第3話 黒のお姫様の一日


--------黒のお姫様の場合--------


黒のお姫様は月に一度、一時間だけメンテナンスのためにポッドに入ります。

それは、彼女には重大な使命があるからなのです。


黒のお姫様はメンテナンスポッドから出て近場の壁に掛けてある鏡を確認して自分の顔を見つめます。

そこには幼い人間の子供のような顔が映り毛先が黒くなっている水色の髪を軽く弄ったら、戦闘用のバイザーを下ろします。

その見た目はまるで一つ目モノアイの仮面をつけている様に見え、顔を完全に隠してしまいました。

青のお姫様曰く


「可愛い顔してるんだからもっと見せれば良いのに」


だそうです。

ですが、黒のお姫様は常在戦場。

いつ訪れるかわからない危機に対応しなければいけません。

なので常に情報を収集し精査しなければいけないのです。


まぁ、機械姫オートマタプリンセス達が再起動してからそれ程の危機に直面したことはほとんどないのですが…

黒のお姫様は『ハンガー』で装甲を身にまとうと外に出ます。

そこは雪の降り積もる銀世界。

あらゆる生物が生存に適さない過酷な土地でした。


黒のお姫様の一日は周囲の環境を観察し動植物の状態を調べる事から始まります。

ホバー移動をしながらすれ違うデクたち--青のお姫様の所と違って寒冷地仕様で重装甲--に指示を出しながら観測を続けます。



…………



静かです。

この土地は喧騒とは無縁でどこでも静かです。

それに黒のお姫様は殆ど喋りません。

お姫様にとっては電脳が直接処理をする為、メールも通話と大差がありません。

なので、黒のお姫様は必要なことは大体メールで連絡を入れるのです。

それゆえに黒のお姫様は疑問に思うのです。


何故発声機能が付いているのかを…


色々と思案を巡らせてはいつも結論に至らず思考中断してしまうので、最近は深くは考えなくなったらしいです。





日が落ち空に満点の星空が広がると、黒のお姫様はその星空を見上げます。

黒のお姫様はその星空を観測することが好きらしく、夜の間は時折その星空を見上げて立ち止まります。


…………?


どうやら何やらマザーから指令が入ったようです。

黒のお姫様はそれを承認すると急発進し雪原をホバー走行で駆け抜けます。

ふわふわの新雪を巻き上げながらしばらく走ると黒のお姫様の背面装甲がパージされました。

それから少ししたら黒のお姫様の後方から同じように何かが雪を巻き上げながら進んできました。

黒のお姫様はそれに接近しつつ速度を合わせてドッキングを行いました。

それは超長距離用のバスターランチャーを装備した背面装甲だったのです。

目的地に到達すると、両足をしっかりと接地し新しく装備した背面装甲に装備されたアンカーを地面に打ち込み体を固定しバスターランチャーを星空に向けて構えます。

一見して何も無いように見えますが、黒のお姫様の目にはしっかりと目標が見えていました。

それはマザーのセンサーからの情報も加味された正確な映像。

そこに映っていたのはなんと巨大な隕石でした。

その大きさは地表に落下したら地上に氷河期をもたらしかねない程の大きさです。落ちたら大変な事になります。

黒のお姫様は与えられた情報を頼りに標準を定め、ただ冷静にトリガーを引きました。

するとバスターランチャーから膨大な光の柱が星空目掛けて駆け上がり月明かりのだけの雪原を明るく照らしました。

その光が収まると、少し遅れて星空で大きな光が溢れました。

それからしばらくして星空に無数の光の筋が降り注ぎます。それは砕けた隕石の破片で届いた情報によればすべて大気圏の摩擦で燃え尽きるようです。

それを確認すると黒のお姫様はバスターランチャーを下ろし、とある音源ファイルを流し始めました。

そこからは、青のお姫様の歌声が流れていました。


「どんわなくろーずまあい あいどわなふぉーるすりーぷこずあいみすゆうべいぶ あんどあいどんうぉんみすしーんぐ」


黒のお姫様が以前同じように隕石を打ち落とした時に青のお姫様が


「隕石壊した時はこれを流すのが良いんだよ!」


と、力説された為それ以来打ち落とす度にこの音源ファイルを再生しているのです。

未だに何が『良い』のか理解はできてないみたいですが…

しばらくすると隕石の破片による流星群もおさまり、再び静かな星空が戻ってきました。


黒のお姫様はしばらくそれを眺めて再び仕事に戻るのでした。








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