風の塔へ

 人が住んでいるのかいないのか、崩れかけの建物が多く軒を連ねる、緑の木々がまばらに生えたうらさびれた通りを、ラナクたち三人はメイナの待つスピリテアを目指して歩いていた。


 地面はルテ通りやネーマ街道のように整備されてはおらず、土くれが剥き出しになったままになっているせいで、ラナクたちが足を動かすたびに埃が舞い上がっては薄い砂煙を生み出していた。


 通りには商店や宿などのたぐいは見当たらず、エレムネスの持つきらびやかな印象とは真逆の、どこか陰鬱さをはらんだ重く淀んだ空気が漂っているようでもある。


「あれで大丈夫だったのかよ?」


 先に立って歩くイブツの背中へラナクが声を掛けると、「なにがですか?」と彼が顔を振り向けて訊ね返してきた。


「なにがですか、じゃないだろ? 魔法のこと、あの赤髪の人に言って問題なかったのかって」


「ああ、そのことですか。わかりません」


「わか……ってイブツ! おまえ、やっぱりなんだか前より適当になってるよな?」


「そうですか?」


 ラナクの右隣を歩くシャンティが「言われてみれば……そうね。理屈っぽいところも少し減ったような気がする」とうなずいた。


「ひょっとすると、魔光石に不純物が含まれていたのかもしれません」


「不純物?」とラナクが声を上げる。


「ええ。メイナは魔光石を天然物ではないと言っていたので、人工的に造られたものに違いありません。ですので、おそらく、その製造過程で異物が混入したのでしょう」


「魔力に不純物が混ざるって、どういうことかよくわからないんだけど?」と今度はシャンティが声を上げた。


「人工的に造り出された魔光石の場合、製造したものの感情や強い想いが魔力に混入することがしばしばあるようです」


「つまり、イブツが適当な感じになったのは、あの魔光石のせいってことか」


「他に可能性は考えられません」


 シャンティが「いいんじゃない? 私は今のイブツのほうが好感が持てるわ」と嬉しそうな声音で言うと、ラナクが「まぁ、確かにそうかもな」と投げやりな調子で同意し、「ところで、イブツ。この辺りの雰囲気ってずいぶん他の通りとは違うけど、人は住んでいないのか?」と周囲に視線を走らせながら訊ねた。


「この辺一帯はサグナレ地区と呼ばれており、エレムネスに五十ヶ所以上も存在する、経済的に極めて貧しい者たちが生活をしている場所です」


「は? 貧しいって、エレムネスは首都だし物資だって豊かだろ? それに」とラナクは背後を一瞬だけ振り返り、「あんな巨大な動力供給源もあるし、商店だって数えられないぐらい沢山あるんだから、仕事もすぐに見つかるはずじゃないか。ここでは仕事をするとカネがもらえるんだろ?」と訊ねた。


「ですが、問題はそう単純ではないのです。たとえ働く意思があるからといって、必ずしも仕事が得られるとは限らないのです」


「どういうことだ? それなら、この辺に住んでる人たちはどうやって暮らしてるんだよ?」


「金銭。つまり金ですが、それを持たない彼ら彼女らは、別なものを対価として差し出して生活の糧を得ています。おっと、これ以上は言えねぇや」


 イブツの奇妙な口調に顔を顰めたラナクは、「その喋り方も魔光石のせいなのか?」と訊ねた。




「司祭の爺どもに会えなかっただって?」


 スピリテアに到着した一行が客間へと通され、シャンティとテーブルに着いたラナクがダジレオでの顛末てんまつを説明するや、彼の正面で卓上に両肘をついて両手を組むメイナがそう言って目を細めた。


「でも、助祭らしき人に異常の報告はできたので」


「そうかい」


「それで、ガルとマージュの容態はどうですか?」


 メイナは「金髪の坊やのほうは血色が戻ってきちゃあいるが」と言い淀み、一つ軽く息を吐き出すと「マージュのほうは、まぁ、良好とは言えないねぇ」と曖昧な言い方をし、「それで、戻ってきたってことは、旦那のところへ金を取りに行く決心がついたのかい?」と訊いた。


「決心もなにも、必ず戻ってこいって言ったのはメイナさんじゃないですか!」


「だとしても、最終的にそうしようと決めたのはアンタじゃないか。そうだろ、ラナク? たとえアンタが戻って来なかったとしても、あたしにゃあアンタをどうすることもできなかったさ」


「ちょ、えぇ⁉︎」


「それで、だ」


 動揺するラナクを無視し、メイナは「今回ちゃあんと戻ってきた従順なアンタだが、次もそうするという保証はないからねぇ。悪いけど、道中の監視役をつけさせてもらうよ」と言い、「来な、チャムニャン」と顎を右斜め上へ軽く傾けて何者かを呼んだ。


 どこから何が現れるのかと、ラナクとシャンティが緊張の面持ちで身を固めているところへ、もそもそという柔らかそうなものが擦れているような音が聴こえてきた。


「あの、メイナさん? 監視役って」


 両手をほどいたメイナは、卓上に肘をついたまま左の親指を立てて床のほうを指差し、「そいつさ」と気怠けだるそうに言った。


 ラナクが監視役を確認しようと「そい」と頭を右へずらした瞬間、何者かがその顔面へと飛びかかり、突然のことに彼は「づッ⁉︎」と言葉に詰まって均衡を崩すと、派手な音を響かせながら椅子ごと床へと横転した。


「顔にッ! ぶッ! なッ⁉︎ ふさっとした、なにかがッ⁉︎」


 床に横ざまに転がったままのラナクは、顔面に貼り付いている何者かを引き剥がそうとしつつも、未知なる物体に触れることに怯えているらしく、広げた両手をわなわなと震わせているだけで動こうとはしていなかった。


「ったく。なぁにやってんだい、アンタは」


 メイナが呆れたように呟いた一方で、シャンティが「なにこの子ッ、かわいいッ!」とはしゃいだ声を上げた。


 ようやくラナクは恐々こわごわといった様子で己の顔面へと左手を伸ばし、監視役に触れそうな直前でいったん動きを止めると、何度か浅い息を素早く吐き出してから、思い切ったように手を突き出して残りの距離を一気に詰めた。


 顔面から監視役を引き剥がして眼前に翳したラナクは、「ふぇ? この毛の塊が監視役?」と間の抜けた声を上げ、己が手にしている掌大しょうだいの白い毛玉をまじまじと見た。


「毛の塊とは失敬な」


 白い毛玉から気品ある老齢の男性を思わせる落ち着いた声がし、ラナクは「わあッ!」と叫ぶなりそれを放り投げた。


「っと、いきなり投げるとは無礼な奴め」


 急いで上半身を起こしたラナクは、床上に落ちたチャムニャンを指差し「だって! これ、喋って、イグレス、喋ってるッ⁉︎」と、テーブル越しに見えるメイナとシャンティへせわしなく何度も顔を振り向けた。


