第11話!


 この世界にもウィッグやコンタクトがあるんだー?

 ……え? それを付けるの? 私が? なんで!?


「はい、実はミスズ様のような黒髪と黒い瞳は王族の方々の特徴に当てはまってしまいますの。アルバート陛下は瞳の色こそ違いますが、フレデリック殿下やジョナサン殿下はまさしくその特徴をお持ちですわ。それに、今でこそ王族の方々の特徴となっていますが黒髪と黒い瞳は幻獣族の方々が人に化けた時の特徴でもあるそうです。もし万が一幻獣信奉者などに見られて勘違いされてしまったら……。ああ、恐ろしい……! ミスズ様の身が危ないですわ……!」

「ええ、変なトラブルに巻き込まれてしまうかもしれないんです。例えば王族関係の者と誤解されて、王族の方々へご迷惑をかけてしまうかもしれませんし、幻獣信奉者は幻獣を食らえばその力を得られるという危ない思想の方々ですから……」

「は、はい! だいたい理解しました! ウィッグかぶります! コンタクトつけます! なんなら髪染めます!!」


 く、食われる!?

 貞操的な意味ではなく、食肉的な意味で!?

 ひいいぃ! 絶対嫌ァァ!

 それって完全に死亡フラグじゃなーい!


「昨日買い物してる時にそーゆー危ない連中に目、つけられてないといいですよねぇ。王都はいろんな人が集まりますからぁぁ……もう勘違いされてたりして~ぇ」

「こ、怖い事言わないでよ!?」

「ともかく、ミスズ様がご了承くださって良かったですわ。それでは早速ウィッグやコンタクトのお色をお選びいただきましょう!」


 パアァ、っと明るく微笑むエルフィ。

 うーん、この圧倒的ヒロインオーラ!

 ……まあ、我が身の事だからちゃんと考えないとよね。

 なにしろ命がかかってるし!

 それにしても魔力や魔石の使い方やら、ウィッグやコンタクトを選ばないといけないとか、来日二日でなかなかハードね。

 ゲームの話も地味に流れちゃうしぃ。


「では、エルファリーフお嬢様はミスズお嬢様の魔石を使う練習を見て差し上げて下さい。わたしはウィッグやコンタクトの見本表をお持ちしますね」

「分かりましたわ、任せてください」


 あー、そうよね、まずは魔石使えるようにならないと。

 日常生活が出来ない、のよねぇ。

 マーファリーが立ち去ったあと、エルフィが赤い六角形の魔石を取り出す。

 いつ見ても綺麗な石よねー。

 あと、高そう。

 その石へエルフィは手をかざす。


「簡単な風魔法を込めました。本来『土属性』しか使えないミスズ様には対極の魔力である『風属性』の魔法は使えません。つまり、この魔石をきちんと発動出来ればミスズ様が魔石を使えたという事になりますわ」

「なるほど……分かったわ」


 確か一人一つの属性しか使えないのが普通、なのよね。

 魔石を使えば相反する苦手属性の魔法でも使える。

 ん? じゃあ……。


「ねえ、エルフィ。苦手な属性以外の魔法って、練習すれば使えるようになるの?」

「はい。例えばわたくしですとどう頑張っても『土属性』は使えないんですが、それ以外の属性なら鍛錬すればなんとか使える様になります。ただ、才能にもよります。元々複数属性を扱えるのなら力も伸びやすく、苦手属性以外も扱い易くなるのですが……元々一つの属性しか持たない場合は複数属性を持っている方の数倍から数十倍の修練と時間が必要になるそうですわ」

「え、ええ~……」


 つまりその辺りも生まれつきの才能が関係するのかぁ。

 ハクラやドS騎士ってば、本当にチート野郎なのね……。

 ナージャが憎々しげに説明していた理由がよーっく分かったわ! 素直にずるい!


「勿論、体内魔力量の多い体質の方のように全ての属性を使う事が出来るようになるのは、複数属性を持っている方でも不可能のようですわ」

「なにそれずるーい……」

「ですよねぇ……生まれた時から差をつけられてると思うと……理不尽って感じですよねぇ」

「まあ、ナージャいけませんわ、そんな言い方をしては! 魔獣になってしまいますわよ?」

「うっ」

「? え? 魔獣って……」


 昨日言っていた人間とかの邪なものから生まれるっていう?

 魔獣に、なる? どういう事?


「あ、そうでしたわ! これも大切な事ですからお教えしておきませんと。……昨日申しました魔獣というものは、邪な感情、負の感情などが蓄積されるとその感情を持つ人間やそれが撒かれる事で影響を受けた動植物が怪物になる事です。そう簡単に魔獣化する事もないとは言いますが、心が病んでしまうと視野が狭くなり魔獣化し易くなるそうですの」

「……え……っ、つ、つまり魔獣って人間が怪物になる事なの!?」

「はい。悪い感情がなければ、なる事はありませんが……」


 ……わ、私の『乙女ゲーム計画』ってよ、邪じゃない?

 だ、大丈夫かしら?

 けど今のところ別になんともないし……そ、それに私はただエルフィやマーファリーに幸せになってもらいたいだけだし!


「ですが、もし魔獣化してしまっても大体は騎士団や勇士、傭兵の方々が助けてくださいますわ。負の感情は誰しも持つもの! もしお悩みがありましたらなんでもお話しくださいね! わたくし、必ずお力になる事をお約束いたしますわ!」

「そ、そう……あ、ありがとね」


 私もエルフィの恋を応援するわ!

