第10話!


「さて、ミスズお嬢様。魔力については理解を深めていただけましたか?」

「え? ああ、うん、それなりには?」

「では、早速ミスズお嬢様の魔力属性を調べてみませんか?」

「! 私の魔力属性!」


 なにそれー!

 あ、いやそっか、みんな一人一人得意な属性があるものなんだもんね!

 ……気になる……私の得意な魔力属性……!


「知りたいわ! どうやって調べるの!?」

「こちらを使います」

「……?」


 マーファリーが取り出したのは、砂時計のようなもの。

 でも別に中身は入っていない。

 なに、これ、砂を入れ忘れた砂時計?

 いやまあ、中が空洞の丸いガラス玉が二つくっついてる……みたいな感じだけど……。


「まずは、上のガラス玉の中へ魔力を溜める練習からです。お嬢様ならすぐに出来るようになりますわ」

「? 魔力を溜める?」

「はい。上の段、こちらの中に、自分の中の魔力を取り出して溜めるのです。これが出来れば自分の魔力属性を調べてるだけでなく、魔石や魔力を使う練習も同時に行えるのです!」

「へ、へえ? なんで下も空洞のガラスがあるの?」

「溜めた魔力の性質を調べるためです。ええと、そうですね。普通の人間は一人につき一つだけなのですが、稀に複数の魔力属性を持っている人もいるんですよ」

「それって、容量が大きい体質って事?」

「それも分かりますし、容量の多い方以外にも魔法に才覚のある方は生まれながらに二つの得意属性がある方もいらっしゃるんですよ」

「へぇ〜!」


 なにそれ素敵!

 ワクワクしてきちゃうー!

 ……異世界から召喚されたヒロインが特別なのはデフォルトだし……もしかして、もしかして私も複数の得意属性があったり……チートな体内魔力容量だったりするのかも……!!

 それでそれで……「すごいですわ、ミスズ様は魔法の才能がありますわ!」みたいな事になって、あれよあれよとすっごい魔法使いになって、困っている人をちょちょいのちょいっと助けていたら王子様に呼び出されて……!

「よくやってくれましたね、あなたのおかげでこの国は救われました。あなたこそ僕の妻にふさわしい……」みたいな事に……!

 きゃ、きゃーーー!


「………………なんか一人妄想の世界にはいっちゃってますよぅ」

「ミスズお嬢様、戻ってきてください」

「うふふ、自分の属性魔力を調べる方ってワクワクするものなのでしょう? 楽しそうで羨ましいですわ。わたくし、物心ついた時にはもう自分の属性が分かってしまったんですもの〜」

「……そういうワクワクにはみえないですけどぉ……」


 マーファリーに揺すられて、妄想の世界から戻ってきた私はとりあえず緩む顔を誤魔化しながら例の器具を手に取る。

 これに魔力を込める……魔力を……。

 うーん、でも、具体的にどうしたらいいの?


「どうなさったんですか? ミスズ様」

「え、いや、どうしたらいいのかなーって」

「上下のガラス玉の部分に手を添えてくださいお嬢様。両手で挟むように持って……」

「ふむふむ?」

「目を閉じて集中して……自分の中に魔力があるとイメージをしてください。そのガラス玉の中に自分の中の魔力を注ぐイメージです」

「……うーん、分かった、やってみるわ」


 何ごともチャレンジよね!

 マーファリーに言われた通りに丸いガラスを両手で挟むように持ち、イメージをする。

 イメージ……ふ、ふふふ……イメージは得意よぉ〜。


「! ……この魔力の色は」

「『土属性』ですねぇ」

「え! どれどれ!?」


 私がウンウン唸って約五秒後、マーファリーとナージャが呟いた。

 目を開けて確認すれば、両方のガラス玉の中にほんのり茶色に光るものが溜まっている。

 ……下の方に沈殿してる……が、正しいかな……?


「……な、なんか地味……」

「ホントですねぇ〜。『土属性』なんて極々一般的でいかにもって感じでお似合いすけど〜」

「どういう意味よ!?」

「ふふふ、これでお嬢様の得意な属性が判明いたしました。これからお嬢様が学ぶべき方向も定まったというものですわ」

「……学ぶべき方向?」


 どういう事なの?

