起① 女騎士ブランの空腹
「だ、誰か……助けて」
少女のか細い声が聞こえる。グルル、とそこに迫る獣のうなり声。
「ガォオッ!! ――キャンッ!?」
獣の腹に剣を突き刺す。聖剣によって浄化され、傷口から邪悪な力が出ていく。黒かった体が本来の色を取り戻し、凶暴だった獣はおとなしく眠りについた。
「ふう……大丈夫? ”邪魔物”は倒したよ」
「あ、ありがとう。騎士様!」
声をかけると、少女は私にお辞儀した。礼儀正しい子だなあ、と感心する。よく見ると服がボロボロで、体も細い。ここ数年、親を亡くして行き場のない子どもが急増していると聞いていたけど……。
「これ、私のだけどよかったら」
昼食用のパンをポーチから出して、少女に渡す。すると、
「さすがブラン隊長! 強いだけじゃなくお優しい。まさに完璧な騎士様だ」
「女神エーディンに選ばれし”愛されもの”だからなあ。俺たちとは格が違うよ」
という、仲間のいつもの称賛。私は苦笑い。
「う、あはは……見てたのね。って、私のことはいいの! それより、邪魔物がどんどん街に近づいてきてる。みんな、その子を街に連れ帰ったらすぐに任務に戻って。私も極秘任務の方に戻るから」
騎士団のみんなに指示を与えて一人になると、一息つく。これ以上べた褒めされないように急いで指示を出したけど、実際ゆっくりはしてられない。私は遠くの街を見てつぶやいた。
「――早く彼を探しださなくちゃ」
「うう……動けないよ。お腹すいたぁ……」
王国管轄の街ケイク・ケイクに着いたとき、私はもう動けなくなっていた。理由は明白、昼食用のパンをあげてしまったのが原因だ。
極秘任務の途中ではあるけど、さすがに休憩しよう。どこか、軽食を買えるところは……。
街を見回して、普段ひいきにしているパン屋さんを見つけた。早速入ろうとする。
「邪魔物が増えてるって噂、本当かしら」
「こわいわね……街まで来たりしないといいんだけど。騎士団はちゃんと働いてるのかねえ」
店の前で奥様方が話している。決してサボってなんかいないんだけど、これでは店に入りづらい。
通りすぎて、少し先の路地裏に別のパン屋の看板を見つけることができた。まるで隠れるようにひっそりと建っている。
いちかばちか、私はあまり繁盛してなさそうなそのお店で昼食を買うことを決めた。
「……やってないのかな」
ドアをくぐると、中には誰もいない。パンは並んでるけど、人の気配が全くないのだ。
「――おい、そこのお前」
「うわあっ!」
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