第7話 幕間1 小学三年生 ドッチッチ あいつやりやがったな 上
やあ、諸君おはよう、
ふっ、私の魅力っぷりも困ったものであ…すんません調子乗りました。
まあ初日の件なのだが、私も大人であるからな。最初は大人げないことをしたなとは思いはしたのだ。プレパラートですり潰されたミジンコ程度だが。
という訳で開始早々初日でストリートファイトした翌日の様子がこちらである。
ちらちらと男子も女子も怖いもの見たさと好奇心で大神を伺う中、煩わしそうに只管不機嫌で席に肘を付いて座る大神。窓からそんな眺めても外の景色は変わらぬだろう。何だ、美味しそうな雲でも浮かんでいるのか
とはいえ一枚の絵みたいな光景であるのも確かではある。悔しいが。
まぁいいやとお花ちゃんときゃっきゃうふふと「今日はね、落ちてた桜の枝にしたの~」という女子力の塊な女子トークに心癒されていると、ガタンという音が教室に響いた。
水を打った様に静まりかえる教室。
かえるという単語を想像するだけで我がトラウマが刺激される恐怖である。
いや、やめておこう。私が傷付くだけだ。
という訳でなんだなんだと視線をやると、怯えた様に顔面蒼白にする少女達と、大神の前でぶっ倒れている机。と、その机が椅子に当たりでもしたのか、腰を押さえて机で悶絶している健太。
健太ざまあ!
っと、どうやら勇気を持って話し掛けた少女達三人組に大神がキれ、机を蹴っ飛ばしたらしい。お前は何処のカミソリだ。切れ味良過ぎというかキれすぎだろう。カルシウムもっと摂取しろよ。二日連続かよ
転校生に興味深々になる子供たちの気持ちも分かるが…、それがましてや大神みたいな二次元から飛び出してきたみたいなアルファ(確信)だったら話し掛けてみたいと思いもするだろうとは思うが……
わっと泣き出した真ん中の少女を庇う様に、両端の少女達は非難がましい声を掛けている。
しかしそれにすら威圧で黙らす大神。というか、泣き声が更に二つ追加された。
窓ガラスが震えそうな程の大合唱である。
女子三人を無言で一瞬で泣かすとか、一体お前はどこの魔王だ。
復活した健太が大神へと腰を押さえながら突進したあたりで、舌打ちした大神は席を立って教室から出て行ってしまった。
まぁ子供の甲高い泣き声の至近距離爆撃は私も辛いとは思うが…、ましてや健太が突っかかってきたら鬱陶しくて私なら腰を狙って追撃攻撃を仕掛けるが……
それでもあいつやさぐれ過ぎだろ
アルファ(確信)とはこのようなものなのであろうか? 正直サンプル事例が聖也くん(王子様)と、大神(魔王)という両極端しか居なくて平均がよく分からん。
むしろ変な程突出しているのが特徴だとでもいうのだろうか? かの歴代の大天才たちも幼少時代は変人扱いと聞くし、やはりそうなのかもれない。とはいえ同年代はたまったものじゃないと思うが。
うむ? であればこの小学三年生にしては天才的な俺つえー!!を出来ている私も一ミリの可能性くらいアルファの可能性が……はいすんません調子乗りました夢くらい見たかったんですすんません。
という訳でまぁ、仕方なくお姉さんぶって女の子達にブタクサ対策の為に持っていたティッシュを渡し、大神が蹴っ飛ばしたことで倒されてしまった哀れなる机ちゃんを直してやりながら、波乱万丈になりそうな小学生活を憂えてため息を吐いたのである。まる。
とまぁ憂えた小学三年生活であったが、意外と大丈夫っちゃあ大丈夫であった。
何故かって? あいつ、小学三年生にして学校をサボり気味なんである。
まぁ小学三年生の算数なんて二桁の足し算とか、小数の足し算とかなので余裕のよっちゃんと言えばそうではあるのだが。
とはいえ健太なんかは既に小数で死に掛けているので、大人~な私としては大神も今から授業ボイコットしまくって将来大丈夫かよと多少くらいは呆れと心配を見せたくはなるのである。
ちなみに健太は宿題をほっぽって外でドッチしようぜ!とすぐ誘ってくるので、終わってからなと言って無理やり面倒見てやっている。
お前な、何で五分でやる気尽きるんだよ!まだ二問目しか終わってねえだろうが…!!
そんな訳で別段親しくはなってなかった大神だが、まあ偶~にいざこざ位はあった。
いや、あれは向こうが悪いんだがな…! 私悪くない! 私天使で愛の美少女戦……はいすんません調子乗りました。
あれは体育の授業の時である。うちは公立の学校なので、平等と道徳の教育うんぬんかんぬんの方針のもと、小学校六年生まで男女合同の体育なのである。
という訳なのだが、小学三年生の体育など、体育の先生が残り十五分はやめに終わるわーと言ったらドッチに転がり込むものなのである。
というか健太がドッチにハマり過ぎて何がしたいかの皆で意見言い合いっ子になったら、ドッチドッチとうるさいのだ。
お前は言葉を覚えたてのオウムか…!!
そうなると主張のない皆もまあいっかみたいな感じであっちでもこっちでもあっちこっちでドッチドッチになって皆でドッチになるのである。もうドッチドッチ言い過ぎてゲシュタルト崩壊ッチッチ。
「理子ー! 逃げろー!」
「逃げろったって、コートの外全方位敵だよ!」
白線の外には黒山の群れ、もとい敵チームの壁。
最初は良かったのだ。敵に大神が入っているが、そこは平等の観点の下で公平に人数分けして、大神も普段通りやる気なさそうにさっさと当たって外にでも出る気満々だったのだ。
なのに、ボールが…、ボールがな…。ボールがヘドロ沼、もとい目の保養と憩いという目的で作られた蓮を植えた貯水槽みたいな所に入ったことで状況は一変したのである。
そりゃ私だって蓮が死滅どころかあの藻とヘドロが浮き出して真夏はうじゃうじゃ蚊が湧くところにヘドポチャした異臭塗れのボールに当たりたくねぇよ…! どこの罰ゲームだって話だよ…!
正直当初の癒しと真逆の苦痛を提供するあの貯水槽はぶっ壊すか、誰か清掃人雇うべきだとめちゃくちゃ真っ当な意見を学校のなんでもご意見箱にぶちこんだ程度には酷いのである。無視されたが。何かその年の二年生の夏に、何故か全教室に蚊取り線香が無料配布されたが。
そうじゃねえよ…!!!
ひゅんっとボールが耳の横すれすれを通る。
ひいっ、こっわ! そしてくっさ!! 何かベタついてるのに砂利が付着して余計に当たりたくねぇー!!
うう、触りたくない、当たりたくない、持ちたくないとひいこら全力で逃げていたら、気付けば自軍コートには地味に運動神経のいい健太と無様に逃げ回った私、そして敵コートにはのらくらと避けるだけだった大神だけが残ったのである。
そして、只今敵の外側にボールが渡り、残り時間までの間に引き分けに持ち込もうとでもいうのか、健太と比べたら運動神経の悪い私がひたすら狙われているのである。
うひー、チャイムは…! チャイムはまだか…!! あと、五分……!! あ、無理。
「りこワンバン取れよ!」
「お前みたいに図太くないわ!! というかそんな余裕ないわ!!」
あんなヘドロボール持てるか!! 持とうとした瞬間当たるわ!!
復活制度なしなので、もうコートの外側でみんなやんや、やんやである。人口密度の落差と熱気がすごい。というかお前等だけ綺麗なままとか許さんという熱意と怨念も感じる…!
うひー、これが中世でおなじみの闘技場のリンチ式処刑方法とでも言うのか…!!
何だか転生してから様々な処刑方法を経験している気がする不思議である。気のせい…だよな…?
またもひゅんと足首でワンバンするボールに涙目でコートの中央白線付近に寄ると、大神が面倒そうというか、欠伸を噛み殺して暇そうに近くに突っ立っていた。
これが天国と地獄の格差社会…! 呑気そうな様子につい敵意と殺意が一瞬で湧いた瞬間である。
だが、私も大人、荒い息の中ここで閃くものがあった。
大神も絶対当たりたくないから最後まで避け切って残ったに違いない。そしてやる気のない二人が残ったのなら、大神が「飽きた」とでもツルの一声を上げればチャイムを待たずとも強制終了掛けれる筈…!
正直、今は健太がまだやる気を見せているから最後まで分からない感じで盛り上がってるだけなのだ。
つまり……
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