第26話『破滅の日』
彼女、
あの破滅の日以降……。彼女はあの世界衝突のあった四月十日をそう呼んだ。
当初は五人の家や家族を失ったこの学校の生徒がここで生活していたそうである。
ここは女子高であると言う理由で一般人の避難場所には指定されず、他の人達は近くの小学校と中学校に避難していたそうだ。だが、それが悲劇を生んだ。
七月三日……。
いつもの様に小学校で行われている配給に向かった五人は、そこに避難していた人たちが突然いなくなったことに驚いた。自分たちが取り残されたと気付いたのは後になってからだったそうだ。
遠くから聞こえてくる銃声。最初は暴徒の仕業と思いこっそりと様子を見に行った。そして、見てしまった……。
〝ゾンビ〟 そうとしか形容できない歩く死体。
パニックに陥った彼女たちはこの学校に立てこもる事を決意した。
恐怖を押し殺し周囲から物を集めバリケードを築いた。避難所に指定されていた小学校に残っていた食料をかき集め持ち込んだ。
そして三日後。ついにこの学校にも五体のウオーカーが現れた。それから彼女たちの戦いが始まった。
いくら待っても現れない救助の手。それを待つ間に徐々に減って行く食料。何かの対策をしないといけない。
まず最初に彼女たちはウオーカーの歩みがそれ程早くない事に気が付いた。次に奴らに近づくと群がってくることにも気が付いた。そして作戦を立てた。
一人が二階に下り校舎の端で囮となってウオーカーを引き付ける。二人が反対側から梯子を伝って外へ出る。もう二人が梯子をすぐさま回収する。そして外に出た二人が街を逃げ回りながら探索して食料をかき集める。
探索はこの作戦を考えた谷一葉自らが率先して行っていたそうだ。そして、その作戦は当初、大変うまく行っていた……。
しかし、彼女たちは匂いを残すとウオーカーを引き寄せてしまうことを知らなかった。探索に行くたびに増えていくウオーカー共。それでも五十体くらいまでは注意深く行動して何とかなっていたそうである。
だが、次第に数を増やしたウオーカーの中に別の行動を取るものが現れ始めた。危ういシーンを経験する事も多くなった。そして、決断した……。約半年くらい前の事だそうである。
〝皆が避難していった西へと向かい、救助を呼んでくる。〟
ここに残り囮役をやるのは食料事情を考えて一人の方が良い。
それにその頃にはここのリーダーになっていた谷一葉が手を上げた。
「……それからは私はずっと一人で、ここで救助を待っていました」
「そうか、よく頑張ったな。もう安心していいぞ」そう言っておく。あとは俺が何とかする……と言う言葉は流石に飲み込んだ。別に格好を付ける為でない。彼女を安心させるために放った言葉だ。
「明日、日が昇ったら下にいるウオーカー共の駆除を始める」
「ウオーカー? あのゾンビの事ですか」
「ああ、歩く死体だからそう呼んでいるんだ……」しまった、本当はリルカに教えて貰ったのだがそれは黙って置く。
「駆除? 出来るのですか」
「ああ、そんなに難しくはない。明日になったらやってみよう」考えていることがある。もしそれが駄目でも上から石を投げ付ければ何とかなる。少しずつ数を減らせば良いだろう。
「はい……」
体力を使い果たしたようにぐったりし始めた谷一葉をテントに押し込み、俺はお湯を沸かしてお茶を淹れた。
「なあ、リルカ」俺はお茶を飲みながら呼びかけた。
(はい、何ですゆっきー)
「暫くはお前のことを彼女に内緒にしておこうと思うんだ。いいか」
(はい、別に構いませんよ。でも何故です)
「前にも言ったろこの世界には魔法は無い。この状況で教えるときっと彼女は混乱する」
(全てを話し、説明すればよいと思います)
「うん、でもそれはちょっと様子を見て……先ずは互いに人と成りを見せ合って信頼関係を築いてからにしたい」
(わかりました。私もバレない様に協力します)
「ああ、悪いな」
別に魔法を使える事を黙っておきたいわけではない。今は彼女に動揺を与えたくないだけだ。……本当のことを言えば気味悪がられないかが心配なのだ……それに多分五人がここで生活していたのは……。
それにしても、助けを呼びに行った仲間達は、無事辿り着くことは出来なかったのだろうか。これまで状況を見てきた限りでは、四人がちゃんと協力し合えばうまく逃げ果せる可能性は低くないと思えるが……。もしかすると実際には谷一葉との間に何かしらの問題があったのかもしれない……まあ、今は詮索する事はやめておこう。
俺は残ったお茶を飲み干し、余っていたブルーシートで簡易のテントを作り、そこで眠りに就いた。先ずは明日、下にたむろって居る連中を何とかしないといけない。
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