 ……とは、エルフィの始まってもいない恋を応援するわけにもいかないのよねぇ。

 いや、絶対エルフィは運命の人と出会うはずだけど!

 っていうか、私が出会わせるし攻略させるわ!

 ……それにはまず攻略対象っぽい男子をもっと探して――……。


「魔獣化についてはご理解いただけましたか?」

「え? あ! ええ! 大丈夫よ!」


 多分。

 まあ、またわからない事があったら聞けばいいわよね。


「では、気を取り直しまして魔石の使用練習をいたしましょう」

「あ……そうね、そうだったわね」




 ****




 ……とりあえず、エルフィの封じ込めた超簡単な風魔法を取り出す、という私のノルマはこの日クリア出来なかった。

 意外と難しかったのと、途中でマーファリーが色見本帳を持ってきたのだ。

 ウィッグとコンタクトを選んでおかないといけないのよ。 外出時に装備しないとならないから。

 ……命がかかってるし、仕方ないわ!

 でもこれがまた選ぶのが楽しくて楽しくて……ついつい盛り上がっちゃったのよね。

 お昼ご飯もすっごく美味しくてお代わりまでしちゃった……!


「ミスズお嬢様、それでは明日のご予定をたてましょう」

「明日の予定?」


 なにそれ、すごいゲームっぽい!

 一日の終わりに……といってもまだ夕飯前だけど~……部屋に戻ってまったり中に明日の予定を立てる!

 定番よね!

 マイパラメータを上げて攻略対象の好感度もアップ!

 それにしても、マーファリーったらまるでサポートキャラみたいなセリフ……あなたはヒロインなんだから、そんな事しなくてもいいのに。

 ……あ、でもマーファリーは職業メイドだっけ。


「はい。まず優先すべき事は二つ。魔石を使用するべく魔力の練習。ウィッグとコンタクト、または髪を染める。それ以外ですと、文字のお勉強、この世界のお勉強でございますかね」

「ええ……勉強~……」


 あんまりやりたくないな~。

 私、勉強するのが嫌だから高卒で就職したんだもーん。


「ですが、この世界について知らないというのは危険を知らない事と同じ事です。それに、通訳魔法はありますが文字は練習しないと書けないんですよ」

「通訳魔法なんてあるの? へぇ、便利……」


 ……あれ? でも、そういえば……。


「……私、普通にマーファリーと話してるわね……?」

「はい?」

「いや、だってほら、どう考えても私のいた世界とこの世界って全然違うじゃない? 言葉も……。……どうして最初から私、この世界の言葉が分かったのかしら? ……いや、全然助かったけど」

「……そういえばそうですね……? それに、今日魔力についてお勉強されている時も普通に文字を読んで理解しておられましたし……?」

「そういえば……」


 マーファリーが見せてくれたタブレットみたいなやつから浮き出た文字……読めてた……なぁ?

 どういう事?


「……夕食の時にエルファリーフお嬢様やユスフィーナ様にお伺いしましょう。……それで、明日のご予定はどうなさいますか?」

「あ、そうだったわね。……うーん、やっぱり魔力の使い方が優先よね。でも、髪をなんとかしないと出かけられないんでしょ?」

「かしこまりました。それでは明日の午前中は魔力の練習。午後は髪の染色とウィッグ、コンタクトのお買い物にいたしましょう」

「うん、そうするわ。よろしくね」


 なーんてやってると私が乙女ゲームのヒロインみたいだわ。

 ははは……もう、勘違いしないように気をつけないと…………。


「……ミスズお嬢様」

「? なぁに?」

「……ありがとうございます」

「……へ? なにが?」


 突然マーファリーが微笑みながら私にお礼を言う。

 首を傾げる。

 私何かお礼言われるような事したかしら?


「エルファリーフお嬢様の事です。……お嬢様はユスフィーナ様が領主になられてから、一緒にいる時間が減ってしまった事で元気がなかったんです。ですがミスズお嬢様がいらっしゃって、エルファリーフお嬢様は大変楽しそうで…………」

「……え……」


 あのエルフィが?

 ……そ、そうだったんだ……。


「こんな事を言うのは不謹慎だと分かっているのですが……ミスズお嬢様が来てくださって良かったです」

「……そ、そう? ……そ、そう……へへへ、私なんかが役に立ったなら良かった」

「はい」


 昨日は買ったばっかりの乙女ゲームの事しか頭になくて、早く帰りたいとしか思えなかったけど。

 うーん、今更だけど……私ほんっとーに異世界に来ちゃったんだなぁ。

 実際魔法見ちゃったし。

 でも、正直不思議と不安とか不満は、ない。


「……いや、やっぱりお礼を言うのは私の方かも」

「え?」

「だって異世界よ? 異世界来たのに……私、ワクワクしてるの」


 あなたやエルフィをイケメンと恋に落とせると思うと!


「不安とか全然なくて、こうして綺麗で豪華な部屋とかタダで借りられるし、ご飯は美味しい! マーファリーは優しいしエルフィは可愛い! これって幸せな事でしょ?」

「お嬢様……」


 予約してようやく手に入れた乙女ゲーム『覚醒楽園エルドラ』は出来ないけど……ある意味それ以上のゲームをプレイする事になったんだから!

 頑張るわ、私!

 だから私に任せてね、マーファリー!

 エルフィとユスフィーナさんも!

 あなたたちは、私が必ず幸せにしてみせるわ~~!!



  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る