第23話『青葉区某所』
昨日は中々手ごろな建物が見つからず、最終的に青葉区内の集会所まで歩き、一夜を過ごした。
朝を迎えた俺は小麦粉でお焼きを作り簡単に朝食を済ませた。
本来であればそのまま生存者の捜索をしたいところだが、食料が心許無い。
――と言うよりそろそろお米を食べたい……。
塩や砂糖と言った調味料と片栗粉や小麦粉と言った原材料は比較的手に入りやすいのだが、米やインスタント食品や缶詰と言ったものはこれまでにほとんど見かけていない。恐らく食品として利用価値の高いものは最優先で探索されたのだろうと考えられる。
「今日は食料を中心に探索しようかと思ってるんだ」
(はい、それでいいと思います)
実際ここに移動してくるまでに、コンビニやスーパーを何件か探索しているのだが既に何もかも持ち出された跡があるだけで、目ぼしい成果を上げてこなかった。誰もが食料を見つけやすそうな所では最早発見することが出来ないのかもしれない。
――そうなると、やはり捜索の難しい場所……。高層マンションとかかな……。
そう考えて俺は十階建て以上のマンションが立ち並ぶ駅前へと移動した。
「あまり壊れていない……」第一印象はそれである。見える範囲で五棟のマンションが建っている。確かにどのマンションも上の方の階が崩れたり壊れたりしているが、都内で見かけた様に建物全体が倒壊した建物が見受けられないのだ。
俺は一つのマンションに近づき観察した。
明らかに都内で見た砲弾の様な横方向からの破壊痕が少ない……。そう言えば渋谷では地下鉄に及ぶほどの痕跡があったが、川崎に入るとそこまででは無かった気がする……徐々に少なくなっていたので気付かなかったのだろう。まあ良い。
俺はマンションの中へと侵入した。
ガラスが砕け粉々になっているオートロックの扉を抜けて、階段室へと入り込む。衝突後しばらくは人が住んでいたのだろう。あちらこちらにゴミが投げ捨てられている。
俺は階段を上がった。
しかし、階段室は十階で崩れていた。崩れた階段に太い木が刺さっている。俺は恐る々それに触れてみた。――金属の様に硬い……こんな木は見た事が無い……。
「リルカ、これが何だかわかるか」
(これはイルケルローの木です。別名は鉄鋼木と呼ばれ、生える場所の魔力が高いと樹皮が鉄より硬くなります)
――成る程、世界衝突の影響だろうこれが上空から落ちてきてここにぶっ刺さったと言う事だ。リルカの言っていた空から物が落ちてきたと言う話しと合致する。だとすると都内で見た破壊痕はやはり何か変だ……。俺が結界に守られている間に何かあったのだろう。
俺は階段室に垂らされていた消火用ホースを伝い上へと登った。大きく崩れた壁から風が吹き込んでくる。
(あっ!)突然リルカが声を発した。
「ん? どうした」
(この壁の穴の方角のずっと向こうにウオーカーが集まっている気配があります)
「危険はあるのか」
(いえ、距離があるので問題は無いようですけど何か少し変な様子です)
「何が?」
(んー、数のわりに魔力の消費が激しいと言いますか……動きが多いですかね……)
「それって……まさか生存者か!」
(生きてる人間の気配までは読み取れませんでしたけど、その可能性はあります)
「よし、すぐに確認に行ってみよう」
(はい)
俺は登りかけていたホースを滑り降り、階段を駆け下りた。そしてリルカの示した方角……北へ向けて歩いた。
多摩川を渡ってからと言う物、ウオーカーの数はぐっと少なくなった。これくらい遭遇格率が減ればうまく逃げ回って生き延びる事は可能ではないかと思っていた。俺は投擲用の小石を手にしたまま慎重に裏路地を歩き、広い通りに出た。
そして、そこに合ったのは女子高だった……。
所々壊れたフェンスに覆われた広いグランド。その向こう側に見える校舎の周りにウオーカー共が徘徊している。数はおよそ百体前後。確かに何かに引き付けられるように密集して歩き回っている。人が居るとすれば校舎の中か……。
「リルカ、中に人はいるか」
(……すみません、良く判りません。居るとしても相当に弱っているのかもしれません)
リルカによれば魔力とは生命エネルギーの一種だと言う。それが確認できないほど弱っていると言う事は相当にヤバい状態なのかもしれない。もしかすると、最早遅きに……と言う可能性もある。
しかし、百体ともなれば俺の肩もそうだが魔力も心許無い。魔力は使い過ぎるとドッと疲労感に襲われる。全てを排除するのは難しい。
――さて、どうするか……。
ここから見る限り校舎の一階部分にはウオーカーが入り込んでいるが、二階に動く物は見渡せない。
校舎周辺に密集している奴とは別に周囲を歩き回っている個体が十体。どうやらこの十体を排除すれば校舎に取り付くことは出来そうだ。
「リルカ、先ずは周囲を歩いてるウオーカーだけを殲滅する。その後一気に建物に近づきエアウオークで二階へジャンプする。できそうか」
(はい、了解です)
「よし、それじゃ開始だ」
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