第6話 謝罪会見


 俺は今、なぜか正座の状態で窮地に陥っている。

なぜこうなったのかは分からない。

いや、正確にはなぜ俺だけが?


 ソファーに座った女子二人。

その目の前で俺が正座している。


 葵はジト目で俺をずっと見ており、陽菜はキョトンとした顔つきでジーッと俺を見ている。

何か話してほしい。つか、この状態に持ち込んだのは葵だろ?

さっきから黙ってないで何か話せよ。


「……あの」


 初めに口を開いたのは以外にも陽菜だった。


「なに?」


 葵の口調が怖い。さっきまでのダメ妹ではなく、まるで鬼のようだ。


「何故こんな事に?」


「陽菜ちゃん? さっきの事、何とも思ってないの?」


 葵は陽菜の両肩に手を乗せ、激しく揺さぶっている。

あ、陽菜の頭がガクガクしている。


「さ、さっきの事って?」


 陽菜が風呂から出てくるまでの間に俺は葵に問い詰められ、初めから最後まで全てを話した。

まぁ、陽菜のスタイルについては何も言っていないが、見た事は伝えた。

その後から葵の態度が激変。


 そして、風呂から上がった陽菜が自室に戻ろうとしたところを葵が拉致してきた。

濡れた髪、お風呂上りの女子二名。

この部屋には何とも言えない香りが漂っている。


「見られたんでしょ? この男に」


 もはや兄とも呼んでくれないのか。

お兄ちゃんは寂しいぞ。


「はい、見られましたけど?」


 葵の言葉を普通に切り返す。

何事も無かったかのように。


「それでいいの?」


「鍵をかけなかった私のミスですし、別に見られても大したものでは……」


 いや、大したことありますよ。

妹と比べたら、そりゃね。


「今、私と陽菜ちゃんの事くらべたでしょ?」


 おいおい、俺の心を勝手に覗くなよ。


「そんな事無い。俺は、猛烈に反省している」


「その目が怪しい。はぁ……、初日からなんでこんな事に。ノックしないのが悪い! バツとして明日から一週間ご飯担当!」


「ちょっ! 待ってくれ! 俺一人でか?」


「もちろん。罰なんだから当たり前! ちゃんとみんなの分も作ってよね!」


 横暴だ。こんな妹に横暴を許していいのか!


「えっと、明日の朝は卓也さんと一緒に作る予定で……」


「え? 何、そんな約束してたの? 聞いてないよ?」


「さっき葵ちゃんがお風呂に入っている時に、ね」


 陽菜の視線が俺に向く。

これは、きっとサポートしてって事か?


「そ、そうなんだ。明日は陽菜と一緒に作るって」


「お兄一人よりも、多分安全だし、おいしいよね……」


 葵が何か一人でブツブツ言っている。

が、その言葉が小さくうまく聞き取れない。


「先約があったんじゃ、しょうがないね。それで許してあげる」


 そんなに膨らんでいない胸を張って、何か偉そうに話している。

何だか葵だけ良い思いをしているんじゃ?


「終わりか?」


「まだ。お兄は、ちゃんと陽菜ちゃんに謝ってよねっ」


 確かに、きちんとした謝罪はしていない。


「陽菜。ごめん、ノックもしないで勝手に入ったりして」


 無表情の陽菜は何も言わずに俺の謝罪を聞いてくれている。


「そこまでしなくてもいいですよ、気にしていませんから。私もごめんなさい。次からきちんと鍵をかけますね。前の家では、ほとんど一人で過ごしていたので、鍵をかけるのを忘れていました」


「お兄もお風呂の時はちゃんと鍵かけてね?」


「俺もか? 別に俺は良いだろ? 男だし」


「ダメ! お兄もちゃんと鍵かける事!」


 いちいちうるさいな。

別にみられても大したことないって。

って思ったら、陽菜と同じ考えになるのか。


「分かった。俺もちゃんとかけるよ」


「是非」


 こうして、なぜか俺一人の謝罪タイムが終わり、やっと風呂に入る事が出来た。

まったく、一日の最後にやってしまったぜ。


 風呂も上がり、いつもの様に台所で牛乳を飲む。

さっきは盛大に吹き出してしまったからな。


 今でも脳裏に焼き着いた陽菜の裸体が頭から離れない。

まいったな。でも、女の子って柔らかそうだな……。


 葵も陽菜もすでに寝ているようで、結局この日は俺も大人しく布団に入る。

さて、明日はどうしようか……。




――


 みられた。鍵をかけなかった私のミス。

前の家ではほとんど一人で過ごしていたから、鍵をかけるをのすっかり忘れてしまった。

もで、不思議と声は出なく、あまり動揺しなかった。


 逆に卓也さんの方が慌てていたみたいで、その顔を思いだすと頬が緩んでしまう。

別に目が悪いわけではないので、素顔のままでもはっきりと卓也さんの慌てた顔をしっかりと思い出せた。


 何となく伊達メガネをかけているのがいつも通りになってしまった。

なんでだっけ? 

いつからだろう、随分と昔だった気がする。


 そして、葵ちゃんもかなり怒っていた。

大した事ではないのに、葵ちゃんがあそこまで怒る理由が分からない。

なぜか鍵をかけ忘れた私ではなく、卓也さんを怒っていた。


 それでも卓也さんは私に謝ってくれた。

居候の身としては、この先の事も考えて行動や発言に注意しなければ。

一度深くなった溝はなかなか元には戻らない。

最低限の関係を保つには、ある程度の関係を維持し続けなければ。


 所詮あの二人は他人。

深い関係になる事も無ければ、いつか私の前から消えてしまう人。

お互いの為にも、私も気を付けなければ。


 私はその謝罪を受け入れ、明日の朝も適度な距離で関係を保つ。

そうすれば少なくても嫌われる事は無いだろう。


 ドライヤーの熱風が肌に当たる。

髪、長くなったな。学校が始まる前に、バッサリ切ってしまおうか。

また髪の事でクラスメイトに色々と言われるの、嫌だし……


 あ、でもこのあたりの店、全然知らない。

明日葵ちゃんにでも聞いてみようかな。


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