第8話 幕間1 小学三年生 ドッチッチ あいつやりやがったな 下



 よし、健太を大神に売ろう



 一瞬で迷うこともなく判断した自称愛の美少女戦士で大人な利根田 理子であった。


 矛盾する? 貴様は触れてはならぬ闇に触れてしまったようだな…

 さて、というわけでぜえはぁ…。いや、もう息切れがヤバいのである。


「大神くんや……」

「あ? 何だよ」

「聞いてくれ。正直さっさと終わりたい。でもボールに当たりたくない。お互いそうじゃないか?」

「で?」


 ふんと馬鹿にしたように顎をしゃくる様子にいらっとするも、此処は大人しく作戦を告げる。

 健太への慈悲? 主は時に試練を与えるもんだろう? そんなもんである。はい適当。


「健太を当てさせてやるから、そしたら飽きたとでも言ってさっさと終わらせてくれ。チャイムまで待つのしんどい」

「ひでぇやつだな。あっちは頑張ってるのに」


 ちなみにこの間、健太と、敵チームになった友達連合との間で盛大なボールの避ける攻防戦が行われている。


 見てるだけで元気吸われそう。そのまま時間いっぱいまで遊んでくれりゃあいいのに


「あっちはあれが楽しいんでしょ。むしろか弱い女の子をこの主戦場におくなし」

「はっ」

「お前徹底抗戦する気か??」


 流石に大人~な理子ちゃんにも怒る時があるのである。

 こいつ何でも感でも、あ?だの、で?だの、挙句の果てに鼻で笑うだのと……。


 もうこいつに同盟なんて持ってくるんじゃなかった、やはりこいつと馴れ合うなど我が考えが砂糖菓子メープルシロップ掛けレベルで甘かったのだと、まるで最近の国家情勢の縮図みたいに考えを一転緊張関係へと翻していると、「まぁ待て」と大神が自然を装って声を掛けた。


「乗ってやるよ。俺もさっさと終わらせたいしな」

「なら何で無駄に煽ったし」

「とりあえずお前適当に外野の近くでこけろよ」

「はぁ? 当たりたくないっつってんじゃん」


 こやつ、さては馬鹿だなと訝し気な目で見れば、心外だと言わんばかりに大神は片眉を上げた。


「あいつが絶対守りに来るだろ。そしたらその隙を当てられて試合終了だ」

「はあ? 健太が? そりゃ時間もないし運動神経いいから逆に取りに来そうだけど、ダブル狙われるくらいなら引き分けのがいいと思いそうじゃない?」


 至極真っ当な意見を述べれば、逆に大神に呆れた者を見るような目で見られた。


 解せん…!! やはり常人にその思考は理解不能だとでも言うのか…!


「ま、乗るかどうかは任せるぜ。俺はお前が当てられようが時間を潰そうがどっちでもいいしな」

「ドッチだけにってか! くっそう、分かったよ。もし作戦失敗したら後で覚えとけよ…!」


「おいりこ! 狙われてるぞ!」


 瞬間、咄嗟にしゃがんだ頭上をボールが通り抜けた。 


 誰だよ顔面セーフなのに顔面狙ったやつ…!絶対女子だろ…!!


 ボールが遠くの方まで転がっていく内に、ひいこら何とか健太の近くまで撤退する。


 うひい、さっき売る契約が成ったのに健太ナイスぅぅ!! ほんのちょっとだけ申し訳なさが湧いたぞ…! ボールを沼に落としたのもお前だから、正直蚊を潰した時程度の申し訳なさだがな…!!


「おいりこ、さっきまで大神と何話して――」

「健太来た…! 逃げるよ! 健太のこと頼りにしてるから…!!」

「お、おう!」


 何故か予想以上に張り切りだした健太を怪訝に思うも、やはり小学三年生の男子など煽てれば木に登る猿のような扱いやすさなのだろう。


 ふわっはっは! 今からこけるから、頼む我が身を守ってくれ…!

 え? クズい? それは作戦立案者の大神にでも言ってくれ…!


