第3話  嫉妬と反省

「幸子さん、こっちとこっちどっちがいいと思います?」


 雅美ちゃんが今日後輩とのデートに着ていく服を選んで欲しいと言い出したから私は雅美ちゃんを眺めながら、こっちじゃない?と自分的に気のない返事をした。雅美ちゃんにはわからないだろうけれどね。


 雅美ちゃんからは「デート」と言うワードは出てないけれど、後輩とお出掛けをするということらしい。


 私が仕事を辞めてから、雅美ちゃんは新しくまた新人さんを任さられることになっていた。雅美ちゃんより1つ下の若い女の子。

 私とは11歳も歳が離れた相手なのだけれど、休みの日に私以外の相手とデートと聞くとやはり何だかモヤモヤしてしまうものだ。雅美ちゃんはというと、歳の近い相手で実に楽しそうに仕事をしているみたいで、その子のことをよく話してくれる。


 雅美ちゃんは歳の割にしっかりしてるし、先輩としても頼りになりそうだし、その女の子にも好かれてるんだろうなと予想できる。

 雅美ちゃんも、「みゆちゃん」とファーストネームで呼ぶくらい気に入ってるみたいだし、余計にモヤモヤしちゃうのよね・・・。


 雅美ちゃんだから浮気とかそういうのは絶対ないのは解ってるんだけど、相手はわからないからね。清水さんの例もあることだし、油断はできないと思う。


 雅美ちゃんは自己評価がかなり低いんだけど、雅美ちゃんみたいな子って本当に稀だと思うの。

 私が好きすぎるからかもしれないのだけれど、私に恋愛フィルターかかってたとしても、雅美ちゃんスペックはかなり高い方だと思うの。まずは、可愛いでしょ?それに仕事も2年目なのにあんなにできる人いる?会社側からも結構評価高いみたいだったし。それに、頼りになるとことか?結構面倒見よくて、私もご飯一緒にしてくれたことよくあったし。あの頃は普通に先輩後輩という間柄だったのよね。


「幸子さん?」

「あ、ごめん。みゆちゃんと楽しんでおいでね。」


 雅美ちゃんにそう声を掛けられてはっとした。本当嫌になっちゃう。いい年してこんな嫉妬なんて。

 雅美ちゃんを送り出してからなんとも言えない気持ちだけど、嫉妬とかそいうとこ雅美ちゃんには見られたくない。私がだいぶ年上だからそうなのか、自分でもわからないけど、大人の対応するなら嫉妬はあまり見えない方がいいのかなと思うこともあった。

 歳も近くて相手が男性だったならこういう感情はわかなかったのかもしれない。もちろん嫉妬はしただろうけど、もっと素直に出せていたように思う。

 男性が相手だとそれが可愛いと思う人もいるだろうし。でも、それって女性でも一緒なのかな?雅美ちゃんとは、そういう恋人同士の関係だけど、そういう関係ではないような。けど、ちょっとそういうのも欲しいような気がしている。

 おそらく、私が素直になれていないのは年齢差が大きいのだろう。恰好悪いところを見られて嫌われたらどうしようとかそういった感情が表に出せない原因なんだと思う。馬鹿らしいと言われてしまえばおしまいなんだけど。

 なんと言うか、これは長女だからなのか、自分がしっかりしなきゃって思ってしまう性格と言うのもあるのかもしれない。だから行かないでなんて絶対言えないし、雅美ちゃんが幻滅するようなことは言いたくない。大人なのにこんな格好悪い感情を悟られたくないと思っていた。


「恰好悪い私・・・」


 そう呟けば時刻は昼過ぎを回っていた。週末に雅美ちゃんが隣にいないのは実に寂しい。それなのに素直になれないもどかしさがあって。雅美ちゃんのこと信用してないわけじゃないの。それでも、そういう自分の面倒臭さに本当に嫌気が差すときがあったりする。


「帰ってきたら連絡しますね」


 そう言われたこともあってか、できるだけ連絡しないようにしないとと思っているあたりも重症のように思う。私の雅美ちゃん依存は結構な段階にきているのかもしれない。その一言がなかったら電話はしなくてもメッセージとか送ってそうだわ。


 寂しく休みの日に一人でご飯をつくって食べて、部屋の掃除をした。こんな普通の事をするだけなのに雅美ちゃんと付き合う前は普通にできていた事がなんだか虚しく感じてしまったりしてる。


 食事をしたら気を紛らわせるために仕事をすることにした。休みと言っても仕事ができるのは今の仕事は今回はありがたかった。パソコンの画面を閉じた時、雅美ちゃんからメッセージがあった。


「今帰ってきましたよ。楽しかったです。今度は幸子さんと行きたいなぁ。」


「良かったね。今度行こうね」最後に「寂しかったよ」と送りそうになってやめた。行かないでよと言っているみたいだし、雅美ちゃんだって返信に困ってしまいそうだから。


「幸子さんって大人なんですね」


 そう雅美ちゃんからメセージが来た。ふと考えてしまった。大人じゃないから困ってるんだけどと。


「そんなことないよ。きっと雅美ちゃんより子供だと思う。」


 そう送ったメッセージの後、雅美ちゃんからの着信があって慌ててスマホを耳にあてた。


「もしもし?」

「幸子さん」

「ん?」

「あの、そっち行っていいですか・・・?」

「え?」

「今日会えないだけでも寂しかったんです。だから・・・」


 そういう雅美ちゃんの言葉に心臓が跳ねた。今すぐ会いたくてたまらなくてすぐ抱き締めてしまいたい衝動にかられた。言葉ではなんでもないように「いいよ。おいでー」と言ったはいいものの、私のテンションはあからさまに上がっていた。


 しばらくすると雅美ちゃんが家に来た。それも少し走ってきたようで少し息が切れていて、どれだで私に会いたかったのだろうと思うほど。そんな可愛い事してくれる雅美ちゃんがますます愛しくて私は玄関先で雅美ちゃんを思わず抱きしめてしまったのは仕方ないと思うの。ちょっと照れくさそうにしてたとこもぐっと来たわ。


「みゆちゃんが幸子さんとも話してみたいって言ってましたよ」

「そっか、じゃあ今度一緒に食事でもする?」

「うーんそれは・・・やめときます」

「そう?」


 雅美ちゃんにコーヒーを出しながら私に今日あったことを報告してくれる雅美ちゃん。何だか言いにくそうに切り出した。


「あの、本当は幸子さんに会わせたいんだけど、会わせたくないというか・・・あ、意味わからないですよね。やっぱいいです忘れてください。」

「なーに?意味ならたぶんわかると思うよ?実は今日も私そういう感情が渦巻いてたし。」

「え、本当に?」

「ふふ。私だって嫉妬くらいするよ。特にみゆちゃんは雅美ちゃんのお気に入りみたいだしー。」

「え、えええ?」


 今日のお返しに雅美ちゃんに意地悪をしてみたくなったりして、慌ててる雅美ちゃんを眺めるのもいいなと思ってたら、雅美ちゃんは何だか意味深な表情に変わった。何だか嫌な予感がするのは気のせい?


「じゃあ、幸子さんもすっごく寂しかったってことですよね。じゃあ、私のことばっかり今日は考えてたってことですね。」

「そ、そうだね」

「じゃあ、今日は私が幸子さんを慰めることにします!」


 ふんすと気合を入れてる雅美ちゃん。想像するにアレですよね。えっと、そんなに意気込まれるとすっごく恥ずかしくなってくるんですけど・・・!

 今日は雅美ちゃんはお泊りをしていくことに決定したようだ。まぁよかったのかな・・・?嫉妬していいということだろうけど、雅美ちゃん何だか嬉しそうだし。


「じゃあ、よろしくね?」

「あ、はい頑張ります」


 あんな事言っといて次は雅美ちゃんが恥ずかしそうにしてるし。やっぱ雅美ちゃんのそういうとこ本当可愛いと思うの。どうやらこっちが我慢できそうにないようだ。

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