第9話!
食事を終えた私は、仕事へ向かうユスフィーナさんを見送ってエルフィ、マーファリー、ナージャに書庫へと連れて来られた。
ものすごい書籍の数。
二階建ての建物をくりぬいて、その壁の全てが本、本、本……見渡す限り、ただただ、本!
うっひゃぁ〜……本は嫌いじゃないけど……ここまでびっしり本だけしかないと壮観ね。
「ミスズ様、それでは昨日ご説明出来なかった、この世界についてお話するとともに……」
「魔力を使う練習をいたしましょう」
「あ、そうね。宜しくお願いします」
一階部分にあるテーブルと椅子は本を読むためのものだろう。
そこに座った私の前にタブレットのようなものが置かれる。
……んん、やっぱり私の想像していたザ・ファンタジー! みたいな世界とは違うみたいね。
タブレットをマーファリーが指先でつつくとモニターの画面のようなものが宙に立体的に浮かび上がった。
いやいや、これもう近未来のSF映画に出るやつじゃない!?
「まずはこの世界『リーネ・エルドラド』についてご説明いたします」
マーファリーが画面を指で操作しながら、座った私に分かりやすくこの世界について説明してくれた。
彼女の話をまとめると……。
この世界……『リーネ・エルドラド』は大きく分けて四つの勢力がある。
東にアバロン大陸。
私が召喚された最大大国、アルバニス王国。
アルバニス王国の横にはドラゴンの棲むドラゴンの領域と、さらにその奥には幻獣の棲む幻獣の領域となる島がある。
さて、ここで私は改めて「幻獣って?」となるわけだ。
幻獣、正確には、幻獣ケルベロス族。
私の世界で言うところの地獄の番犬の、頭が三つある怪物の事かと思ったらとんでもない!
幻獣はこの世界『リーネ・エルドラド』の創造神の子孫!
「……『リーネ・エルドラド』には、大きく分けて三つの種族が存在いたします。二本の足で歩く数が多く、か弱い生き物……人間。巨大な身体に翼を持つ、自然が形を取った生き物……ドラゴン。そして、三つの瞳と三本の尾を持つ『理と秩序』を守護し『理性と秩序』を司るこの世界を創造なされた神の獣……幻獣」
幻獣とドラゴンは、世界に魔力を与え、世界を豊かにしてくれる。
人間は幻獣とドラゴンが与えてくれた魔力という恵みを大切に使い、文明を築いて世界へ還元する。
一見、良好に見える関係だけど……かつて今の姿になる前のバルニアン大陸は戦争が何百年と続いていた。
その戦争のせいでドラゴンも幻獣も、人間を見限ってしまった……。
アルバニス王国の国王は、大地を傷つけた罪を背負い、謝罪を込めてドラゴンと幻獣へ領土を用意し、決して彼らの領域へ立ち入らない事を約束したんだって。
ここまでが、アルバニス王国の成り立ち。
「現在は人間に友好的なドラゴンが数多く人里で生活しておられます。もちろん、簡単にお会い出来るドラゴンはあまりいらっしゃいませんが……」
「言っておきますけどぉ、人里で暮らすドラゴンのほとんどは格下で若くてあんまり強くないコが多いんですよぅ。言語を操れるのは魔石を人間に与えてくれるニーグヘル様とか、魔獣を浄化する魔法を授けてくださったホーリーアール様くらいですぅ」
「へぇ……でも、昨日ハクラと一緒にいた小さなドラゴンもお喋りしてたよね」
「……ハクラに会ったんですか?」
ん?
「マーファリー、ハクラの事知ってるの?」
「勿論です。彼はアバロン大陸を救った英雄……わたしの事を助けてくださったフレデリック王子、ジョナサン王子と共にこの国に誘ってくれた恩人なんです。……元気、でしたか?」
「! ええ、生意気なくらい元気だったわよ?」
と、取り繕って答えてはみたけれど。
私の内心は…………えええええええええ!?
マーファリーからフラグいただきましたぁぁぁぁ!
まさかこんなに早くフラグもらえるなんてえぇ!
少し寂しげな笑み! 彼を気遣う言葉! いやぁぁ! なになになになに!? もしかして、もしかしてぇ!
ちょっとぉ、そこんとこ詳しく教えてよ〜!
