第10話 車を運転する時は前を見ましょう

月曜の午後、学内カフェテリアで休んでいると雅美がやってきて目の前の席に座り、ゲンドウポーズで上目使いにニヤリと笑った。 正直ちょっと怖い。軽くホラーだ。


「せぇーりぃーかぁー。アンタなんかいい事あったでしょ~?」

「えっ、な、なんで?」

「だって講義中も今も顔が緩みっぱなしだもん。ほーらぁ、さっさと白状しちゃいなさいよー」


ええっ!まったく自覚なかったけど、そんなに顔緩んでるかな?!ま、まあ、嬉しかったのは事実だけど。事実だけど!(大事なことなので2回言いました) 雅美が完全に白状させる体勢に入ってしまったから、仕方なくあたしはコトの次第を語った。


「ほぉお… それで?バイト先のカッコイイ男の子のガイドで横浜の観光巡りを楽しんだ…と。ふーん…。いいなぁーなんか芹香すごくモテてない?一昨日のディスコの件といいさぁ」

「え、そんなコトないって!昨日のだって、あたしを元気付けようと観光案内してくれただけだし、高橋さんと西園寺さんはあたしってよりあたしのダンスに興味あるだけだし… あ、言ってて何か悲しくなってきたぞ」

「あ、そうそうディスコって言えば、私昨日もあそこ行ったのよ。そうしたら高橋亮太さんに会って伝言頼まれたんだ。『金曜の21時に横浜に迎えに行く。横浜東口そごうの地下入り口、時計のある当たりで待ってる』って。確かに伝えたからね。もーほんと、私にも誰かいい男紹介してよねっ!」


半分笑いながら怒ったフリして雅美は「じゃあね」って行ってしまった。うん、いつか紹介出来るといいね。





******





そして金曜。 今日は高橋亮太が迎えに来てくれるらしい。なんだか申し訳ないような....高スペックイケメンを足に使うなんて.... と、 若干葛藤はあるものの、迎えにきてくれると言うならありがたくご好意に甘えよう。


そして20時40分。横浜東口の地下街ポルタを歩いていくと、人(主に女子)が集まっていて、その中央辺りが不自然に空洞になっていた。 これってもしかしなくても…… そう思いながら女子の壁の中を覗き込むと、案の定その空洞の奥の壁際で、高橋亮太が腕時計に目をやりながら佇んでいた。


お前は一体どこの芸能人だ?っていうこの状況。あたし、この中入っていくの?は?まじつらいんだけど?


そんな躊躇して挙動不審になってるあたしを、高橋亮太は目敏く見つけたらしい。


「豊田さん、こっちだ」


ぎゃーーー!名前呼ぶなし!あ、もうっ!ほらあああ!周りの視線が一斉にこっち向いたじゃないか!


周りの『あの子彼女かしら?』とか『ちょっと田舎くさいね』とか聞こえてくる中(田舎者だけど、田舎くさいは余計だと思うの)、萎縮しながら高橋亮太に近づき、小声で話しかけた。


「た…高橋さん… ちょっと恥ずかしいです…」

「ああ、いつもの事だ。気にすることはない。それじゃついてきて」


ええ、そうでしょうそうでしょう。貴方にはいつもの事でしょう。チッ、これだからイケメンてやつは…‥!


心の中で悪態をついていると、地下駐車場に停めてある高橋亮太の愛車、スカイラインGT-Rが見えてきた。 ほう、これがゲームでみた彼の愛車か。


先に助手席のドアを開けてくれた事にお礼を言って車に乗り込み、レカロシート?って言うらしいホールド感の抜群なシートに感心していると、車が走り出した。 


運転してるイケメンの横顔がムカつくほどカッコイイ。 じっと見ているのに気がついたらしい高橋亮太がふっと笑った。


「君は…君は他の女の子とは違うんだな」

「え、どう言う事ですか?あ、もしかして田舎っぽいですか?」

「いや、そうじゃないよ。なんて言うか… 媚びたり、必要以上に押し付けがましくなくて、とても自然体だ」


何だろう?攻略対象だけど、好きだとか付き合いたいとか思ってないからかな? 


「それに、とてもチャーミングだ」


そう言うと彼は私の右手を取り、手の甲にきっ‥キスした…?! ひーーー!やばい、顔どころか体全体が熱い!鏡みなくてもわかる。今あたしはきっと全身真っ赤だ。茹で蛸だ。


「なっ‥なっ‥?!」


「ダンスもだけど、君自身からも目が離せそうもないよ。そうだ、下の名前聞いてなかったね?僕の名前は司が呼んでたから知ってるかもしれないけど、亮太だ。君は?」


「ああああの、芹香、です。豊田芹香」

「せりかか… いい名前だね。それじゃ芹香、今夜も楽しもう」





インテリ眼鏡君、チャラ男疑惑浮上

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