 来るぞ来るぞと別の緊張感も持ちつつ、ボールを持った男子がコートの近くに戻ってくる。

 いまだ!とばかりにずさぁっと顔面からこけてみた。ヘドロに塗れるくらいなら砂ぼこりのがまだマシである。


 おい、大神、今へたくそって言ったの、りこちゃんイヤーで拾ったからな!!


「おい! りこ立てって!」

「健太無理っ、ごめん後は任し…」

「げっへっへ、引き分けにしてやるぜぇ…! このくさくさボールを食らえっ!」


 やんややんやで楽しむ周りに乗っかって意外とみんなノリノリでやっていると、明らかに当たる速度とコースで向かってくるヘドロ砂ボール。


 うわ…、大神に嵌められたかも…。というか健太も流石にわざわざ守って危険になるなんてそんなことする訳ないだろうし―――


 馬鹿をしたな…と、最早一息で当たると目を瞑った時、ざわりと空気が揺れた気がした。


 次いで黄色い悲鳴。…ん? 黄色い悲鳴?


 おそるおそる視線を上げると、健太が目の前に立ってボールを受け止めていた。


「け、健太…、何で…」

「お前見捨てて行けるわけねーだろ」


 無駄に当然とでも言いたげに返されるセリフ。大神の予想は当たってたと言える。腐れ縁レベルで一緒に居た健太の正義感や義侠心を僅か二日で読んだのは、流石と言えるし若干悔しくも感じはする。だが、だがな……。


 何で当たらず受け止めれるんだよ…! お前はアルファか…! そのお猿顔でアルファだとでも抜かすつもりか…!!


 動揺したまま何とか上体を起こして座り込んだ私の前で、何のパワーが働いているのか、健太はその沼ボールを恐れず掴んで、これまでにない速度で回転させながら投げたのだ。


 これには流石の大神も避け切れず真正面から受け止めるしかなかった。


 バッシ――ンッという、最近のお子様用に改良された痛くないふわふわボール素材からあるまじき音が木霊する。


「へっ。やっと受け止めたな」

「お前…」


 その声音には苛立ちと怒りが混じっており、我がりこちゃんイヤーには「お前が中途半端なことしやがったからだろ??」というドスの効いた副音声が聞こえている。


 ひいっ、ヤバイ、二人ともヤラレルっっ


 若干殺意混じりの大神から投げられたボールの速度は凄まじく、受け止めようと真正面から構えた健太の腕を弾き飛ばし、ボールは高らかに宙に舞った。



 そんで、我が顔面に落ちて転がった。



「「あ」」



 私以外の全クラスメイトと大神と健太の声が重なった瞬間、無情にもキーンコーンカーンコーンと試合終了のチャイムが鳴る。



「引き分けだね~」



 と、のんびりお花ちゃんの声が木霊するなか、心の中でむせび泣いたには言うまでもない。






 はい、という因縁があるのである。他にも色々あるがそこは割愛しよう。


 な? 酷いだろ? あのあと、皆から腫れ物扱いを暫くされたんだぜ…?


 な? 酷いだろ? あの後給食の時間だったんだぜ? な、酷いだ以下略。


 まぁ悔しかったから嫌がらせとして授業出てないと分からない問題ばっか出して、え?これも分かんないの?ぷーくすくすみたいに揶揄ってやったら、最近授業には出るようになったんだがな。 


 ちぇ、今度は小学校高学年の問題を出す予定である。


 え? 大人げない?


 まぁこの手の社会に対して斜に構えたやからは、ガミガミと授業に出るよう言うよりもこうした方が勝手に対抗意識燃やすのである。 


 一応りこちゃん大人なんで若人の成長には貢献するのでござるよ、うむ、感動したであろう?さあ崇めるがよい称えるがよ…すんません調子乗りました。




 さて、そんなこんなで四年生になった。

 











後書き

 

 


 あいつやりやがったな…(りこちゃん健太を売るの巻き

 ありつやりやがったな…(健太、男を見せるの巻き

 ありつやりやがったな…(大神、りこちゃんの顔面にボールを当てるの巻き


 伸びすぎたのがこちらでした☆ダイジェストってなくて伸ばしたお☆←おい


 次話は『小学四年生 大神の家に行くとか嫌なんだが。結論、喧嘩売って逃げた』予定でさ~☆



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