世界再構築のくだり

 灼熱の炎を閉じ込めたような、怪しく揺らめく紅蓮の光に心を奪われていたラナクは、ガルの叫び声の合間に響く「ラナクッ! ラナクッ!」と己を呼ぶ声に反応し、急に我に返ったように身を震わせるやメイナのほうへと顔を向けた。


「ラナクッ! ぼさっとしてないで、さっさと坊やの口を閉じるんだよッ!」


 言いながら部屋の中へと足を踏み入れたメイナは、長い髪の上から両耳のあたりを押さえつつ「ザネマッ! どこになにがあったって⁉︎」と、ラナクの頭上付近に浮かぶ異形の魔導士に向かって声を張り上げた。


「メーイナァ! こーっちこっちこっちこっちっちに、来ーて来て来て来ーてみろッ!」


「ったく! どいつもこいつも、うるさいったらありゃあしない!」


 メイナは二人と一匹がいる部屋の奥まで進んで足を止め、同輩の口を閉じさせようと奮闘するラナクを見下ろして溜め息を吐くと、「仕方ないねぇ」と呟くなり囁き声で何事かを素早く唱えるや、右手の人差し指と中指を揃えてガルに向けて弾く仕草をした。


 すると、途端にガルの叫び声がやんで急に部屋の中が静かになった。


 ラナクが「え? あれ?」と目を丸くしているのを尻目に、メイナが「そのナマクラがどうかしたのかい?」と、ガルを挟んで向かい側に浮かんでいるザネマに訊ねた。


「こーっちこっちこっちこーっち側からからから、つーばのとーころ見ーて見て見て見て見ーてみろ」


 ガルの背後へと回り込んだメイナは、己を不思議そうな顔で見上げてくるラナクが「あの、メイナさん? ガルが急に黙」と言い掛けたのを、「なぁに、ちょっと眠らせただけさ」と遮り、長身を難儀そうに屈めて「一体なにがあるってんだい?」と刀剣に顔を近づけた。


「宝玉、じゃないのかねぇ」


「そーと外外そーと側じゃなくて、うーち内内うーち側に宝玉ほーうぎょく玉はおーかしいしいだーろだろ」


「それじゃあ、出してみるかい?」


 言うが早いか、メイナは誰の返答も待たずにガルから刀剣を奪い取ると、部屋の片隅に置いてある工具箱のもとへと歩いていき、金槌を拾い上げてそばにある鉄床かなとこの上に聖剣を横たえた。


「おーいおいおいおいおい! そーんなんなんなもんもんで、ぶーっ叩いたいたいたら、中身なーかみかみまで割ーれっちっちまうまうだろろろろろッ!」


 鉄床の前に置かれた座面の高い椅子に座ったメイナは、「そんときゃあ」と右手を振り上げ、「そん時さッ!」と鍔の中心を目掛けて思い切り金槌を振り下ろした。


 鈍い音が部屋に響いて金槌の先で火花が散った。刀剣の鍔がわずかに変形しただけで、中身の露出までには至っていない。


 腕力でどうにかしようとしているメイナの背中を見ていたラナクが、「あの、メイナさん……そういうのも魔法でなんとかならないんですか? ガルを眠らせたみたいに」と遠慮がちに声を掛けると、再び右手を振り上げた彼女は「あれは魔法じゃない……よッ!」と金槌を鍔に打ちつけた。


「え? 魔法じゃないなら一体なにを」


「精霊にちょいと力を借りたんだよ」


「それって、つまり」


「ああ、精霊術……さッ!」


 繰り返し金槌が振り下ろされるうち、中に埋まっている赤い物体が徐々に姿を現しはじめ、球形をしていると判じれるほど輪郭が完全にあらわになるや、メイナの頭上付近に浮いて成り行きを見ていたザネマが、「ちょーっとちょっとちょっと、ちょーっと待てぇッ!」と声を上げるなり刀剣目掛けて急降下し、それ以上の打撃を防ぐかのように両腕を広げて鍔の前に立ちはだかった。


