承③ ただ愛によって 剣技発動

 バコン、ばきっ! バギバギバギ!!


「門が――!!」


 邪魔物が私たちを無視して、開いた門に向かって走る。門を必死に守っていた衛兵が襲われ、邪魔物の大群が街に入りこむ。橋を渡ったさきには、私の守るべきもの。


 おしまいだ、と誰かの声。救世主様、助けてと祈る誰か。そんなものいない、と私。


 伝説の愛されものがいてくれたら。そう誰よりも願っているつもりだった。でも、いるならとっくに駆けつけてきくれているはずじゃないか。


 いるかどうかもわからない人に、私は本気で頼るつもりだったの? そんなの――邪魔物より最低だ。


「――剣技発動。女神エーディンが与えしもの、それは力でも恐怖でもない。ただ愛によって、この黒き世界を変えよ!!」


 剣を地に突き立てる。聖剣の光が大地に伝わり、あたり一帯を白く包みこむ。広大な光がふくらんでいき、街もろとも覆う。放った剣技は強く光り輝き、邪魔物の大群を一瞬で浄化した。


 ふわふわと粉砂糖のような光が舞う中、邪魔物たちは静かな眠りについた。


「う……うおおおおーっ!! 隊長どの、ばんざーい!!」


 ものすごい歓声があがる。私は倒れる。声に驚いたわけではない。剣技を発動して、体力がすっからかんになってしまったのだ。


「ブラン様ばんざい、ブラン様ばんざーい!!」


「あなたこそ救世主様!!」


「愛は勝つんだーっ!!」


「くぅ……」


 だから使いたくなかったのに。愛によって世界を、なんて恥ずかしいセリフを言わなくちゃならない剣技は、私にとってできれば使いたくない奥の手だ。倒れちゃうし。


 まあ一番の理由は、剣技を使ったあとでまだ敵が残っていたら勝ち目がなくなるから、使うなら慎重に……ってだけなんだけど。でもそんなこと言ってられなかった。


 剣技を発動したことで衛兵は奇跡的に無事だった。邪魔物も消え、街も門が破壊されただけで済んだ。


 ほっとしたのもつかの間、都合の悪いことに記者がいて、私の剣技はしっかりメディアに目撃されていた。またも目立ってしまったのだ。

 みんなでこぞって私を称賛しようとするので、すぐさま仲間と逃げだした。


「やれやれ、いつもこうなんだから……こりゃますます平穏は遠のきそうだなあ」


 うなだれつつ、ふらふらの体で橋を渡る。お腹がすいた。パン屋さん、まだやってるかな……。


 自分と違って平穏な生活をしているであろうドーンのもとに向かおうと、私はなんとか守ったケイク・ケイクの街に帰っていった。

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