敵が飛び出てくるフラグ:ブレイク=出させない

 フラグブレイカー瀬野先輩のおかげで、死亡フラグから生還した田中さん。


 改め。


「同級生だとは思わなかったよ」

 と、田中くんは言った。なんと、教室の席も隣同士だった。


 数年前から必修になった「プログラミング」の授業は、頭の悪い私には、とてもついていけるものではなかった。あきらめた私は、キーボードのキーをカチャ、カチャと、ただしランダムに押しながら、色んな事を田中くんから教えてもらった。



 灰色の肌で白髪の、あの生き物は、魔と呼ばれているらしい。



 この世界の、予想外の展開を無くすため、

 世界の多様性を失わせ、滅びの道を歩むため、

 立てられたフラグを、成就コンプリートしに来る、鬼。



 私たちフラグギフテッドGiftedの、天敵。



 フラグギフテッドは、フラグを操る力を与えられた、一部の人間。

 といっても、私はずっと、生まれるフラグに、振り回されてばかりだったけれど。


「そこ、ちゃんとコード書けやコラ」

 短髪でガタイの良い先生から、黒板のチョークではなく、レーザーポインターが何回も飛んできていた。物理的に。


「いてっ、またすか!」

 そのことごとくは、田中くんの頭に当たっていた。


 授業が終わり、校庭に出ると、瀬野先輩は戦っていた。


 朝に見たのと同じ、魔

 でも、朝よりも大きな体躯。


「魔俗の中でも、上位クラスだな……四天王フラグは立っていなかったはずなのに」

 田中くんは、おびえたような声で言った。


 なんだろう。

 ギャラリー観客もすごく出ていた。


 一部の女性陣が、


「キャー! 瀬野くん!」

「こっちむいて!」

「フラグブレイクして!」

「ハートブレイクしないで!」


 と、黄色い声で騒いでいた。


(瀬野先輩、かっこいいもんね。わからなくはないけどさ)

 

 

 瀬野先輩が投げつけた、野球ボールぐらいの玉がドゴオオ! と破裂し、辺りが煙で覆われた。けほっ、けほっ。



 一部の男性陣の中の1人が、

「やったか?」

 と言った途端。


 《爆煙から敵が飛び出てくるフラグ》というテロップが、爆炎の上に表示された。


 でも。


 瀬野先輩は、そうと分かって、やったみたいだった。

 なぜなら先輩は、素早く、握りこぶしを煙の中に突っ込んだからだ。


「ぎええ!」

 という声が、煙の中から聞こえて、《爆煙から敵が飛び出てくるフラグ》の表示が、Counter Break! とかいう表示と共に、消滅した。つまり、そのフラグが、ブレイクされた。



(すごい)



「さすが瀬野!」

「『神速の瀬野』の名は、伊達じゃないな!」

「認知、判断、操作。フラグブレイクは、車の運転と同じだからな!」

「瀬野の車になら、俺たちは安心して乗れる!」


 と、一部の男性陣が、瀬野先輩を褒めていた。

 なぜ車の形容がでてきたのかは、さっぱりわからないけれど。


 上位魔をあっという間に倒した瀬野先輩と、私は一瞬、目が合った。


 そうしたら、瀬野先輩は、なんだか困惑したような表情を浮かべた。


 この時の先輩が、何を考えていたのか。

 私が知るのは、しばらく後のことだった。

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