第5話
第五回
その五
「まったく、つまらない事件だわ。女子大生が放蕩遊びの果てに殺された。それも大金持ちの娘がよ。こんな事件は家族が自腹で調べて犯人をつかまえればいいんだわ。時間の無駄だわ。なんのネタにもならないわ」
石川田りかがぶつぶつと言いながら警察署の出入り口の階段を植え込みのけやきのにおいを嗅ぎながら降りて行くと向こうのほうからこちらに歩いてくる人間がいる。そのうちふたりの距離が縮まって石川田りかの目の前に来て止まった。白いシャツを着て女子高生のようだった。
「警察の人に話したいことがあるんですが」
「どんな用件」
「殺人事件のことなんですが」
「殺人事件って、どんなこと」
「石田川ゆり子と云う人が変死して、いったんは心中事件と云うことになったんですが他殺の疑いがかかって警察が再捜査をするという話を聞いたのでわたしの知っていることを少しお話したいと思ってここに来たんです」
「いいわよ。わたしについて来なさい」
女子高生は石川田が自分とたいして違わないのに警察の関係者だということを知って意外に思った。まして捜査一課の刑事だということは理解の範囲を超えていた。
石川田りかはその女の子を近所の喫茶店につれて行った。最初はこのアイドルそのものである女が捜査一課に所属していると云うことを信じなかったが警察手帳を見せるとようやく納得した。さらに
自分が橘大に捜査に行ったその人物だと言うと目を丸くして驚いた。石川田りかが女子高生だと思ったその女の子は実は女子大生で橘大とは違う一般の子弟が通う学校に行っていると言った。石田川ゆり子の行動範囲はきわめてひろいらしい。遊び人として夜の街を遊び回っている。彼女はまじめなほうだったが、石田川ゆり子と出会って交友関係が始まった。石田川ゆり子は同級生に対抗意識を持っていてなにかと持ち物や行動で張り合うことが多く、金持ちの子弟の集まる橘大の中では本当の友達がいないということだった。そして石田川ゆり子は夜遊びをよくやるが男にもよくもてたという話だ。それから彼女の口から決定的な話が出た。石田川ゆり子は中国人の留学生とつき合っているのは事実である。石田川ゆり子から現にそのはなしを彼女は聞いたし、ある日、彼女がその中国人と痴話げんかをしているの見たと言った。
それから石川田りかは石田川ゆり子の写真を最初に見たときから気になっていたことがあった。石田川ゆり子をどこかで見たことがあるような気がしたのである。その疑問がどうしても解けなかった。すると女子大生は意外だという顔をしてあらためて石川田りかが縁日の金魚のような表情をしているのを見つめた。
「なんだ。刑事さん、知らなかったんですか。見たことがあると思うのは当然ですよ。石田川ひかりというアイドルタレントがいるじゃありませんか。あの娘がゆり子の実の妹なんですよ」
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