 金槌を振り上げていたメイナは「なんだい、いきなり? 急に飛び込むんじゃあないよ。アンタごと潰しちまうとこだったじゃないか」と、口の片端を持ち上げて不敵な笑みを浮かべた。


「こーれこれこれこれ、こーれ以上たーたいたらたらたらたらたら、本当ほーんとう当に割ーれっちまうまうまうまうわッ!」


「ハッ! 割れたら割れたで、ただの硝子玉か価値の低い石だったってことさ」


「よーくよくよく、よっくよくかーんがえてみろろろろッ! 無価値むーかちなもんもんを、こーんなんなんな面倒めーんどう倒なやーり方方でかーくすかよよよよよッ!」


 メイナとザネマが言い合っている背後でおもむろに立ち上がったラナクは、魔導士たちの話の中心となっている物体を確認するため、眠っているガルを静かに横たえると部屋を横切って彼らのほうへと近づいていった。


「なにがあったんですか?」


「さぁて、なんだろねぇ」


 そう言ったメイナは金槌を捨てて右手を伸ばし、ザネマが両腕で抱えている彼の頭大の赤玉を無理やり奪い取ると、「なーになになに、なーにしやがるッ!」と騒ぐ異形を無視して立ち上がり、壁に掛かった燭台の蝋燭の火に翳してその中身を透かし見た。


 光のように見えていたものは、煙にも液体にも見える流動性のあるもので、その形を常にゆるゆると変えながら、不規則な速度で深紅から紅緋べにひに明滅し、ときおり中心部から外へ向かって黒い稲妻らしきものを放出していた。


「確かに、こりゃあただの硝子玉じゃあないようだねぇ」


 メイナの脇から赤玉を覗き込んだザネマが「なーんだんだんだ、なーんだこりゃ?」と驚きの声を上げ、「中身なーかみかみがうーごいていていーやがる!」と興奮したように言った。


「中身が動く硝子玉ですか? それって魔力を帯びてるとか、そういう」


 ラナクの言葉をメイナが「いや」と短く否定し、ザネマが「魔力まーりょくかーんじねぇねぇねぇ」と後を続けた。


「魔力じゃないのに中身が動……俺にも見せてくださいよッ!」


 左の肩越しに背後を振り返ったメイナが、「ああ。ほら」と赤玉を放り投げたのを目にしたラナクは、「えッ⁉︎ ちょッ! 投げッ⁉︎」と狼狽うろたえつつも、飛来する物体を落とさぬよう両手で受け皿を作って身構えた。


 ところが、放物線を描いて飛来した赤玉は、ラナクの指先を掠めるや、無情にも石造りの床へと向かって落下していった。


「あッ!」と叫んだラナクは、落下した赤玉が割れずに床の上を転がってゆき、石と石の繋ぎ目の溝に嵌って止まるまでを目で追うと、近くまで行ってそれを拾い上げ「割れて……ないのか?」と呟いてめつすがめつ表面の状態を確認し、「なんだよぉ」と脱力したように安堵の息を吐き出した。


「ハハ、驚いたかい? おそらくその玉、ちょっとやそっとの衝撃じゃあ割れやしないよ」


「え? じゃあ、この玉が落ちても大丈夫だって知ってたんですか?」とラナクが眉根を寄せる。


「知ってたわけじゃあない。あれだけ思いっ切りブッ叩いて瑕一つつかないんだ。そりゃ想像もつくってもんさ」


 再び蝋燭の炎に玉を翳したラナクは、「本当だ! 瑕一つついてない」と驚嘆の声を上げ、「それに、本当に中身も動いてる!」と目を丸くした。


「そんな石、聞いたことないよ。少し調べてみ」とメイナが言い掛けたところで、マージュが激しく咳き込む音が部屋に響いた。


 まるで忘れていたことを思い出したかのように、二人と一匹が「あッ」と異口同音に声を上げると、続いてザネマが「おーまえまえまえおーまえらッ、こーこここここからからから出ーていけけけけッ!」と喚き散らした。




