第16話 本音の話


私は葵ちゃんと遅くまで話した。

本音で沢山。今まで自分の中に抑えていた感情を全部。


 本当は親とどうしたいのか、自分をどうしたいのか。

葵ちゃんの話を聞いたら、親と仲が良くない事が少しだけ軽いように感じた。

義理の兄、葵ちゃんは卓也さんとうまくやっている。


 多分卓也さんは知らないと言っていた。

葵ちゃんも誰にも話せなく、つらかったんだと思う。

私も親の事、家族の事を話せなくてつらかった。


 だから、何となく葵ちゃんに同情してしまう。

本当はこんな感情を持ったらいけないのに。

それでも、葵ちゃんは私を見てくれた、私の話を聞いてくれた。

自分の事を先に話して、私の心を軽くしてくれた。


 私よりも年下なのに。

私よりも……。


「ひーなーちゃーん、ねぇ。おーい」


「あ、ごめん。ちゃんと聞いてるよ」


 好きな事、嫌いな事、食べ物、飲み物、映画や音楽。

沢山話した。おやつも、飲み物もなくなって、結局二人で布団にもぐって話しこんでしまった。


 今まで友達はいたけど、ここまで深い話をした事は無かった。

心が、軽くなった。


「でね、その時さお兄がね――」


 葵ちゃんは、卓也さんの事が好きみたい。

卓也さんのことを反している時、彼女の目がキラキラしている。

それに、すごく楽しそう。

義理の兄弟でも、本当に好き合って、分かりあっているんだね。


「ふふ、葵ちゃんは卓也さんの事、好きなんだね」


「す、好きじゃないし! 普通だし! ちょっとかっこいいし、それなりに運動も勉強もできるけど、あれだよあれ。やっぱ料理ができない男はダメだね!」


 何を焦っているんだろ?

こうしてみると結構可愛いかも。


「そう、ごめんね。きっと、卓也さんはいい人なんだね」


「もちろん。お兄は優しいし、ここぞって時に頼りになるよ。陽菜ちゃんもお兄を頼ってね」


「うん。その時はしっかりと頼るね」


「これから私達、ながーく一緒にいるんだよ。仲良くしていこうね」


 布団のなかで葵ちゃんが私に抱き着いてくる。

いいのかな? こんな私でもいいのかな?


 そっと、葵ちゃんの背中に腕を回し、抱き寄せた。

温かい。このぬくもり、この気持ち。


「うん、ありがとう。これからよろしくね」


 これで良いのだろうか?

もし、葵ちゃんが私から離れたら……。

いや、考えるのはやめよう。今は、まだ……。


「このまま、寝ていってもいいかな?」


 一緒に寝る事はさっき断ってしまった。

今さらいいとは言いにくい。

でも、本音で話をしたい。


「いいよ。私もそうしたいなって思っていたから」


「やった! 枕持ってくる! 待ってて!」


 葵ちゃんは部屋を勢いよく出て行った。

今夜は少し寝るのが遅くなりそうだな。


――


 陽菜ちゃんの部屋を出ていき、自分の部屋の枕を取りに行った。

途中、こっそりとお兄の部屋による。


「お兄?」


「おう、どうだ?」


 ゆっくり部屋に入ると、部屋を暗しくパソコン画面を見ているお兄。

電気位つければいいのに。


「大丈夫。一緒に寝ることになった」


「そっか、うまくいったのか?」


「うん。やっぱり親とうまくいって無かったみたい。お兄の予想通りだったよ」


「だよな。葵がうまく話してくれて良かったよ。で、どんな話をして陽菜に本音を話させたんだ?」


 あうー、言えない。

まさか『お兄は義理の兄なんです!』とは、この場では言えない。

どうしよう……。


「そ、そこは女の子同士だし、秘密。お兄には話せない」


「そっか、それでも良いよ。ありがとな、助かったよ」


 お兄は私の頭をなで、優しい声をかけてくれる。

ですから、そういうところがダメなんだってば!


 だから、お兄の事どんどん……。まずい、顔が赤くなってきたかも!

は、早く脱出しなければ!


「お兄、今日は陽菜ちゃんと寝る。おやすみ! 明日の朝ごはんもよろしくね!」


「え? 俺一人でか?」


「ひとりで!」


 私は急いで部屋を出る。

うー、お兄のバカバカバカバカバカ!

私をこんな気持ちにさせるなんて、今度はマル秘チョコも食べてやる!

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