side騎士
コツ、コツ、とブーツの音を立てて歩く。
そしてある一室の前で歩みを止め、扉を叩いた。
どうぞ、と言う声に扉を開くと黄土色の髪と瞳の騎士が庶務机から頭を上げた。
「やあ! ハーディバルくん! 今日初めて会ったな! おはよう!」
「もう夜です。近隣迷惑だから大声はやめやがれです」
ベシッ! と、ハーディバルは十数枚の紙の束を机に叩きつける。
それを手に取った騎士は笑みを深めた。
「昨日の異世界からの誤召喚事件の報告書だな! ありがとう!」
「……いいからさっさと目を通せです」
「ふむふむ……。……………………」
パラパラと一通り目を落としていた騎士は、あるページで手を止める。
写真の少女をじっと見つめ、ハーディバルを見上げた。
「で、処理はどうするつもりだね」
「そうですね……僕個人としては処罰をしたフリをして泳がせながら裏で調査をするつもりでしたが…………やっぱりあんたも気になったんです?」
「うむ! ……この少女……ナージャ・タルルス……」
ナージャの写真のページを開いたまま、報告書をテーブルに置く。
その様子にハーディバルも鋭い眼差しを向けた。
ハーディバルにこの『騎士の第六感』なるものを教えてくれたのはこの男。
自分一人の感覚ならば、杞憂で終わらせても良かった。
しかし自分より遥かにその嗅覚に優れたこの男が同じところに反応したとなれば話は別。
「なんだかよく分からんが気になるな!」
「では、カミーユ副団長にあんたの名で正式に調査を依頼してもいいです?」
「ああ! 構わない!」
「……それと、これ関連でもう一つ」
「?」
「この娘が持っていた魔導書の件です」
「ああ、調査は依頼してくれたのだろう? 何か分かったのか?」
ナージャが持っていた、魔導書。
古代文字を使用されたものでありながら、紙の本という形のそれはその文字の時代を思えばありえない。
ハクラの指摘もあり、違う角度からも調べてもらったが案の定。
「『写し』のようです。つまり偽物」
「偽物? ……ふむ、古代魔法の魔導書の、偽物か……。確かあるはずの解除の魔法が載っていなかったのが奇妙と言っていたな」
「ええ。古い、危険度の高い魔導書に『写し』は良くあるものです。解析したものを紙に移し替えて遺す、と言った類でもないでしょう。例えそうだとしても恐らく相当ヤバめなものがこれのオリジナルには載っていると思うです」
「……そうか……。なら『図書館』の禁書庫にもそれのオリジナルがないか調べて……」
「ありませんでした。娘の話が本当なら、ユスフィアーデ家の書庫にあったとの事ですが……正直疑わしいので明日にでも調べに行くつもりです」
「ふむ……。君が自ら出向くのかい?」
「僕が行った方が早いというのもあるですが…………ユティアータ付近の魔獣の目撃報告が多いのでそちらを処理して来ます。……どうもあの地方は最近魔獣が多い」
「そのようだな……。あの町もかなりの大きさだ。勇士や傭兵は雇っているはずなのだが……」
「領主が変わったばかりで手が回っていないのかもです。その辺りも確認してくるです」
「頼む」
話は終わり、一応形式上頭を下げて踵を返す。
そして扉のノブに手をかけた時に思い出したように振り返った。
「ランスロット団長、殿下や陛下は異界の者の事をなんと?」
「うむ……陛下はご興味がないようだったが……あの方がなぁ……」
「…………………………」
両手で顔を覆ったランスロットにハーディバルも顳顬(こめかみ)を抑え込む。
陛下が興味を示さなくとも、歳の割に好奇心が衰えない“あの方”は必ず興味を示すだろうなぁと……まあ、大体の人間は察していた。
そしてそんな“あの方”の次に取るであろう行動も。
「……力が完全に戻るまでは大人しくしていてくださいと、兄が何度も何度も何度も何度も申し上げているのに……です?」
「……すまないが万が一見かけたら釘を刺しておいてくれ……」
「……連れ戻すの諦めるの早すぎです」
「連れ戻してくれるのか?」
「……とりあえず兄様にチクっておきます」
「……頼む……」
まあ、無駄だろう。
そんなのみんな分かっている。
“あの方”の放浪癖は筋金入りなのだ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます