいよ。てか、小学生に頼み事なんてしないでくださいよ」

「何つーか、利根田は頼みやすいんだよなぁ。実際、浮きがちな問題児組の手綱をよく握ってるし」


 むぅ、ゴリ男め、見掛けの割によく見ているし、見掛けのわりに子供愛に溢れた面倒見のいい教師である。見掛けのわりにだが。


 確かに問題児組のセリフの時点で頭に浮かんだラインナップは全員我が友達か、絡み相手な気はする。まぁ、このオメガバース愛の美少女戦士の前でいじめとか何かブラックなことなど許さないからな!


 ゴリ男に襟首を掴まれながら大人しく目の前で揺らされたプリントを手に取った。


 はぁ、面倒臭い。でも、実際に一週間欠席ってのも、あいつ喧嘩でも何でもしてぶっ飛ばされてどっかにコンクリ詰めでもされてんじゃねーかと若干心配してはいたのである。


「行ってくれるか。無事終わったら内申は期待しとけよ」

「はい承りました! もうめちゃんこ心配してたんですよー!! 利根田いってきまーす!」

「お、おう、ほどほどにな」


 何故か引き攣って不安そうな顔になったゴリ男である。


 心外な、ただいまやる気元気漲る気が百パーセントなのに!!


 いっくぜー! 待ってろ我が内申!! 前世大学進学の際は内申で苦労したのである。 やるせないぜ内申!!


 と、いうわけで私は意気揚々と大神の住所を聞いて放課後行ってみることにしたのである。


 善は急げってな! 仕事はその日のうちに! 明日やろうは馬鹿野郎だぜ!!







「えーっと、ここが大神の家……、って、近!! 目と鼻の先かーい!」


 びっくりした。途中から普通に家へ帰ってる感覚になっていたのでびっくりした。驚いて通り過ぎたあと表札を二度見した。確かに、言われてみれば最近引っ越してきた人が居ると去年母が言ってたような気はする。興味なくて全力スルーだったが、我が家から徒歩三分圏内とか、カップラーメンより早い。


 ははぁと大神の家を見上げる。ふむ、予想よりかは普通のよくある三角お屋根のベージュベースの新築一軒家といった感じである。


 正直、東京から来た野生的な美少年アルファ(確信)の大神のことだから、少なくとも片方はアルファのご両親に違いない、イコール大金持ちに違いない、イコール家も大豪邸に違いないと思っていたのである。ちなみにそのせいで最初のゴリ男の頼みの時にごねてたのもあるんだがな。


 まぁ、とはいえ一般的そうな一軒家だが、よくよく見れば車はホマルシェだし、何か防犯カメラあるし、庭が無駄にオシャレだしと隠しきれてない金持ち感はある。


 けっ、庶民暮らし体験中かよ!と、やさぐれた奴なら思いそうだ。


 まぁりこちゃん素直な天使なので、ほえー、金持ってそう…。お茶菓子でケーキ出ないかな…とかしか思ってないでござ…はいすんません調子乗りました。


 はぁ、と溜め息を吐く。

 

 あー、まぁこれでも緊張しているのである。ほら、大神のやさぐれ具合的に、何かはありそうだと思っていたし。


 正直、中途半端に引っ掻き回して悪化させるくらいなら関わらない方がいいと思うのだ。子供の我が身で出来ることなどたかがしれている。結局は親の手も借りざるを得なくなるのは目に見えている。それも、もし何かあった場合は先生でさえ有名処とびびる親を相手にしろということになる。なんつー親不孝という話だ。


 とはいえ、だ。だからって此処で引くのも違う気がする。去年からずっと気になってはいつつも、深く関わらず、そんな言い訳片手に目を逸らしていた自分に嫌気がしていたのも事実なのだ。まだ年齢一桁のごめんねぱうわーでごり押せる内に対処できるならした方がいいとはやはり薄々思うのだ。


 ゴリ男にゴリ押されずともな…! なんちゃって! はいすんません緊張ほぐそうとしたんです黙ります。


 眉間を揉み解した。

 

 児童虐待とか大神に似合うかと言うと微妙だが、アルファは身体能力も高い分回復能力も高いと設定でよく聞く。つまり、火傷や痣とかがあってもすぐ消えてる可能性とかだってあるのだ。アルファ(確信)と思われる大神といえど、まだ子供である。大人のアルファに敵う筈もない。


 とはいえ、勿論クールな俺カッコイーな線もあるっちゃあるし、何もない杞憂ならそれが一番なのだ。


 いよっしと覚悟を決めて震える指でインターホンを押す。

 防犯カメラもある癖に、ここだけ音声だけ式の様である。

 五回ぐらい押して、ようやくガチャ……と音が繋がる音がした。

 利根田 理子よ、いくぞ、いくんだぞ、まず第一声は――――


「誰だ?」

「大神くんのお友達の利根田 理子でっす☆先生に頼まれてプリントを届けに参りました☆」

「そんな奴知らねぇな」


 ガチャっと切れた。


 ……。


 ……。


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