第2話 再会

 僕が再び希衣奈に遭遇したのは、あの衝撃的な出会いから数ヶ月後、確かあの時と同じ時刻の電車内だった。


 車内にはたまたま僕ら以外に乗客はおらず、僕は彼女が車両に乗ってきた瞬間に、あのときの女の子だと気付いた。

 だってさ、またあのぬいぐるみと一緒だったから……。


 あっちは、僕に気付いていないようだった。

 無理もない、もう顔の傷も治っていたから、あのときの印象とはだいぶ違うはずだ。


 僕は、彼女が降りるであろう駅を覚えていたから、その駅の一つ前の駅を電車が発車したあたりからずっと、彼女に絆創膏のお礼を言おうかどうしようか迷っていた。


 普段の僕なら、そんな面倒なことは避けて、過ぎたことだと知らん顔していたかもしれなかった。しかし、結局、彼女への興味の方が勝った。


「ねえ、きみ!」


 僕は、彼女に声を掛けることばかり考えていて、完全にタイミングを見誤った。


――プシューー。


 電車は駅に到着し、すぐにドアが開いた。彼女の足はもうホームに向かって動き出していたため、突然の僕の声掛けに、驚いたみたいだった。

 その拍子に、握っていたクマのぬいぐるみの手の力が抜けて、ぬいぐるみは、嘘みたいに電車とホームの隙間に落ちていった……。


「あ!!!!!」

 僕は叫んだ。


――プシューー。

 ドアが閉まる。

 僕は、無意識のうちに彼女と一緒に降り、ホームの白線の上にいた。


「ご、ごめん。そんなつもりじゃ……。」


 動揺しながら謝る僕には目もくれず、彼女は酸欠の魚みたいに口をパクパクさせながら、クマが落ちていった線路をじっと見つめていた。


「あの、さ、駅員さん呼んできて取ってもらうから、待ってて。」

 僕が声を掛けると、ようやく彼女はこちらを見た。その顔は、般若のごとし……。彼女は怒っていた。そして、僕の肩をその小さな手でどついた。

 でも、どうしてか彼女は何も言ってこない。顔は必死に僕を非難している。


(この子、もしかしてしゃべれないのかな。)


 そう思った時、不運にも次に到着する電車を報せるアナウンスが流れた。まだ車体は確認できないが、確実に近づいてきている。


(クマが轢かれる!)


 オロオロしているだけの僕を余所に、彼女はなんの迷いもなく駆け出した。


(ヤバイ!ダメだ!)


 咄嗟に彼女を掴まえ、白線内に戻すと、次に僕は自分でも驚く行動に出た。


 先ほど彼女がしたように、白線を越え、いつ来るかもしれない電車を目前にホーム下へジャンプした……。

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