第2章 終末世界の探索者
第21話『川崎市』
川崎の街へと入った俺達は近くに建っていた団地へ入り、そこで魔力の回復に努める事にしたのだった。
その団地で建物の約半分が倒壊している五階建てのマンションを見つけそこで休むことにした。そこを拠点に周辺で食料と必要な物資を調達し俺達は三日間を過ごした。
目覚めてから初めての安息の日々だった。いや、実際にはウオーカーには幾度か遭遇したがその都度排除して置いた。正直今の俺なら十体以下なら何の苦も無く倒せてしまう。むしろ投石時の二次被害で壁や建物を壊す方が問題になりそうだ。
この休息の間に魔法の練習もしておいた。と言っても現時点で使えるのは 〝清らかなる風〟 の聖句・
そして、このブラストの魔法はずいぶんと俺なりのアレンジが加わっているとの事だった。リルカと色々話した結果どうやら元はリルカの風の加護に含まれる 〝飛矢の加護〟 を真似たと言う結論に達した。あの時、必死で石を投げ発動したリルカの加護を俺が読み解き、自分で真似て魔法を発動させたと言う事らしい……。大変な事になった。
リルカは 〝魔法は精霊様の賜物〟 と持て囃しているが、恐らく本質はそんなものでは無い。俺の想像が正しければ、これはもっとおぞましい何か別の力だと思う……。やはり、魔法は人に知られない様に気を付ける方が良いだろう。
それに……。
この年で他人から魔法使いなどと呼ばれると別の事をイメージされてしまいかねない……何せ俺には妻も恋人もいないのだから……。――兎に角この魔法は他人に見られない様に気を付ける事としよう。
俺は崩れたマンションの一室でクッションを抱き横になった。
この三日の間にリルカには例の風の大精霊シルフィーネスのことも聞いてみた。
どうして彼女はこちらの世界にやって来たのか……。“わかりません” がリルカの答えだった。
世界衝突の後気が付くと高位の精霊たちを引き連れてどこかへ消えていたと言うのが実情の様である。その行方は妖精達のみならず監督役の下位精霊たちも知らなかったそうである。
そして探索が始まった……。
動揺を抑える為事実は一部の妖精のみに伝えられた。世界の情勢を探ると言う名目で妖精たちは世界中に散って行った。勿論シルフィーネスの直下の最年少眷属であるリルカはその事に最初から気が付いていたそうである。
結果わかったのは世界の状況と、そしてアーヴに居た全ての大精霊と高位精霊の喪失の事実だった。
光・闇・土・水・風・火・氷・木の八大精霊とその眷属の高位精霊の全てがアーヴの世界から消えていた。
以前に少し聞いた疫病の蔓延だけではなく、実際には管理者の居なくなったアーヴの世界では様々な綻びが出始めてきているそうである。未知の疫病の蔓延・庇護の離れた獣たちの反乱・人族同士の戦争・そして、魔力の弱体化……。
このままではアーヴは滅んでしまいかねない。そう考えたリルカは心を決めた。
〝禁忌を侵す〟
本来は何人も立ち入りを禁じられている 〝風の精霊宮〟 。そこへシルフィーネスの伝令兵として生を授かったリルカは特別な能力を使い侵入した。そしてようやく痕跡を見つける。
精霊結界の中へ残されたシルフィーネスの肉体。それと、地球へと通じるゲート。
病に侵され動けなくなりつつある自分の肉体を精霊結界の中へ置き、リルカは一人ゲートをくぐった……。
以上がリルカから話を聞きまとめたものである。
結局、風の大精霊の目的は判らない。新たに他の精霊達が地球に来て居る事が判明した。一体何故?
どうにも、知れば知る程判らない事が増えていく感があるが、取り敢えず明日は日の出と共に横浜へと出発する。先ずは生活の安定。次に生存者の探索。そしてそれから情報を集めて精霊探しを行うつもりである。
俺はブランケットを被り目を瞑った。
「お休み、リルカ」
(はい、おやすみなさい、ゆっきー)
静かに夜は更けていく。
翌朝、夜明けとともに起きた俺はすぐに朝食を食べて、一路横浜へ向けて出発した。
ウオーカーとの遭遇を避ける為なるべく狭い道を通って南西方向へと向かう。正直に言ってしまえばリルカの魔力探知と風の探知があれば不意の遭遇もあり得ない。もし仮に取り囲まれたとしても突破口を開いて逃走するのは容易い事だ。問題があるとすれば俺の肩だろう……。
何せ投球するのは高校の授業時以来のことなので、もう既に肩が張っている状態なのだ。かと言って球速を落とせば途端に魔力の消費が跳ね上がる。流石に歳は取りたくないものである。
「サイドスローにでも転向しようかな……」ベテランピッチャーの様な事を言ってみた。
(え? 何ですそれ)俺の呟きにリルカが質問を返す。
「いや、ピッチングフォームを変えようと思って……ほら、肩を痛めると石が投げられなくなるからさ」
(だったら弓矢を使えばいいと思います!)
「弓矢か……」何故こいつはこんなに弓矢押しなのだろう……。相当に好きなのかな?「考えて置く」
(はい!)嬉しそうにリルカは答えた。
とは言ったものの正直、弓も矢も作るのはめんどくさそうだ。作ったら作ったで練習も必要そうだし、メンテナンスだって必要だろう……。作るのはもう少し生活が安定してきてからになるだろう。
俺は自宅と職場のあった横浜を目指し歩いた。
神奈川県横浜市都筑区。
どうやら、無事横浜の街へと戻ってこれた様だ。俺の職場のあった神奈川区まではあと少し……。
そして、俺は愕然とした。
横浜の街は見事に消えていた……。
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