死亡フラグ:ブレイク=死なない
なんの変哲もない青空。
なんの変哲もない門構え。
なんの変哲もない校舎と校庭。
なんの変哲もない、登校する学生たち。
そんな風に見えるのが、私立ブレイカー学園。
今日から私がお世話になる学校だ。
(よろしくおねがいします)
この世界に生まれた、色んなフラグが見えるようになる、父さんの発明品だ。
校庭の脇の道を進むと、隅のベンチに、男の人が2人、座っていた。
ブレザー姿だから、私と同じ、学生さんだと思う。
右側は……しゅっとした、なかなかのイケメンさんだった。
髪が必要以上に跳ねていて、正直、あまり好みじゃない。
左側は……取り立ててどうということもない、普通の男の人。
でも、親しみが持てそうな、やわらかい空気をまとっているように、私からは見えた。
「五十嵐、俺な。この戦いが終わったら結婚するんだ」
やわらかい雰囲気の人は、胸にぶら下げたペンダントをまさぐっていた。
「田中、無茶はするなよ?」
ややイケメンさんな五十嵐さん? は、やわらか空気の田中さん? の肩を、ポンと叩いた。
(いいなぁ、男の友情、みたいな感じのやつかな)
そう思っていると。
その2人は不意に、私が居る方を見た。
「「来たか」」
「えっ」
私は絶句し、硬直した。
だって、2人は私のことを、そもそも知らないはず。
私は転校生なのだから。
でも、次の瞬間に、事情を呑み込むことができた。
田中さん? の頭の上に、フラグスカウターの力で、テロップが表示されたからだ。
『死亡フラグ』と書かれた、テロップが。
(うそ? もう来るの? 死亡フラグが?)
父さんが言っていたのは本当だった。
「転校先の学園には、すぐにフラグを立てる奴がわんさかいる。陽子、お前と同じ、フラグクリエイター達がな」
田中さんは、死亡フラグを立てたんだ。
そして。
「ぐえぇ」
苦悶のうめき声は、私の後ろの方から聞こえた。
うめき声を発したのは、私の前方に居る、田中さん? でも、五十嵐さん? でもなかった。
ドサリ。
お腹の辺りをおさえて、校庭に、苦しそうに前のめりに倒れたのは。
灰色の肌、真っ白い髪の、人型の『ナニカ』だった。
その『ナニカ』のすぐ側に、こぶしを握って立っていたのは。
見覚えのある、スラリとした男の人だった。
「死亡フラグ、ブレイク」
曲がり角でぶつかった時と同じ、低くて響きの良い、その声の主は。
「瀬野!」
「瀬野先輩!」
駆け寄る、五十嵐さんと、田中さん。
田中さんの頭上からは、『死亡フラグ』の表示が、スーッ、と消えていった。
(これが、父さんの言っていた、『フラグブレイカー』……)
この世において立てられた、あらゆるフラグを
この瞬間、私は確信した。
きっとこの人なら、私を救ってくれる。
まるで呪いのように、次々とクリエイトされるフラグを、ブレイクしてくれる。
瀬野先輩なら、きっと。
「あの……」
私は、瀬野先輩に、おずおずと近寄った。
「あれ、君は、さっきの」
「はい。ありがとうございます。助けてくれて」
とっさにそう言ってしまったけれど。
瀬野先輩に助けられたのは、私ではなく、田中さん。
そのことに後から気づいて、私は赤面した。
「……」
瀬野先輩は、何も言わなかった。
「ははは」
「『ドジっ子フラグ』を、早速ブレイクする気だな? 瀬野」
「五十嵐、そんなんじゃないよ。で」
瀬野先輩は、私の方に視線を向けた。身長差で、自然と私が見上げる形になる。
「君は?」
「あ、はい。私は、今日からこの学園でお世話になる、
「いも……陽子さんと呼ぶことにする」
瀬野先輩は、私が生まれて以来、十字架のように背負い続けてきたそのフラグを、あっさりとスルーした。
『妹フラグ』
と言う名のフラグを。
「瀬野さぁお前、そのへんのフラグは折らないんだな」
瀬野先輩の頭上あたりを何度か指差して笑う、五十嵐さんのその言い方。
私はあまり良い印象を受けなかった。
でも、五十嵐さんは私と違って、
「そんな簡単にブレイクできるフラグじゃないだろ」
と、瀬野先輩は苦笑して言った。
(たしかに)
そして私たちは。
始業には、間に合わなかったんだ。
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