第11話

第十一回

小川のせせらぎの聞こえる庵の前に一人の人影がいた。庵の上には青い空が広がり今日も降るように星が輝いていた。庵のそばには露草が生い茂り、明日の朝にはその青い葉の上にいくつもの水玉を乗せていることだろう。庵の中では老僧が寝床の上に腰をかけ従者の若い僧がその横に控えていた。二人の前には一人の人影があった。

「その後どんなことが分かったのか。わしに教えてくれ。」

老僧がおごそかに口を開いた。

「はい、その後もなかなか調査は進展いたしません。」

「そちには何か気の迷いが感じられる。修業は相変わらず続けておるのか。」

若い僧その人影に言った。

「はい、修業は続けております。」

「拳法の道は深く長い。達磨大師は何年も壁に面して座禅し、しまいには足が動かなくなった。少林寺においても境内の床は修業者の鍛錬のために石で出来ているというのにへこんでしまったと伝えられている。」

若い僧は続けて言った。

「はい、修業は続けております。しかし。」

「しかし、なんだ。」

「恋をしてしまいました。」

「何、恋をした。」

若い僧は驚いてその人影の方を見つめた。

「まあ、よいではないか。そうか、恋のとりこになってしもうたか。」

そう言って老僧はからからと笑った。


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