「え? え? マーファリーとハクラって知り合いだったの? え〜、聞きたい聞きたい!」
「……知り合い……というか…………わたしがこの国に来たばかりの頃、この国の事や魔力の使い方を教わった学校が同じだったと言うだけで……。……彼はあっという間に知識も魔力も飛び抜けて……とても同じ奴隷だったとは思えないほど大きな方々と肩を並べるような存在になってしまいましたから。……別の世界の、御伽噺の世界の登場人物……そんな感じです」
「へ……へえ?」
昨日会ったばかりの、あのハクラの話よね? それ……。
というか……。
「ハクラもアバロンからの亡命者だったの」
「ハクラ様は有名人ですわ。フレデリック殿下自らが、一番最初にお見初めになって奴隷の身分より解放された方だそうです」
「!? お、王子様が!?」
「そうですよぅ。しかもそのあと、アルバート陛下や弟王子のジョナサン殿下、騎士団の隊長たちともそれはもう懇意にされていたそうですぅ。挙句お妃様……ツバキ様からも認められて、人間で初めての幻獣族の方々とも面会なされたとかぁ……これってもぅ、超超超ちょ〜〜! っすごい事なんですよぅ?」
「……!?」
「でもでもぉ、それだけに留まらずなんとドラゴン族最強の『八竜帝王』のうち『獄炎竜ガージベル』様や『雷鎚のメルギディウス』様を味方に付けて、なんと我が国や『銀翼のニーバーナ』様にも見捨てられて滅びを待つばかりだったアバロン大陸を助けちゃったんですぅ」
「…………………………。ええええええ!? あ、あいつがぁぁ!?」
なんとまあ、つらつらと語られる夢物語のような内容。
王子様に見初められ、王族や騎士隊長と仲良くして、人間を見限っていた幻獣やドラゴンを味方にして……滅びるはずの大陸を……救った……と?
あのちょいちょい余計な事を言う、能天気そうな黙っていれば儚い感じなのに冒険家とかめちゃくちゃアクティブな職業の残念な美少年が!?
「ね? まるで御伽噺の登場人物のようでしょう? なんだが現実味のない子なんです……」
「……そ、そうね……」
全っ然そんな大層な事をやったやつには見えないわ……!
なんとなく飄々としてて、テキトーに生きてる感じだったのに……。
「『アバロンの英雄』……亡命者は皆、彼をそう讃えます。わたしもです。……捨てた故郷とはいえ……ただ滅びるを待つだけのあの場所を救って、変革をもたらした。……今のアバロン大陸は奴隷制度が廃止され、『獄炎竜ガージベル』様や『雷鎚のメルギディウス』様のお力添えもあり大地が回復しているとか……。まさに奇跡が起きた……いえ、ハクラは奇跡を起こしたんです」
「わたくしも昨日まさかご本人様にお会い出来るとは思いませんでしたわ……。……ハッ! そ、そういえば、ドラゴンさんがあまりにも可愛らしくて、ちゃんとご挨拶をしていませんでしたわ!!」
「そういえばナージャもです! ……な、なんかあまりにも英雄オーラが感じられなくて……」
「ああ、じゃあ本当に変わっていないんですね、ハクラは。ふふふ……」
なんだか嬉しそうに笑うマーファリー。
私もまさかそんなすごいやつだなんて……微塵も思わなかった……!
凄い事にする人ってなんかこう、芸能人オーラみたいなのが出てるのかと思ったら……全然そんな事ないのね……。
あいつ限定なのかしら?
