第15話 マル秘おやつ
話してしまった。
今まで誰にも言えなかった秘密の事。
昼間お兄と話をして、陽菜ちゃんの家庭に問題があって、何かしら親と溝があるんじゃないかって。
お兄は自分よりも、女の私の方がより陽菜ちゃんの話を聞けるからって、今回のおやつ作戦に出ている。
このクッキーも実はお兄のマル秘おやつ。
勝手に食べてごめんなさい。
陽菜ちゃんは『血の繋がった兄妹』って言葉を口にしていた。
たとえ血が繋がっていなくても、家族って温かいんだよ?
本人や周りがその事を知っている、知らないに関わらずね。
本人がどうしたいかなんだよ。
血の繋がりは関係ないって言ったら嘘になる。
でもね、自分がどうなりたいのかを、しっかりと自分を見ないと。
「陽菜ちゃーん? おーい?」
さっきから陽菜ちゃんの反応が無い。
おかしいな、心なしか焦点も合っていない?
何となく陽菜ちゃんのお胸を突っついてみる。
「ひゃっ! な、なにしているんですか!」
怒られた。
「え、だって無反応なんだもん……」
「ご、ごめん。どう、反応していいか、分からなくて……」
ま、そうですよねー。
私だって初めて知った時はショックだったしねー。
「あ、この事お兄には内緒ね。絶対に話しちゃダメだよ?」
「卓也さん、もしかして……」
「そ、知らない。遠まわしに探りを入れたけど、知らないみたい」
「でも、なんで葵ちゃんが知っているの?」
手に持ったマグを口に持って行き、一口飲む。
「クッキー食べようか? これ、取っておきなんだっ」
お兄のマル秘おやつだけど。
今度他のおやつで埋め合わせしておくね
「あ、ありがとう。んっ、本当だ、これおいしいね」
「陽菜ちゃんは、もっと笑った方がいいよ」
「笑う?」
「そ、もっとこうして」
私は陽菜ちゃんの頬を指で持ち上げる。
「葵ちゃん?」
「ほら、こっちの方が可愛い。それに、髪ももっときれいにしないと」
私は陽菜ちゃんの髪をとかしながら、ベッドに腰掛けた。
「お兄がね、修学旅行で家にいなかった日があったの。その日の夜中、何となく私は目が覚めて、トイレに行ったの……」
――
薄らと灯りがるいているリビング。
もう三時なのに、何で灯りが? 消し忘れかな?
ゆっくりと扉に近づき戸を開けようとしたとき、中から声が聞こえてきた。
『卓也も高校か……』
『時間が経つのは早いわね』
『葵も大きくなったし、卓也にはいつ話す?』
『私は高校に入ったらって思っていたけど?』
『そうか……。もし、それが原因で高校を辞めたり、大学受験失敗してしまったら?』
『あなた……。でも、そんな事を言ったらいつまでたっても』
『分かっている。せめて、高校を卒業までは話さない方がいいと思ってな』
『そうね、せめて卒業まではあの子の両親がすでにいない事を伝えたげないと』
『墓参りもいけないだろ。それに、いつかは戸籍抄本なり目にする時が来る。そこには養子縁組と書かれているんだ。嫌でも気が付くさ』
『そうね、でも、ギリギリまで私達が手続きをすれば……』
『だから高校卒業まで。卒業したら卓也には話そう』
『葵は?』
『葵はまだ子供だ。知らなくていい。あの子は私達の子供だしな』
『そうね。でも、お兄ちゃんが義理の兄だって知ったら傷つくわね』
『葵も大人になったら話すさ。まだ早い』
『そうね、その時がきたらね……』
――
「と、言う事がありましてー、たまたま知ってしまいました!」
初めは心臓が痛かったけど、何とかなりました。
お兄と一緒に生活していたら、知ったところで何にも変わらないなーって。
「そんな事あったのに……。強いんだね」
「私? 私は弱いよ。お母さんと、お父さん。それにお兄がいないとヨワヨワです」
「そうなの?」
「陽菜ちゃんの方が強いと思うよ。ねぇ、陽菜ちゃんお家で何かあったの?」
髪をとかしながら陽菜ちゃんに問いかける。
私の方が先に大きな話をしたんだ。
これ以上に大きな話はそうそうないはず。
陽菜ちゃんの心の内を聞かせて。
そして、私とお兄と一緒に楽しい生活を送ろうよ!
――
「ない……。おかしい、俺のとっておきクッキーが消えた?」
おかしいな、確かにここにしまったはず。
落ち込んでいる陽菜にあげようと思ったんだが。
なかなかおいしいクッキーで、駅前の洋菓子さんにしか売っていない。
しかも、毎日数量限定なので、中々手に入らないのだ。
「葵だな。間違いない、あいつ……」
もしかしたら今、陽菜に持って行っているのかもしれないと考える。
もし、陽菜と一緒に食べていたら免除してやろう。
一人でこっそり食べていたら後でお仕置きだ!
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます