第8話 ワカサギ釣り
黒のお姫様はいつも仕事をしています。
黒のお姫様はこの
…なのです。
「なかなか釣れませんね」
「本当にこんな北方でワカサギなんて釣れるの?」
「釣れるよ!事前に調べた分布図ではここに居る筈なんだよ!ね!黒のお姫様」
「…ウスリー川に生息していた報告はある。しかし、釣れるかどうかはそれとは別問題」
「そそ、釣りは忍耐。のんびり待つ事も大事だよ」
黒のお姫様は疑問に思いました。
そもそもなぜワカサギ釣りなどしているのだろうかと…
思い返してみれば数時間前…
『みなさーん、手が空いたので遊びませんかぁ?』
『私も丁度手が空いたわ』
『赤のお姫様はいつも手が空いてないかい?あ、私も丁度手が空いてるよ』
「…」
『黒のお姫様ー?』
「…」
『また無線封鎖してるのかな?』
「…」
『よし!それじゃあ今日は北方に行こうぜ!』
「…!?」
『わかったわ、それじゃあ黒のお姫様のお城に集合ね』
『りょうかーい』
「ちょっ…」
沈黙は都合の良い様に解釈されることは多々あります。
今回は何も反応を返さなかった黒のお姫様にも落ち度がありました。
そう思う事にしました。
そして数分もしないうちに全員集合地点に集結して何をするかと言う話になったのでした。
「しかしねぇ、黒のお姫様は釣りが趣味だったのかい?」
「………別に、観測しながら待ってるだけで良いから丁度いい」
「確かに、動かざるごと山の如しだからね黒のお姫様は」
「良くこんな退屈な事を何時間も続けてられるわねぇ」
赤のお姫様は既に飽きてる様でした。
「魚なんてね、水中に電気ショック流せば一発で取れるのよ?」
「………風情がない」
「そうだよー、効率化突き詰めたらそうなるけどさぁ。それってただの作業だよね?そっちの方が詰まらないんじゃないの?」
「うぐぐぐッ」
赤のお姫様は露骨に嫌な表情を浮かべると再び釣竿を握り直しました。
会話は無くなりあたりは時折聞こえる鳥の囀りなどの環境音ばかりになりました。
しばらくそうしてると…
「なんかさ、こういうのを自然を感じるって言うんだよねぇ」
と青のお姫様が言いました。
「自然と真逆の存在が何言ってるのよ。私たちは人工物でしょうが」
「だからこそだよ!人工物が自然と一体化できるってそれはとても素晴らしい事じゃない?」
「どうだか?」
「それにさ、かつては人間さんもこうやって自然を感じてたんだと思うと感慨深くない?」
「おもわなーい、前も行ったけど私は人類に興味なんてないのよ。今いない存在に思いを馳せる事に何の意味があるのよ」
「赤のお姫様は現実主義だね」
「合理的思考なの」
「その割には結構ガサツだよねー」
「うっさい!」
そして再び沈黙が訪れました。
「………」
黒のお姫様は考えます。
合理性とはかけ離れてるこの行動の意味を
先ほどはああ言ったが、実際のところ釣りなんて初めてやった。
そのこともそうだ。時折私たちは…特に青のお姫様は合理性からかけ離れた思考回路を形成する。
それは機械である私たちらしくない行為である。
なぜこのような矛盾が生じているのか?
しかし、自己診断プログラムには何のエラーも表示されない。
すなわちこれが正常と言う事なのだ。
これもマザーの仕組んだことなのか?
私たちは私たちが思ってる以上に異質な存在なのではないか…
そのあたりまで考えた所で思考が強制的に停止させられる。
恐らくこれは思考のループに陥らない様にするための仕組みが働いたのだろう。
思考の堂々巡りはメインプロセッサ過負荷をかけ消耗させてしまう。
「…っと?おーい?黒のお姫様ーおねむですかー?」
思考共生停止の影響で少しの間外部センサーが停止していたようです。
青のお姫様の呼びかけに顔を向けると
「竿引いてるよ!」
黒のお姫様は自分が持ってる竿を確認すると確かに竿がしなり負荷がかかっていました。
竿を引き上げるとそこには一匹のワカサギがかかっておりました。
それを見た青のお姫様は満面の笑みで
「ね!釣れたでしょ!」
と言ったのでした。
確かに非効率極まりない行為ではあるが、なぜか青のお姫様のその笑顔を見ているとそんな事はとても些細な事に思えてしまう黒のお姫様でした。
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