四ツ国の黒カード

N白 音々

四ツ国の黒カード


よよ、ろ、し、く、お…

黒服の男が遠くへ声を飛ばしている

私は運悪く人の多くに押されて遅く歩いているとちょうどそこへ黒服のティッシュ配りが来た


真っ黒いスーツを着ており、人へ人へ目を移しながら声を遠くへ言っている


「そ この、そこの」

「はい」(私に気付かないで欲しい)


私は周りに、今気付いたと言わないばかりの反応を見せた


男が差し出すのは黒いカード


怪しい

詐欺にしては目立ち過ぎている。

通常、詐欺は普通を目指しているものだ、私もそうありたいと願っている


やはり、カードもスーツも怪しい

なんせ黒い、その上に何色にも光る事はなく黒い影を重ねた様なさまに引き込まれてしまう


すっかりカードを見つめていると

民衆が私を見ていた、私も民衆をみたいた

見られている民衆達を見ていられなくなり

黒いカードを受け取ってしまった


動きを見せた事で、民衆の圧が高まった気がした

怖い


私は家へと走った

逃げたい、そこから立ち去りたかった


玄関に入ると、立派なドアを閉めてやった

これで外とはおさらばだ


ポケットの中にある黒いカードを落ち着いてみる事に時間をかけた


本当に何もない、分からない、触れても感触はただのカードだ

表面はすべすべしており、温度を吸う素材で出来ているので、触ると冷たい


こんなもの何のために渡すのだろうか?

やはり詐欺ではないか?

疑い始めると確証がない為に延々と同じ疑心暗鬼をする


貰い物のカードではあるが恐ろしい、中身を調べてみる価値はある

不利益だけは避けておきたいからだ


黒いカードを中央から折り畳んでやると、裂けてきた、中は薄い空洞で何かがあるらしい

盗聴器?GPS?取り出して捨ててしまおう


ベルのチャイムが鳴る


迷っていると、チャイムがまた入ってきた

早すぎる、たった十数分しかたっていないしやはり危ないものだったのだろう


私は外のドアをみる窓から身を出して確認する


そこには茶色い塊があり、四つの脚があり、大きな顔と巨体がある

脚のひとつでドアをトントンと叩く


まぁ、簡単に言うと、クマが戸を叩いていた


ドンドン


す、い、ま、せ、ん

くまの中心部分から声が出ていた

喋れるクマらしい、平和的に解決出来るだろうか…?


クマが慌ただしくなりドアを叩き始めた

大丈夫このドアはしっかりしているんだ

わはは、穴すらあきやしない

鍵を閉めにいこう


クマはドアの蝶番を叩き付けて破壊

ドアを押し倒していた


あぁ、大きな爪で私が千切れる所まで予感した


クマは「おじ、ゃま、し、ま、す」と体から言い、裸足で入ってきた


入るや否やクマが後ろを向いてげぇげぇ、嗚咽が聞こえる


水が落ちる様な音がすると玄関に胃液塗れの両靴がある


私は硬直した


クマは私を見て、両の足だけで立つと天井へと届かんまでの大きさ、ドアへの道を完全に塞ぐ


クマの影が私に落ちていて、迫っている様な感覚に気圧されてゆき、恐れが限界まで達してしまい、熊に背を向けて部屋へ向かった


追い詰められてしまう前に立ち向かわなくてはならない

物を探り、棚を開けて何かないか、何かはないだろうかとさがす


目の様な模様の木箱を見つけて思い出す、コレは大切な物で、大切な時に使うんだよと言われた様な


開けてみて入っていたのは長く細い皮のような管だった

へその緒だろうか


へその緒はつながりの終わりを示し、役目を終えたものであり縁起が悪いので、皆は栄養管と呼んでいた


クマが部屋の前へと、肉を散らしながら入ってきた、冷蔵庫を漁ったのであろう


目の前に投げ出された肉塊をへその緒で巻き取ってクマへと投げ返す


クマの顔の前へ落ちた肉を一口でゴクリと飲み込んだ


ヒャァ〜〜〜〜〜〜〜〜

クマの腹からは恐怖か驚愕か分からない声が出ていた


その声は少しずつ収まって、少しすると赤子の鳴く声になってしまった


なんだなんだ、へその緒を引っ張るとクマの口から赤子が出てきて驚いた


赤子はクマの液体で黒いカードを身体中に貼り付けている


腹からは赤子を取り出されたクマはゆっくりと床へ伏せて動かなくなってしまった


このクマを放っては置けない

知らない技術を使うのは恐ろしかったが、クマの脳天へ顔を近付けて、子供の頃水へ顔をつける事を恐れた様な感覚がした


目を開けるとクマの脳がみてとれた

隅々に黒い糸と塊の様な物が絡み付いている


手は入れられなかったので口で丁寧にとってゆく


全て取り終わる頃には口いっぱいに溜まっていた

もう一度目を瞑り、顔を引っ張り出した所で意識を失ってしまった



目が覚めるとクマはおらず、手に赤子を繋げたへその緒があるだけだった


終わったんだ

あぁと、床へもう一度眠る


血にのって黒い糸が脳血管を巡り

ぼーー・・・としてきた


頭に思考も何もなくなってしまった

私は何を考えていたのだろう


自身の身体が前とは違う感覚に襲われて身体を見回す


自分の手にへその緒に下げられた赤子を見つけた


そうだ、外へ行って帰ってきたのだった


今回は良い日だ


若い肉は美味いのだから

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

四ツ国の黒カード N白 音々 @Nsironnn

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る