第4話 お姫様たちの節分


「鬼は外ッ!」


青のお姫様は部屋に入って来るや否や、赤のお姫様に対して一握りの煎った大豆を全力で投げつけました。

それに対して赤のお姫様は顔を引きつらせながら


「…これは?一体何のつもりなのかしら?」


と言いました。


「これは極東の島国に伝わる伝統行事!豆まきだ!」

「……補足、旧日本国における厄払いの一種。豆を撒き、その後年齢の数だけ豆を食べる厄除けを行う。煎った大豆意外にも落花生を用いる地域もある。そもそも節分とは各季節の始まりの日の前日の事を指す。…つまり」

「私が聞きたい事はそうじゃないの!!」


赤のお姫様はたまらず大声を上げました。


「なんで私が豆を投げつけられなきゃならないのかを聞いてるのよ!」

「それは…赤いから?」

「赤ければなんで投げつけられるのよ?」

「…旧日本国において鬼とは赤鬼と呼ばれるほど赤いイメージが定着していた。他にも青鬼もそれと肩を並べる程有名」

「なるほど、じゃあそれを貸しなさい!」


赤のお姫様は青のお姫様から大豆の入った枡を奪い取るとその中の大豆を鷲掴みにして青のお姫様に投げつけました。


「わぁッ!何するのさ!」

「あんただって青鬼じゃない!鬼にはこうするんでしょ!鬼は外ッ!」


赤のお姫様は楽しそうに笑いながら青のお姫様に豆を投げ続けます。

枡の中の大豆がなくなるまで投げ続けると赤のお姫様は空になった枡を放り投げました。


「これで、厄払いは完了ね」

「うぅっ」

「…あれ?豆を年齢分食べるまでが厄払いじゃなかった?」

「年齢分?」

「私たちの場合駆動年数じゃないかな?」

「何それ?それじゃあ私は101粒も食べなきゃいけない訳!?」

「……私は109粒」

「私はなんと120だ!!」

「流石に多いね…私は50粒だね」


青のお姫様はお皿をテーブルの上に並べるとその上に豆を正確に並べて行く


「黒のお姫様は109、赤のお姫様は101、白のお姫様は50…っと」


お皿に並べ終えて全員が着席すると


「いただきます!」


その号令に合わせて全員で大豆を口に運ぶ。


「……味気ないわね」

「まぁ、煎っただけの大豆だからね」

「こんなので本当に厄払いになるの?と言うか、煎った大豆をぶつけるだけでやられる鬼って弱すぎじゃない?」

「確かに、そんな鬼ってガリガリのヒョロヒョロの鬼なんじゃないかな?」

「なんだ、ただの弱いものいじめじゃない」

「うぅっ、なんだか悪い事してる気分になってきた」

「青のお姫様…あんたが言い出した事でしょ!?」

「そんな弱いとは思ってなかったんだよ!」

「いや、少し考えれば分かるでしょ…」


そうしてお姫様たちは雑談をしながら豆を食べ終わりました。


「そう言えば、節分と言えば恵方巻って言う風習もあったらしいよ」

「恵方巻?」

「……旧日本国における風習の一つ。恵方を向いて無言で食べると縁起が良いとされる巻き寿司のこと」

「ふーん、なんで無言なのよ」

「………検索結果、諸説あり。不明」

「役立たず」

「まぁまぁ、デジタル技術発展前の資料なんてほとんど現存してないんだから仕方がないと思うよ」

「まぁ、そうね。情報は正確性が命なのにねぇ」

「私たちだって、データ上でしか歴史を認識できないじゃない。それが正しくても間違ってても『今』の私たちにそれを確認する術はないんだよ」


お姫様たちは目を丸くして青のお姫様を見ました。


「どしたの?」

「前々から思ってたけどあんたって時々普段の姿からは想像できない発言をするわよねぇ」

「そうかな?だったら最年長の威厳かな」


そう言って胸を張る青のお姫様に対して赤のお姫様はこういいました。


「ただのロートルのポンコツなんじゃないの?」

「酷い!!」


そうして今日のお姫様たちのお茶会は解散になりました。







  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る