 ニコニコするマーファリーを見上げる。

 まあ、なんつーか、属性が分かればどういう方向で魔法を学ん出来たいかが分かるらしい。

 もちろん、エルフィのように嗜む程度で専門的に学ぶ事をせず、魔石を動かせる程度の魔力の使い方だけを覚えてもいいみたいだけど。

 でも、せっかく魔法が使える世界に来たんだし、魔法、使いたーい!


「『土属性』は、戦闘ならば攻守に優れ、特に守りに特化したものが習得可能となります。日常的なものならば植物を育てるのに向いてますね」

「戦闘って、こんな地味オンナが出来るわけないっつーの……うぉっほん! ……わぁ〜! じゃあミスズお嬢様は農家なんかが向いてるって事ですねぇ〜」

「…………………………」


 ……この猫かぶり小娘、私にだけ聞こえる音量できっちり呟いてくれやがったわね……!

 しかも『農家』の部分めちゃくちゃ強調しくさりやがっってえぇ〜〜っ!

 い、いや、そんな事よりも……!


「ね、ねえ、マーファリー。私の魔力って『土』だけなの? 複数属性とかじゃなく?」

「え? はい。お嬢様は『土属性』のみですね」

「………………そ、そう……」


 まあ、現実なんてそんなもんよね……フフ。


「ですが『土属性』にも大きく分けて二種類ございます」

「え?」

「一つは本当に『土』、つまり大地から大地の魔力を借り受ける方向に特化している場合。もう一つは大地の魔力を『植物』へと与える方向に特化している場合です」

「どちらも戦闘用の魔法がありますが、植物への作用が大きい場合はナージャのいう通り農業やガーデニングなどが向いていますわね。あ、薬草やハーブを育てるお仕事もございますわよ。『土』の魔力は植物へ成長を促したり、元気にさせたりする力がありますの。魔石にそういった魔法を封じて、肥料として使う事が一般的ですわ」

「………………そ、そうなんだぁ……」


 本当に地味だな……。


「植物のお医者様もほとんどが『土属性』の魔法使いなんですの」

「へ、へー……」


 ごめんね、エルフィ……あなたの笑顔がとても可愛いのに私の心はあまり感動しないわ……。

 植物のお医者さんって……地味……。

 うーっ、どうせなら攻撃系のド派手なやつを使ってみたい!


「それで、どっちに特化しているのかはどうしたら分かるの?」

「実際にミスズお嬢様がガラス玉へ溜めた魔力を大地に与えてみるんです。そうすればすぐに分かりますよ」


 なるほど!

 と言うわけで、私たちは全員庭へと出る。

 そしてキャップの部分を外して魔力を大地へと垂らしてみた。

 なんか、変な感じだけど……あっという間にガラスの中身は霧散して消えてしまう。

 え、消えたけど……どうなるの、これ!?


「!」


 ぽん!

 ……と、庭の芝生の……魔力を垂らした部分がやたらと成長し始めた。

 つまり……?


「……やっぱり農家向きみたいですねぇ」

「ぐっ」


 ……現実なんてそんなもんよねーーー!

 私の魔力は、つまり『植物』に作用するタイプの方、と………………そう言う事なのねー!

 ……乙女ゲームみたいになんかこう、特別な魔力ー! とかですらないと!

 はあぁ……私の野望は所詮幻想……いや、妄想……。


「平和的な魔力ね……」

「はい、素敵ですミスズお嬢様!」


 しょんぼりする私を他所に、満面の笑顔で頷いてくれるエルフィとマーファリー。

 ……そうよね、乙女ゲームのヒロインはこの子達だもの。

 私はただのプレイヤー。

 私の魔力なんてどーでもいいわ。

 気を取り直して当初の目的を果たそう!


「まあ、魔力は使えるようになったから今度はーー」


 マーファリーとハクラの関係について根掘り葉掘り聞いてみたいんだけど!

