第8話 この遊びは危険?

 ○月○日


 今日は休日か……さっちゃん先輩の家に遊びに行った。

 それでも中には入れないけど。

 妹さんと仲良いのすごく羨ましいなぁ……

 私もさっちゃん先輩の妹だったら、毎日一緒に登下校したりゲームしたり出来るのかな。

 一緒にご飯食べたり、一緒にお風呂入ったり、一緒に同じ布団で寝たり……最後の二つはなんか違う?


 ――稲津華緒、『さっちゃん先輩観察日記』より。


 ☆ ☆ ☆


「そういや、昨日親友が熱出したんだよ」

「そうなのですか。珍しいのですね。親友ちゃんが熱出すなんて」

「そうなんだよ〜。あいつ元気だけが取り柄なのにな」

「……何気にひどいのです」


 今日は休日である。

 沙友理はいつものように、妹の理沙と一緒に朝食を取っていた。


 理沙の親友は、天真爛漫といった感じで、よく公園を駆け回っているのを目にする。

 元気が取り柄という部分は間違ってないだろう。

 元気“だけ”かどうかは知らないが。


「ねーちゃん、今日何する?」

「そうなのですね……『マリコ』やるのです!」

「お、いいな! 今日こそは負けねーぞ!」


 二人は早速自室に戻り、テレビの電源をつける。

 ゲームを棚から取り出し、慣れた手つきで用意していく。


 沙友理と理沙は休日になると、必ずゲームをして遊ぶ。

 対戦になると、理沙は沙友理に勝てない。

 なぜかはわからないが、理沙はゲームが弱いのだ。


「あー、もう! また負けたぁ!」

「ふふふ。理沙がお姉ちゃんに勝とうとするなんて100年早いのです」


 沙友理はラスボスみたいに理沙を煽る。

 これは、「まだやるなら受けて立つ」的な意味合いだったのだが、理沙はもうやる気がないようだ。

 それを察した沙友理は、気になっていたことを質問する。


「あ、そうなのです。漫画の方は順調なのですか?」

「それがさー、あんまいい構想が浮かばないんだよー」


 沙友理の問いかけに、一瞬ドキリとする理沙。

 いい構想が浮かばないというのは、本当のようである。

 しかし、理沙の机の上には、真っ白な原稿用紙が。


「まあ、その、なんて言うか……リアルさ? ってのがどうにも苦手でさ」

「リアルさ……なのですか?」

「そうそう。共感とかも大事だと思うしさ……身近に感じてもらいたいっていうか……」

「大変なのですね。物語を作るのって」


 そう言うと、おもむろに理沙に近づく。

 理沙の目の前まで歩いて、いつもの笑顔のまま頬を赤らめた。


「リアルさが欲しいなら、わたしを利用してみるのもいいのですよ?」

「……は?」


 理沙の口から、間の抜けた声が出る。

 すごく変な顔をしている。


「な、何言ってんだよ……ねーちゃん」

「嫌なら別にいいのですよ?」

「いや、別に嫌ってわけじゃないけど……」


 理沙はすごく驚いているが、沙友理を拒否しようとはしない。

 沙友理は拒否されたら普通にやめようとしていた。

 理沙が嫌でなければ、このままリアルさを出させるのもいいかもしれない。


「けどさ、あたしとねーちゃんで何しようって――うおっ!」


 理沙が言い終わらないうちに、沙友理が理沙を押し倒した。

 理沙は何がなんだかわからず狼狽えている。

 当の沙友理はというと……よくわからない。


「“体験”してみれば、リアリティー出るんじゃないのですか?」

「た、体験って……具体的に何すんだよ……」

「例えばこんな……」


 そう言い、沙友理は理沙に近づく。

 運動神経のいい理沙は、その気になれば運動音痴の沙友理のことを払いのけられるはずだ。

 それなのに、されるがままになっている。

 これの意味することは――


「えいっ、なのです!」

「ひゃあっ!」


 沙友理はすごくいい笑顔を浮かべている。

 理沙はあまりにも唐突な出来事に、ついていけずにいた。

 床の上で、沙友理が理沙に抱きついているのだ。


「な、なんだよ……! や、やめろって……ねーちゃん」

「やめないのです〜。どうなのですか? 温かくて気持ちいいのですよね」

「だ、断定しないでくれねーかな……否定はしねーけど」


 この姉妹のイチャつきは、誰にも見られることはない……と、思いきや。

 ドアの隙間からこっそりと様子を窺っている者がいた。


「ふむふむ、沙友理と理沙はそういう仲だと……」


 エプロンを巻いたお父さんが、微笑ましそうに眺めていたのである。

 そろそろお昼頃になるため、ご飯を食べようと呼びに来たのだ。

 だが――


「これは邪魔しちゃいかんよな、うん」

「聞こえてんぞ、とーちゃん」

「あ、バレた?」


 一人で勝手に納得して退散しようとしていたお父さんを、理沙が呼び止める。

 なぜか妙に機嫌が悪くなってしまった理沙を、お父さんがものすごく刺激した。


「いや〜、いいもの見れたよ。まさか沙友理と理沙がそこまでの仲だったなんてな」

「ぶっっっ殺す……!!」


 ついに怒りを顕にした理沙。

 そして、お父さんを追いかけて走り出す。

 沙友理は特に何も思うことはなく、「眠いのです……」と言って昼寝をした。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る