「毛の塊はまだしも、これとは酷い言われようであるな」


「こいつはゴッサマーって言って、なんだろね……まぁ、生き物と物体の中間みたいな存在さね」とメイナが雑に説明した。


「おぬしの監視をするチャムニャンである。さぁ、おぬしも名乗れ」


「ゴッサ? ニャムちゃん?」


「名を呼び間違えるとは重ね重ね礼を欠いた奴め。ゴッサマーのチャムニャンである」


 呆気にとられて固まっているラナクを尻目に、椅子の上から身を乗り出したシャンティが「ねぇ、私はシャンティっていうの。よろしくね、チャムニャン」と声を掛けた。


「これはこれはご令嬢、ご丁寧にありがとう」


 チャムニャンの言葉にシャンティは「ご令嬢だなんて、私は田舎暮らしのただの庶民よ」と謙遜したものの、その表情や声音にはまんざらでもなさそうな嬉しさが滲んでいる。


「ほれ、おぬしも早く名乗るのだ」


 かされたラナクが「あえ……えと、ラナク」と口にするや、チャムニャンは「それは正式な名ではなかろう?」と指摘し「正式な名を言え」と要求した。


「ラナ……ラナクル。ラナクル・ドニステル」


 刹那、ラナクは己の胸が熱くなったような感覚に、「あッ……たかい?」と呟いて不思議そうな表情を浮かべた。


「ラナクルよ。これでおぬしとの契約は結ばれた。短いあいだではあろうが、よろしく頼むぞ」


「え、ちょ、契約⁉︎」


 頓狂な声を上げるラナクに、テーブルの上から顔を覗かせたメイナが「監視役だって言っただろ? もし、アンタが金を持ち逃げしたとチャムニャンが判断した場合」と言葉を切り、間を置いてから「チャムニャンはアンタの心臓を喰らう」と言って口の片端を持ち上げた。


「それでは、お邪魔するぞ」


 そう言ってチャムニャンはラナクの左肩へと飛び乗った後、椅子を伝ってシャンティの右肩へと飛び移り、彼女の長く伸びた薄桃色の髪の中へと姿を消した。




 メイナにミトシボの宿泊先を聞き、イブツの案内で宿屋までやってきたラナクたち三人と一匹は、突出した巨大な目玉をさらに丸くする彼に、彼女が一筆したためた書簡を見せながら経緯を説明して故郷への同行の許可を求めた。


「メイナのたっのみじゃあ、こっとわれねぇわい」


 ミトシボの快諾を得た後、彼とともに動力車の乗り場へとやってきた一行のうちラナクとシャンティは、急に歩調を緩めてのろのろと遅れだすと、ボクスと呼ばれる銀色の横長の巨大な直方体や、周囲の人々の服と同じように派手な色をした動力車の列などを眺め、ひっきりなしに嘆息したり頷いたりを繰り返していた。


「なんだぁ? おまえっらぁ、動力車どうりょくっしゃぁ見るの、初めてっかぁ?」


 前を歩くミトシボが振り返って訊ねてきた質問に、ラナクは「え? ええ。あの、ボクスって大きな長い箱も初めて見るし。それに、交易路の管がこんなに大きいなんて」とあたふたと答え、巨大な交易路の出入り口を囲う銀色の構造物を見上げていき、弧を描く透明な管の天井部分へと視線を移した。


「そっかぁ。おぉれたっちが乗ぉるのもボックスっだぁ」


「そうなんですか?」


「ボックスっなら一直線だっからなぁ。動力車どうりょくっしゃぁよりもはぁえぇ」


 そう言ってミトシボが、停車中の動力車やボクスの手前に巡らされた鉄柵の所々に立つ、無数にある鉄柱の一つに近づいていって手を触れると、柵の一部が開いてその先の空間を覆っていたらしい透明の被膜状のものが消失した。


 左手の甲で何度か目を擦ったラナクが、「あの、ミトシボさん? 今なんか、あなたが立っている辺りが、その、ぼやっとした感じになったっていうか」と訊ねたのを、イブツが「あれは交易路に流れるシンドウが漏洩ろうえいしないようにするための防壁です」と背後から代わりに答えた。


 ラナクは「防壁?」と呟くと、おもむろに鉄柵へと近づいていき、ミトシボがやったのを真似て透明な壁を越えようと試みたが、文字通り見えない壁に阻まれて「がッ⁉︎」と呻き声を上げるなり、弾き返されたかのような勢いで地面へと転がった。


 数人が通り過ぎざまに笑い声を上げていったのを耳にしたラナクは、急に恥ずかしくなったのか、「いってぇッ! 同じようにやったのに、なんでだよ?」と苛立ったように言うと、服についた砂埃を手で払いながら立ち上がった。