 と、続けようとした私へマーファリーは元気「はい! いよいよ魔石を使ってみましょう!」と微笑んだ。

 ………………うん、当初の目的以前にそれが可及的速やかな目標だったわ。


「魔石が使えるようになれば通信端末も使えるようになります! 頑張りましょう、お嬢様!」

「通信端末?」

「これの事ですわ」


 なにやら新しい目標を唐突に打ち立てたマーファリーへ、私が首を傾げて見せるとエルフィがスマホのようなものを取り出す。

 コンパクトのように開いたそれは、やっぱり私の世界で言うところのスマホのようだ。

 電話のように遠くの人物と会話ができ、文書を送り、本やドラマや映画を観たり、ゲームをしたりって…………。


「それよーーーーっ!!!!」

「!?」

「はわ!?」

「え? え?」


 ハクラが言ってた、この世界のゲームってそれだぁぁぁあ!

 そうよ、私はそれがやりたかったのよ!

 ゲーム! この世界にもゲームがあるって!

 どんなゲームが出来るのかはお嬢様のエルフィに詰めて聞く事は流石の私も理性の残っている状態では出来ないけれど!


「ど、どうやって使うの!?」

「……? ええと、魔石と同じですわ。極々少量の魔力を流し込み使うものですの。ただ、遠くの相手との通信や魔文書は国民番号がないと使えません」

「そんなのどうでもいいわ!」

「え、ど、どうでもいいのですか?」

「ええ! 興味ない! 私が興味あるのは、ゲームだけよ!!」

「げ、ゲーム、ですか……」


 ハッ!

 つ、つい勢いのまま、欲望を叫んでしまった!

 詰め寄るのは耐えたのにこれじゃ意味ないじゃない!


「……ミスズお嬢様の世界にもゲームがあったのですか?」

「……え、ええ、色々あったのよ」


 色々、本当に、色々。

 その中でも私の生き甲斐は乙女ゲーム……!

 リアルを捨て、現実を忘れ、私はゲームの中の優しさだけを求めていた……。

 現実の男なんてキモいだけ!

 ゲームの中の男の人はみんな綺麗で優しくて……まさに女子の希望のそのもの!

 醜い現実より、虚無の幻想を私は選ぶ!


「……でも……わたくし、いつでもミスズ様とお話出来る方がいいなーって……昨日、ずっと考えていて………………だから……ミスズ様にも通信が使えてほしいですぅ……」

「やるわ」


 なんでもやるわ。

 エルフィがそんな事を言うんなら、私はゲーム以外でも通信端末使うわ。


「……まあ、連絡がいつでも取れるのは便利ですもの。その方がいいですよね」

「けどけど〜、通信を使うには国民番号がないとですよぉ〜? 亡命者は手続きすれば仮の国民番号が発行されますかどぉ、ミスズお嬢様はどうなんでしょうねぇ?」

「……そうですね……ミスズお嬢様は亡命者ではありませんものね……。エルファリーフお嬢様、ユスフィーナ様はその辺り、なにか仰っていましたか?」

「いいえ、なにも。けれど、今回の件は王族の方々の耳にも入ると言われましたの。恐らく、なにかしらのアクションはあると思いますわ」

「まあ、王族の方々に? ……ああ、でも異界からの誤召喚ですもの……そうなりますわよね……」

「……………………」


 この話は相変わらずナージャには居心地が悪いようだ。

 顔を背けて微妙な顔をしている。


「ですか、その辺りがはっきりしない事には通信端末は購入しても役に立ちませんね」

「ええ……。でも、物自体は買っておきましょう。いつでも使えるように」

「そうですね、国民番号がなくても使える機能はありますものね! ……時間を見たり……」

「ええ! ……写真を撮ったり! 動画を撮ったり!」

「えーと、あとは計算機として使ったり……あ! 懐中電灯代わりにもなりますよ!」


 ……うん、ほぼほぼスマホと同じね……。


「……通信端末もいいですけどぉ、ウィッグやコンタクトはどうするんですかぁ? 黒髪黒目は目立つって、ユスフィーナ様から言われましたよねぇ?」

「ハッ! そうでしたわ、それもお姉様に言付かっていたんですわ!」

「え? ウィッグ? コンタクト??」

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