第11話
第十一回
小川のせせらぎの聞こえる庵の前に一人の人影がいた。庵の上には青い空が広がり今日も降るように星が輝いていた。庵のそばには露草が生い茂り、明日の朝にはその青い葉の上にいくつもの水玉を乗せていることだろう。庵の中では老僧が寝床の上に腰をかけ従者の若い僧がその横に控えていた。二人の前には一人の人影があった。
「その後どんなことが分かったのか。わしに教えてくれ。」
老僧がおごそかに口を開いた。
「はい、その後もなかなか調査は進展いたしません。」
「そちには何か気の迷いが感じられる。修業は相変わらず続けておるのか。」
若い僧その人影に言った。
「はい、修業は続けております。」
「拳法の道は深く長い。達磨大師は何年も壁に面して座禅し、しまいには足が動かなくなった。少林寺においても境内の床は修業者の鍛錬のために石で出来ているというのにへこんでしまったと伝えられている。」
若い僧は続けて言った。
「はい、修業は続けております。しかし。」
「しかし、なんだ。」
「恋をしてしまいました。」
「何、恋をした。」
若い僧は驚いてその人影の方を見つめた。
「まあ、よいではないか。そうか、恋のとりこになってしもうたか。」
そう言って老僧はからからと笑った。
****************
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録(無料)
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます