第5話 白のお姫様の一日


--------白のお姫様の場合--------



朝日が射す海岸線を走る一つの白い影がありました。

短い白髪を潮風になびかせ、顔色一つ変えずただひたすら黙々と走る影。

それは白のお姫様です。

日課となってる早朝ランニングの途中なのです。

西海岸を端から端まで走り終えると今度は拳や蹴りを繰り出し武道の動きを始めました。

これは青のお姫様が


「データ上で武術を習得ラーニングしてもそこに魂は宿らない…日々鍛錬を積むことこそ真の武術を極める事になるのだ!」


と言ったことが発端で白のお姫様はこれを日課にしたのでした。

ですが…


「ふぅ……まだ、魂ってのがわからないなぁ。魂って一体なんだろう?」


いまいちこの行為にピンと来ていなかったようです。

そもそも白のお姫様は他のお姫様と違いあまり戦闘行為を前提にされていませんでした。

武装と呼べそうなものは腰に取り付けられたマルチプルファングと呼ばれる物が八機あるだけで、青のお姫様や黒のお姫様みたいな換装機能は無く、赤のお姫様のような飛行機能もビーム兵器も搭載はしていません。

それを時折赤のお姫様が


「白のお姫様は戦闘ができないと?まさに貧弱ね!!」


と大笑いをする為悔しくて他のお姫様に相談したところ


「ならプログラムを後付けしたら?」

「…換装機能無くても武装も後付けすればいい」

「でも白のお姫様の所って武器生産ラインってあったっけ?」

「無いね」

「中央の生産ラインならマザーの許可取れば使えるんじゃない?」

「……申請中………申請が却下されました」

「なんでぇ?」

「…理由は開示されず。ただ不許可とだけ」

「うーん、じゃあ考えるだけ無駄かな?だったらかつて人間さんが使ってた武術を体得すればいいんだよ!」

「武術?」

「そう!武術!私たちは人間さんを模した身体つきをしてるからこれならいける筈だよ!」


そう言うやり取りがあり、現在に至ったそうです。


「でもなんで私のシステム根幹には戦闘に関するプログラムが無いんだろ…それに…」


白のお姫様は視線を胸へ下ろしため息をつきました。

そこにはほかのお姫様よりもはるかに大きい乳房がありました。


「マザーはなんでこんなもの付けたんだろ?結構邪魔になるんだよなぁこれ」


白のお姫様は他のお姫様と違い完全メンテフリーのボディな為オーバーホールなど体を分解するための仕組みを持たないのです。

そのため、その大きな胸を取り外して交換することができませんでした。


「まぁ、あるものは仕方ないか…」


ため息をこぼしながらあたりを見渡すと少し離れた所にデクたち--青のお姫様の所と違ってしっかりとした外装をもって見た目も整ってる--が白のお姫様の事を待っているのが目に入りました。


船の用意ができました


そうメッセージを受け取った白のお姫様は


「ありがとう、早かったね」


と言って労いました。

デクたちは一礼をすると通常業務に戻って行きました。

それを見届けた白のお姫様は桟橋へと向かいます。

そこには一機のデクとかつて人間たちが漁業に使っていた船が用意されていました。

白のお姫様はそれに飛び乗ると出発の合図を出しました。

すると船は桟橋を離れて沖へ出てゆきます。

目指す場所はかつて英国と呼ばれた島。

海峡トンネルは途中で崩れてしまっていた為現在は船でしか行き来ができないのです。

白のお姫様は上陸するとすぐに散策を開始しました。

その街並みはかつての栄華を誇るかのようにそこにありました。

それでも一部は崩れ去り瓦礫の山と化してる部分もあります。

白のお姫様はそれに近寄りあたりを調べ出しました。


「…………ここは経年劣化で自然と崩落してるけど」


視線を動かし今度は反対方向の建物を見る。


「あっちは間違いなく外力が加わって『破壊』されてる……」


白のお姫様は考えます。

人類が居なくなった理由を


「こんな市街地で大規模な戦闘があった?それが原因で人類は居なくなった?」


白のお姫様は他のお姫様にも協力してもらって各地の人工物の破壊状況の情報をもらっていました。

それとこの場の状況を照らし合わせて


「…世界各地に戦闘の痕跡はあるんだけど、ここは……この島の街だけは戦闘による破壊の痕跡は少ない。なんでだろう」


白のお姫様は首を傾げます。

恐らく人類は何かと戦い、敗れた為姿を消すことになった。

でもマザーは自らの行いを清算した結果だと言った。

それはつまり…

しかし、白のお姫様の思考はそこから進みませんでした。


「確証なし、情報不足」





日が傾き空が赤く染まる頃、白のお姫様は船から島を見つめていました。


「隠された真実はいつか公の下にさらされる…………でも私の求める真実は何処にある?」


白のお姫様は知りたいのです。





この世界の真実を…











  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る