 ザネマに地下の部屋から追い出され、地上階の客間へと戻ってくるなりメイナが、「さっき、妙なこと言ってたね?」とラナクに訊ねた。


「妙なこと? どれのことですか?」


「魔法を使う魔物がどうとかって話さ」


「ああ、ガルの父親の……」


 窓を背にして椅子へ乱暴に腰を下ろしたメイナは、テーブルへと近づいてくるラナクに目をやりながら、「アンタも見たのかい?」と脅すような調子で訊ねた。


「え? いや、俺は見てないです。ガルが前に言ってたのを覚えてただけで」


「魔法を使う魔物なんてのはいない」


 メイナの向かい側の椅子を手前へと引いたラナクが、「いない? ガルが嘘を吐いてるってことですか?」と腰を下ろしながら顔を上げると、彼女は「そうじゃないよ」と視線を外して何事かを思案するかのように右手で口元を覆った。


「それなら」


 おもむろに顔を上げてラナクを正面から見据えたメイナは、「そいつは魔物じゃあなくて魔導士だったか、もしくは」と言葉を切り、またもや視線を外して「でも、まさかねぇ」と独り言ちた。


「一体なんなんですか? ちゃんと説明してくださいよ」


 再び視線を上げたメイナは身を乗り出してテーブルに肘をつくと、ラナクの翡翠色の瞳を見つめながら「ラナク。アンタがこの世界とその成り立ちついて、知っていることはなんだい?」と唐突に脈絡のない質問をした。


「この世界とその成り立ち? それって『始まりの書』に記されてる冒頭の……世界構築のくだりのことですよね?」


 相槌どころかまばたきすらもしないメイナの眼力に気圧けおされつつも、ラナクは「古い世界が滅び、新しい世界は六つの塔の中に築かれた」と書の一節をそらんじはじめた。




 悪しき神は彼方へと追いやられ、地上を失った人々は新世界へと移り住んだ。


 多くの文明を失った人々は、残された知識と知恵で技術を育んだ。


 空は朝に明るくなり、夜に暗くなるよう定められた。


 水は力により、空から降るよう整えられた。


 風も力により、果てから吹くよう整えられた。


 人々はみなもとの周りに集落を築いた。




「細かいところは違っているかもしれませんけど、だいたいこんな感じですよね?」


「六つの塔とは?」


「俺のこと揶揄からかってるんですか?」


「六つの塔とは?」


 頑として同じ台詞を繰り返すメイナに一つ溜め息を吐いたラナクは、「俺たちが住む祈りの塔、ミトシボさんやザネマが住む風の塔、多くの少数民族で構成された水の塔、人が住めないほど暑い火の塔、六塔中もっとも資源の豊富な光の塔」と言って一呼吸入れ、「それから、何者も留まることを許されない時の塔の六つです」と続けた。


「第七の塔については?」


「第七? メイナさん、やっぱり揶揄ってますよね?」


 メイナは黙したまま何も言わず、続けてラナクが「俺、これでも世界について記された書物を何十……少なくとも百冊は読んでるんですよ。答えは『そんな塔は存在しない』です」と真剣な眼差しで自信ありげに答えた。


 しばらく無言で見つめ合っていた二人だったが、やがてメイナは身を引いて椅子の背凭れにだらりと身体を預けると、「ふんッ」と鼻から息を吹き出し「ガッカリさせてくれるね」と顎を上げてラナクを見下ろした。


「あの、さっきからどういうことですか?」


「アンタが百冊もの本から得たものはすべて、多くの真実が削ぎ落とされた、言わば表向きにあつらえられた限定的な情報なんだよ」


「それは、魔法とか魔導士とか、とにかく禁忌とされる部分が記されてないってことですよね?」


「違うね。故意に削除されてるって話さ」とメイナは右腕を伸ばして卓上に置かれた小箱を引き寄せ、上部の蓋を開けて中に入った緑色の繊維状の物体を指先でほぐしはじめた。


「同じじゃないですか。それに禁忌なんだから書かれてなくて当然っていうか」


 ふところから銀色の細く短い金属棒を取り出したメイナは、箱から緑色の物体を摘み上げて棒の先端の受け皿部分に詰めながら「なぜ禁忌とする必要があるのか、その理由を考えたことはあるかい?」とラナクに問い掛け、詰めた物体の上からさらに何かしらの粉末を振りかけた。