「そりゃあ、かぁねはっらわねぇと、通れやしっねぇわいなぁ」


「カネ、ですか?」


「あーあ、そっかぁ。おまえっらもかぁね持ってねぇんだっけなぁ」


 言い終わるが早いか、ミトシボは「ほぅれ!」と言って小さな物体をラナクへと放り投げた。ラナクは防壁を通り抜けて飛んできた物を掴み取るや、己の眼前に掲げて「これもカネなんですか?」と言いながら、指先ほどの丸くて薄い金属の表裏を確認し「あれ? でも、今なんで、これ……防壁を通って、え?」と困惑した表情を浮かべた。


「防壁が通さないのは有機体だけです」とイブツが再び背後から説明した。


「そぉりゃ硬貨っちゅうかぁねの一種だぁ。そぉの金属片をはっしらあぁなに入っれるんだわい」


 もう一度鉄柵のそばへと近寄ったラナクが、右側に立つ鉄柱の細長い穴に硬貨を投入すると、先ほどミトシボが通った時と同様、柵が開いて透明な壁がじわっと部分的に消失した。


「これって、一体どういう仕組みなんですか?」


 己の背後で防壁が閉じるのを見ながらラナクが訊ねると、ミトシボは「おぉれが知ぃるかよぉ。つぅくったやっつにでも訊っけやい」と言い、飛び出た目玉をぎょるぎょると回した。


 同様にミトシボから硬貨を受け取ったシャンティが中へと入り、続いてイブツがそのまま防壁を突き抜けて内側へ入っていくや、ラナクが「ついつい忘れがちになるけど、イブツって本当に人じゃないんだな」と感慨深けに呟いた。


 すると、人のまばらな周囲を黙って見回していたシャンティが、ミトシボへと視線を定めるなり唐突に「ところで、ミトシボさん」と声を掛け、「あなたの故郷があるのはどこの塔なんですか?」と訊ねた。


「あぁん?」


「なんだか、街中にいる人の数に比べて、ずいぶん利用者が少ないような気がして」


「ああ、そぉりゃそっだぁ。おぉれ故郷こっきょうがあぁるのは、六塔ろっくとうなぁか一番いっちばん奇っ怪なかぁぜの塔だっからよぉ!」




 ラナクたち三人はミトシボの宿泊先へと向かう直前、スピリテアの店先でメイナからマージュの容態が悪化しつつあることと、早急に適切な処置を施さなければ彼女の生命が危険であることを告げられた。

 

「おそらく、もって数日ってところだろうね」


「数日って、そ……なん、なにか」と言葉に詰まったのか急に黙り込んだラナクだったが、すぐさま名案を思いついたかのように目を見開くと、「魔法で……メイナさんの魔法でマージュを治すことはできないんですかッ⁉︎」と飛びかからんほどの勢いでメイナに訊ねた。


「そんなことができるなら、とっくにそうしてるさ」


「だって魔法は、魔法は禁忌の技術で、それで、それから凄い力が」


「いいかい? たとえ魔法が禁忌の技術で凄い力があるにしても、さすがに万能ってわけにゃいかないんだよ」


「え? な、それなら、マージュを救うにはどうすればい」


「まぁ、聴きな」と勢い込むラナクを気怠そうに制したメイナは、「万能じゃないのは魔法じゃなくて魔導士のほうさ」と言って感情の読めない漆黒の瞳で彼を見下ろし、「生き物の病気や怪我を修復するのに特化した魔導士がいるんだよ」と告げた。


「じゃあ、その魔導士ならマージュを?」


「確実に助けられる、なんて保証はないけどねぇ」


「そんな! だって今、魔法は万能って言ったばかりじゃないですかッ⁉︎」


「それこそ今言ったろ。魔導士は万能じゃないって。より強力で強大な結果をもたらす魔法ってのはね、それだけ術者への負担だって大きいし、誰もが簡単に扱えるような代物しろものでもないんだよ。あの子を助けようとして、同じように苦しむことになる人間が増えたら意味がないだろ」