「……では、次に魔力についてお話ししましょう」
「あ、うん」
嬉しそうな笑顔のまま、マーファリーがモニターを動かす。
……あんらぁ、随分嬉しそうねぇ、マーファリーったら。
これはやはり……むふふふふ。
「では魔力の種類からご説明しますね」
ファンタジー世界よろしく魔力には属性が存在するって事ね。
思った通り『火』『水』『土』『風』があり、これらは四霊命と呼ばれる。
そして、上級属性に『氷』『雷』『光』『闇』。
この八つを合わせて『八大霊命』と呼ぶ。
ふむふむ。
人は必ず一つ、自分と相性のいい属性を持つ。
エルフィは『風属性』、マーファリーは『氷属性』、ナージャは『火属性』が得意。
得意な属性と相対する属性の魔法は使えない。
魔石は生活に必要な魔法を、苦手な属性であっても扱えるようにするべく進歩した技術なんだって。
例えば『火属性』のナージャがトイレを流したりシャワーを浴びる時に『水属性』の魔法は使えないけど、魔石なら問題なく使えるって事ね。
「魔石には、魔法を封じ込める力がありますの。生活に使う魔法を封じて使うんですよ。また、転移魔石は位置を記憶させると何度か使えます。でも、魔石のほとんどは使い切りだったり、数回しか使えないものばかりなのですわ。空っぽになった魔石にはまた魔法を込めて再利用しますの」
「えぇ……意外と不便なのね……」
「そんな事もありませんわ。空っぽになれば別な魔法を込める事も出来ますし、同じ魔法を同じ魔石に使い続けると魔石の性質が変化して魔石がその魔法を記憶します。トイレやシャワー、キッチンで火や熱を起こす、夜に明かりを灯すなど、毎日使う魔石は色が属性の色に変化したり、紋章が浮かび魔石そのものの力が強くなったりします。転移魔石は同じ場所を記録させ続ければその場所専用になるんですの」
「トイレにあった魔石は水色だったでしょう〜? あれはトイレを流し続けて、その魔法を覚えた魔石なんですよ〜。ああいう感じの事ですぅ」
「ああ!」
そうなのね!
……あ、そう考えると全然便利ね……。
ちょっとだけ、トイレを流し続ける魔法ってなんなのよ、って思ったりするけど……そこは深く考えない事にしよう……。
「そして、この属性に関しては例外があります」
「例外?」
マーファリーがにっこり微笑む。
可愛い。
「体内魔力許容量が膨大な体質の人間です」
「体内魔力、許容量?」
なんか長ったらしい名前の体質出てきた。
「人間は基本的に、ドラゴン族や幻獣族の方々と比べて極端に体の中に溜めておける魔力の量が少ないのです。ドラゴン族や幻獣族の方々が井戸だとしますと、人間はスプーン一杯分くらい」
「違いすぎでしょ!?」
「はい。人間とドラゴン族、幻獣族はそのくらい元々の力に差があるという事ですわ」
「…………………………」
お、思った以上に人間ってしょぼいのね……!
「でもでもぉ、人間の中でもそんなドラゴンや幻獣族くらい体に魔力を溜め込める体質が極々稀〜に生まれてくる事があるんですよぅ。それが体内魔力許容量が多い人間ですぅ。今この国には九人いますねぇ」
「少なッッ!?」
「はい、それはもう極稀な才能なのですわ。例えばハーディバル様やハクラ様はその体質である事で有名ですわね」
「……!!」
ま、またハクラ?
そしてあのドS騎士!
……あいつらそんなに凄かったのか……。
「体内魔力許容量が膨大な体質の人間はとにかく魔法使いにとっては目の敵というかぁ、目の上のたんこぶというかぁ、永遠に超える事の出来ない壁というかぁ……んもう、とにかくふざけてるんですぅ」
「なにそれ」
「そうですわね……例えば、わたくしたちは一つの属性しか使えない事がほとんどですけれど、体内魔力の容量が大きい方は複数、あるいは、全ての属性の魔法が使えます」
チートじゃない。
「他にも魔法を使うときは自然魔力を集める為に時間をかけて魔法陣や詠唱を行いますが、容量の大きい方は体内の魔力を取り出して扱えますから自然魔力を集める必要がほぼなく、魔法陣を敷く必要もなければ詠唱も省略、あるいは詠唱なしで魔法を使えるんです」
……チ、チートじゃない……!
「その上、たった一人で複合属性魔法を使ったり、アバロン大陸みたいに自然魔力がない場所でも魔法が使えるんですよぅ!? 挙句、ナージャたちみたいな一般人は体の中の魔力は寝ないと回復できないのに、あいつらは使った分は自動回復しやがるんですぅ! だから魔力切れなんてなる事もなく強力な魔法を使い放題なんですぅ!」
「わ、わぁ……」
チ、チートすぎる……!!
もはや存在そのものが反則技……!
「そ、そうなんだ……。そう考えると九人って少ないどころか九人もって感じになるわね……」
「魔力容量の多い方が全員、魔法使いというわけではないのですが……そうですわね」
「え? そうなの? だって、せっかくそんな恵まれた体質に生まれたのに?」
「体質がそう、というだけで、やりたい事やなりたい職業が別にあったのだと思いますわ」
へぇ〜……向いてるのはわかってるけど、やりたい事やなりたいものを優先させたって事ね?
なんか、それはそれでいい話。
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