政治的ショートショート~パンデミック

 20XX年、日本では新しいウィルス性の病気が蔓延していた。

 その病気の特徴は、人から人への感染がしやすく、高齢者が特に重症化する、というものだった。人々は、衛生用品を買い漁り、あるいは買い溜めし、ネット上にはデマが飛び交い、不安な日々を過ごしていた。


 その頃――。

 議員宿舎では、内閣府特命少子高齢化担当大臣と、財務大臣が酒を片手に談笑していた。

「上手くいったなぁ」

「老人を減らして医療費と社会保障費を抑えれば、支出を大幅に削減できるぞ。これで財政赤字も縮小できる」

「経済産業大臣は、カゼだって? 彼も一緒に飲みたかったろうに」

「この話を聞いたら、カゼも良くなるだろう」


 そう、実はこのウイルス性の病気は、政府による高齢化対策、正確には高齢化に伴う社会保障費増大を抑制するための陰謀だったのだ。


 自分たちの立てた計画の成功を喜び、はっはっはっ、と高笑いしている彼らの傍らには、たっぷりのマスクと除菌スプレーと最上位モデルの空気清浄機があった。


 が、しかし――。

 数日後、国会内の70代の清掃員がその病気にかかったことが報告され、つられるように多くの政治家たちも病気にかかったことが明らかになった。おりしも、国会会期中。国会はパンデミックの温床として隔離された。

 若手政治家たちは、ここぞとばかりに老政治家たちを見捨てた。その中には、内閣府特命少子高齢化担当大臣も、財務大臣も、経済産業大臣も含まれていた。


 数年後――。

 老害政治家いなくなったことで、政治家の給料が下がり、選挙対策の無駄な地方への公金ばら撒きがなくなり、桜を見る会は無期限延期となり、国会で答弁ひとつできない大臣のために書類を作るための官僚の残業代が減り――実現した。




【あとがき】

 20XX年は2020年って入れて読んでいただいてもかまいませんよ? あ、もちろんこれはフィクションですがね。

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現代小話(ショートショート)集 黒井真(くろいまこと) @kakuyomist

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