「理由?」


「そもそも禁忌ってのはなんだい?」


 メイナはラナクの答えを待たずに重ねて訊ね、金属棒の片端を口に咥えると思い切り吸引した。合わせて受け皿内の繊維が若草色に発光し、彼女が口を離すとともにわずかな煙を上げて暗褐色に変わった。


「なにって……禁忌は触れてはいけない知識で、知ると世界を滅ぼすとかどうとかって言われ」


 顔を右に向けたメイナは、ふぅっと灰緑色かいりょくしょくの煙を吐き出してから「そんなのはでっち上げさ。人の目から隠しておきたいだけのねぇ」と言い、正面に顔を戻してラナクを見つめ「いいかい。禁忌ってのはね、知られると誰かにとって都合が悪いことを指してるのさ」と続けた。


 緑煙とともにネゼルゼの強烈な甘い香りが部屋に漂い、思わずラナクが顔を顰める。


「誰かって、誰にとって都合が悪いんですか? それじゃあ世界を滅ぼすってのは?」


「そうがっつくんじゃあないよ」


 メイナは再び金属棒を口に咥え、今度は浅い呼吸をするように何度か短く吸った後、最後に時間をかけて甘い香りを放つ物質を深々と吸引した。


「てっきり俺は魔法を……魔導士が世界を滅ぼす存在なのかとばかり思ってて」


「解釈の仕方はいくつもある」と口から煙が漏れるがままに言ったメイナは、「そんなふうに誤魔化して誰も納得のいく説明をしちゃあくれない。なぜだかわかるかい?」と問い掛けつつ、「それは戒めの『禁忌の知識に触れる者は世界を滅ぼす』って文言のせいさ。この世界を滅ぼすことはすなわち、自分が死ぬことに繋がると捉える奴が多いんだろうね。だから深く追求しようとする奴は少ないんだよ」と自分で説明した。


「いくつもあるなら、メイナさんはどう捉えてるんですか? 禁忌の知識を持つ魔導士である自分が、その……もしかしたら世界を滅ぼす可能性とか」


「アハハ」とメイナは軽快な笑い声を上げ、「あたしゃこれでもこの世界が気に入ってるんだ。滅んでもらっちゃあ困る。商売あがったりになっちまうからねぇ。それに、あたしごとき魔導士に世界を滅ぼす力なんてありゃしないよ」と呆れたような調子で言った。


「でも魔導士全員で手を組めば」


 メイナはラナクから視線を外し「そいつぁ……まず起こり得ないだろうねぇ」と感慨深げに呟き、再び顔を上げると「ともかく、滅ぶのは禁忌を定めた誰かさんが理想としている世界のありようってだけで、この現実世界そのもののことじゃあないだろうさ」と言って金属棒を口に咥えた。


「さっぱり意味が理解できないんですけど……その、禁忌を定めた人って誰なんですか?」


 灰緑色の煙をラナクの顔面に吹きつけたメイナは、咽せて咳き込んでいる彼を「あたしが知るわけないだろ」と睨みつけ、「知りたきゃ自分の目で確かめな」と言い放った。


「確かめ……ゴホッ! なって言われ、ゴホォッ! それ、うぇッ! なにを、吸って」


「こいつぁヤギマさ。毒にも薬にもなりゃあしないけど、ふわっとした酩酊感が気に入っててねぇ」


「そうな……おうぇッ!」


「ラナク。アンタ、まだ仕事にゃあ就いてないんだろ?」


 眼前の煙を右手で払いながら、ラナクが「ええ、まぁ」と答え「でも、だからって禁忌を定めた誰かを探しに行くなんて時間は」と言い掛けたのを、四度目の煙を吐き出したメイナが「そうじゃないよ」と遮り「隠された真実を、アンタは知りたくないのかい?」と続けた。