 メイナの言葉に黙って耳を傾けていたラナクは、それがどうしようもないほどの正論であると理解していながらも、ふつふつとやるせないいきどおりが込み上げてきたのか、徐々に顔をゆがませていくと悔しそうに歯を食いしばった。


「そう悲観的になるんじゃあないよ」


「そんなこと言ったって」


「まずはくだんの魔導士に会いに行きな」


 言葉を遮られたラナクが「えっと……でも、それじゃあ、ミトシボさんに同行する話は?」と訊くと、メイナは「もちろん、生きてるに決まってるじゃないか」と言い、「アイツは旦那の故郷に住んでいるのさ」とどこか忌々しそうに続けた。




 ミトシボの後に続き、ボクスと呼ばれる金属製の巨大な直方体に乗り込んだラナクとシャンティは、無骨な外観からはとても想像しがたい、白く塗られた美しい内部に目を見開いただけでなく、奥へと向かって整然と並んだ無数の白い椅子を目にするや、口を半開きにした間の抜けた表情で顔を前へと突き出した。


 ただ、ミトシボの言ったように利用者は少ないらしく、いくら奥のほうへと視線を動かしていっても人の姿は見当たらず、どうやらラナクたち以外には誰も乗っていない様子だった。


「誰も……いませんね」


 ラナクがそう呟くと、ミトシボが「いぃっつも、こぉんなもんだぁ」と陽気な声を上げ、「とぉっととせっきすぅわんねぇとあっぶねぇぞい」と言って近くの椅子へ腰を下ろした。


 その言葉を聴いたラナクは、そそくさとミトシボと向かい合った椅子へと腰を下ろし、それにならうようにして彼の右隣にシャンティが座ると、最後に彼女の正面の席へイブツが身体を落ち着けた。


こぉしんとことひぃたいんとこの革帯かぁわおび締っめろぉ」


 ラナクとシャンティが見よう見まねで帯を締めるのに苦戦する一方で、ミトシボの隣に座ったイブツはすでに準備を整え、背筋せすじをピンと伸ばした状態で正面に視線を注いでいた。


「ねぇ、イブツ。悪いんだけど、私を凝視するのやめてくれない?」


 視線に気づいたシャンティがうと、イブツが「別にいいじゃないですか。見てるだけなんだし」と開き直ったように言い、それを聴いた彼女は「やっぱあんた、なんかムカつくわ」と彼を睨みながら抑揚のない声で言った。


「ところで、イブツはなんでついてきたんだ? 案内はミトシボさんが泊まっていた宿まででよかったのに」


 ラナクが口にした疑問に、イブツは「さぁ? なんででしょう?」ととぼけ「たまに、ふとどこか遠くへ行ってしまいたい、そんな衝動に駆られることってありませんか?」と、かつての彼からは考えられない、まるで生身の人間が口にするような情緒的な台詞を吐いた。


「なに言ってんの、おまえ」とラナクが冷めた目をイブツへ向けたところで、「これよりボクスが発車いたします。安全のため、ご乗車の方は必ず額と腰の革帯を締めてお待ちください。なお、警告を無視して死亡された場合の責任は負いかねます」という男性の低い声が車内に響き渡った。


「今、どこかで男の人が不吉なこと言ってませんでしたかッ⁉︎ 死亡がどうとかって聴こえ」


くぅち閉じっろぉ。さぁもねっとぉ、しぃた噛ぁみ切っちまうわいなぁ」


「舌を噛み切る?」とラナクが繰り返した言葉尻に重なるようにして、先ほどと同じ男の声で「それでは風の塔、ウェーヴァメラート行きボクス。発車しまーす」と言うのが聴こえてきた。


 直後、突如として強力な眩暈めまいを覚えたラナクは、全身を巡る血液が凍ってしまったかのような感覚のなか、あらがすべもないままに己の意識が一瞬にして闇の奥深くへと飲まれていくのを味わっていた。

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