ニ、誰が為に鐘は鳴る
「誰が為に鐘は鳴る」著:アネスト・ヘミングウェイ
主人公はスペインの内戦より、義勇軍として戦う兵士で有るロバート。彼は将軍の敵軍の橋を爆破せよとの指令を受けた。すっかり老いて闘争心を無くして卑屈となった山賊パブロ。ロバートは彼に協力を求めるが、彼の妻が代わりを追って協力。結局、作戦は遂行される事と成る。 だが、ロバートの失敗により其れは急遽中止。仲間達は其れを含めた様々な失敗により全員戦死。最後は彼が機関銃一つで敵の大軍に立ち向かう。
「と言う感じだね。まぁ、日本人には伝わり難い程に難しい英語が使われている。今度、又読みたくなったら何時でも読み聞かせてあげるよ。
然し此れは、漢同士の堅き約束というのが、中々に目頭を熱くさせるね。当の昔に捨てた、懐かしき感覚だ。」
本を閉じて表紙を一撫で為る男。昼間の喧騒は如何してもクラッシック音楽の様に聴こえてしまい、眠くなってくる。
「ん、有難う。私には熱く成るというより、惨さを覚えたぞ。集団主義の軍には努力や弁明等一切通じず、夢も人生も目標も、一方的に壊されて殺されてなんてな。
然りて、君は英語も出来たのだな。驚いた。今度習ってもみようか。」
中々褒めたり等は為ない性格の女が褒めものだから、男の方にも如何してもむず痒い感覚が有った。首を左右に傾けて振り払う。
「熱意さえ有れば如何とでも成るよ。大切なのは何事も継続して征く事。貴女は今その門に立って居ると言っても過言じゃ無いかもね。協力は出来る限りしてあげるから、一度やってみなよ。」
少し悩んだ表情をした女が男の方に意味有りげな視線を送る。さっぱりとした性格で、きっぱりと物を言える女性だからこそ、其の憂いの意味の強さは一層増してゆく。
「うむ。御前にとって、働きも為ないで頭も其れ程良くない女というのは、如何いう風に映って見える?正直に話してくれ。私は悩んで居る。」
それは、彼女自身の事を指し、含めて言っているのか、それとも世間一般の女性の映り方なのか。男は意味を理解為るのに数十秒を要した。
「僕には.....一言で言うならば保護対象かな。其の人一人じゃ生きて行けなさそうだから、守ってあげたく成るね。」
「沿うか。私をこう為て匿ってくれたのは親切心か。何か悪い事を聞いた気が為て成らないな。」
「貴女は悪いとは思わないけどね。僕は。少なくとも僕の心臓には少し悪かったけどね。」
「ふふ。其れはやはり私が悪いのではないか。もう辞めておこう。済まなかった。」
二人で見合って微笑んで居たが、一台の自動車が通り過ぎた処ではっと我に帰る。
「そ、沿うだ、生ける伝説ヘミングウェイと言えばもう一つの作品、武器よさらばが有った筈だな。」
「内にもしかとあるから、今度同じ様に読み聞かせてあげよう。」
「ん、願う。
と言うより、有料で他国籍本の読み聞かせを始めたらきっと、此等の本屋も売れると思ったのだが。」
指をぱちんと鳴らし、其の発想は無かったとばかりに顔は快晴。
「其の発想、ぱない。要検討為る。」
「は?ぱない?本当に此の人は頭が良いのか悪いのか分からない。」
「まぁ、そんな事より。何処が印象的だった?」
「沿うだなぁ。関心した事という風に成るが、ロバートの仲間達が全員死んだ事か。増援の味方弾で死ぬ処も中々に衝撃的だったぞ。戦争の現実を知った。信じていた味方に撃たれて死ぬと言うのは、凄く現実的な印象を受けた。」
壁や床一面に有る本や本棚の間を潜り抜けて、貴重な外国籍読本の集団に丁寧に滑り込ませる。その間にも、男は相槌を打って応じる。
「成程、そんな場面に感銘を受けて居たとは思わなんだ。確かにそんな事は多かった。第一次世界大戦での死者の半数は、味方による誤発射だよ。そんな事実をアネストは知ってか知らずか書き上げた。正直で凄い人だ。」
何を思ってか、女は立ち上がって彼の元へ歩み出る。
「......やっぱり、本格的に英語を教えて欲しい。樋口を読んで、それが切っ掛けに考えてたんだ。様々な本、未ゞ読んでみたいんだ。女だろうが何だ。私だって、世に名を残す!」
「苦節三ヶ月、やっと貴女の本当に叶えたい夢が知れたよ。僕も親身に成って厳しく指導してあげよう。」
直した本と取り替えて出していた武器よさらばを又直して、更に下段に有るえんとつ町のプペルを取り出す。此れは、小中学生でも読本可能な程簡単な英語で出来ている絵本だ。
「其の本の題名.....何と読むんだ?」
「Poupelle of Chimney Town....えんとつ町のプペルと言うんだ。世界中の何処を探そうと、此処にしか無い作品だよ。本当は貴女を含めて誰にも教えない方が良いんだ。だから誰にも教えないで。良いね?」
「......?焼けに押すな....分かった。明日は其れを見て勉強するぞ。」
閑話休題。
「何だ、此れから始まる未来の戦争も、屹度、味方によって半分が死ぬのだろうな。沿う考えると、本当に戦争と言う物は無駄な物なのだろうと感じる。」
「沿うでも無いよ。事実、戦争は命を引き換えに経済を回す。そして其れが後に非道徳的な過ちだったと殆ど人間が気付く。忘れた頃に又此れを始める。繰り返しだよ。」
ヘミングウェイ著の誰が為に鐘は鳴るは多くの人に戦争否定為せた。
「ふふ、私の今の台詞、外で言うなら今頃豚箱に居るだろうな。神様の批判を為たのだからな。」
「天皇への侮辱は粗死罪だよ。危ない事は為ないで欲しいな。心配だよ。」
ヘミングウェイは世界の思想と、文化と、言論に影響を与えた。初めから華やかな人生を送って居たわけではなく、その裏には弛まぬ努力と不運な過去が有った。子供の頃は父に様々な習い物を習い、其れ等を詰めて居た。十九の頃に第一次世界大戦より、赤十字の一員として味方を助けようとして自身も負傷した。尚、「誰が為に鐘は成る」と「武器よさらば」という作品は自身が積極的に参加為たスペイン内戦での経験則から書き綴ったもので、非常に残酷的で、現実的で、世界中の人々に戦争の何たるかを知らしめた。後に綴る「老人と海」が国内で高く評価され、ノーベル文学賞を受賞する。受賞はしたものの、不幸にも二度の航空事故に遭い、助かりは為たものの自殺により其の舞台に幕を下ろした。
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