「隠された真実……」


「そうさ。あるいは、あの坊やの記憶を取り戻す方法だってあるかもしれない」


「ガルの記憶を……でも、そうしたくても司教様の遣いを終えたら、ラトカルトに帰って仕事に」


「だったら、探求士になったらいいじゃないか」


「タンキュウシ?」


「ああ……ラトカルトの人間は、そうは呼ばないんだったねぇ」とメイナは金属棒を引っくり返すや、先端の受け皿部分を卓上に二度三度と強めに叩きつけ、中の炭化した暗褐色の物質を撒き散らしながら「汚い格好をした連中が、たまにガラクタを売りに町に来るだろ?」と言った。


「それって、もしかして」


「旅商人。アンタらがそう呼んでいる連中のことさ。そうすりゃあ他の塔へも自由に行き来できる。世界を見て回るのに、これ以上おあつらえ向きの仕事もないってもんさ」


「でもそんな仕事が許されてたら、禁忌である隠された真実なんて、いつか誰かが見つけ出して」


 金属棒を持ち上げ、受け皿に付着した灰を息で吹き飛ばしていたメイナは、不安げな声を上げるラナクを見下すように睨みつけ、「話は最後まで聴きなって前にも言ったろ?」と刺すように言って棒を懐へ収めた。


「探求士ってのはね、ただガラクタを集めて売り歩くだけが仕事じゃあないんだよ。むしろそれは副業さ。連中は各塔の首都にある協会から任を受け、未開の地へおもむいて目にしたもんや、各地で起きている異変なんかを報告するのが本分なんだ。当然、危険がつきまとう。命を落とす奴だって多い」


「命を落とす……」


「けど、あたしゃ思うんだ。唯一、世界の真実に近づける可能性のある探求士こそ、命を賭けるに値する仕事なんじゃないかってね」


 メイナから視線を逸らしたラナクは、辛いことに耐えているかのように歯を食いしばってしばらく黙っていたが、やがて顔を上げると「その、旅しょ……タンキュウシになるにはどうすればいいんですか?」と不安げな調子で訊ねた。


「そうさね。まずアンタはラトカルトの出だから、故郷を捨てなきゃならない」


「故郷を捨て、えッ⁉︎」


「それから、古代のものも含め、いくつかの言語に精通している必要がある。イグレスは他の塔でも話されちゃあいるが、全世界共通ってわけじゃあないからねぇ」


 話を進めようとするメイナを、ラナクが「ちょ、ちょっと待ってくださいよ! どうしてラトカルトの出だと町を捨てなきゃいけないんですか?」と遮った。


「ラトカルトが『取り残された町』だからさ」


「それ、この町の門にいた役人も言ってましたけど、どういう意味なんですか?」


「どういうって、そのまんまの意味さね。ラトカルトは祈りの塔で発展から取り残された町なんだよ」


「はッ⁉︎ なんで……そんな」


「ったく、なぜだどうしてだって、いちいちうるさいねぇ」と苛立ったように言ったメイナは、「そんなに気になるんだったら、探求士になって自分で答えを探しゃあいいだろ。とにかく、アンタがそうなるためには、町を捨てるのが絶対条件なんだよ!」と有無を言わさぬ強い調子で言い放った。


 メイナの剣幕にたじろいで身を引きつつも、ラナクが「あの、どうしてタンキュウシについてそんなに詳しいんですか?」と訊ねると、彼女はわずかに口元を歪めたものの、すぐに眉根を寄せて「あぁん? んなこたぁ、どうだっていいだろ」と不機嫌そうな声で質問を一蹴した。


「えっと、俺……なにか怒らせるようなこ」


「おーいおいおいおいおい、おーいおい!」


 ラナクが何事かを言い掛けたのを遮り、客間にザネマの甲高い声が飛び込んでくるや、二人は反射的に戸口へと顔を振り向けた。


「あーのあのあのむーすめ改良かーいりょう良が、たーったたったたったたーった今今いーま今終ーわったぞぞぞぞぞ!」

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