第2話

第二回

新興住宅地

 第三章

大阪郊外の新興住宅地の一角に最近できたばかりの近代設備を整えた精神病院があった。

その精神病院の本棟は白いコンクリートで作られいて患者を収容する病院の回りはやはり高い白いコンクリートの壁で覆われている。何から何まで白ずくめで無機質な感じをあたえられている。建築的にはコンクリートの上に白い塗料を吹きつけているからだろうか、そしてその建物は中世の要塞も連想させた。

その白い壁はどこまでも続いているように思われ青空と地上との境界線を形造っている。

そして空には抜け渡るような青空がどこまでも続き、その青空とこの建造物のおりなす造形美はあたかも地中海の小島に浮かぶギリシャの遺跡を思わせた。

その病室のドアが開けられると中にうつぶせになって倒れている男がいた。

男は病人のための白いパジャマを着せられその男の口からは毒々しい赤い血が流れている。目は異様にかっと見開かれその血は白いタイルの上にまき散らされていた。白いタイルは死者の赤い血で染められ病人の衣装もまたそうだった。




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この事件があってからまた少したってこの病院のある町でまた事件がひとつ発生した。

この町のはずれに一軒の古い寺がる。名前を照光寺。それなりにこの町には歴史があるのだろう。昔はこの古寺も町となる前は政治的行政的に何かの役割を担っていたのかも知れない。そんな昔ここらあたりは皆田んぼばかりだったのだがこの新興住宅地の開発がある不動産会社によって開始されると田んぼは次々と埋められそこかしこに家が建ち並び始めた。

しかしこの寺の回りだけは田んぼが多く残っていた。まだ舗装されていないあぜ道には松並木が並んでいる。夏の夕暮れ時には遠くからカエルの鳴き声があちらこちらから聞こえてくる。この古寺は長いこと住む人もなく荒れるにまかせていたのだが最近になって一人の若い僧が現れ、寺のなかを手をくわえて住めるようにした。そしてその若い僧はその中に住み始めた。しかしその事に気づいた人間はほとんどいなかった。それほどこの古寺はうち捨てられた存在だったからだ。またそのわけはその若い僧が誰にも知られないようにひっそりと暮らしていたということもある。もしかしたら通学途中の小学生ぐらいはその事を知っていたかも知れない。ある夜その古寺に変事が生じた。

今は真夜中である。その古寺の中で電灯を消したまま真っ暗な闇の中で二人の人影が見合ったまま全く動こうとしなかった。二人の間には殺気が漂っている。一人は若い僧であり。もうひとりは見知らぬ人影である。そのふたりのにらみ合いの緊張が解けた瞬間、見知らぬ人影は手を振りあげた。腕はすばやく動くことはなかったが重量があるのか、その内部に力を蓄えているようだった。その腕の振りをするりと若い僧はよけた。するとその一撃は空を切り柱に当たって柱はまるでわらきび細工のように鈍い奇妙な音を立ててへし折れた。こんどは僧が飛鳥のように中空に跳び上がりその見知らぬ人影に飛びげりを加えるとそのけりはその男の胸のあたりに当たり見知らぬ人影はつき飛ばされて古寺の壁を突き破って外へ転がり出た。見知らぬ人影は黒い覆面をしていた。やおらその人影は立ち上がると古寺の庭に置かれている重さ一トンくらいの岩を頭上高く持ち上げ若い僧めがけて投げつけた。大岩は空気をひきさくうなり声を立てながら若い僧目がけて飛んでいった。すると若い僧は一トンの岩石を正拳で受け粉々に砕いた。古寺の背後にある松林にまで二人はもつれ込んで乱闘を続けた。それはまるで千年の歳月を生きてきた大蛇とワニの死闘のようだった。見知らぬ人影や若い僧が空振りをして木にその攻撃があやまってくわえられると直径三十センチくらいの木はまるでわらきび細工のようにぼきぼきとへし折れた。松林から古寺に戻ると二人はまた闘いを続けた。古寺はついには廃材の山と化した。そして二人の姿はいつしか見えなくなった。翌日その廃材の山となった古寺見て人々は驚いた。精神病院での殺人この古寺の原因不明の消失は大阪の新聞の社会面の片隅に取り上げられた。


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