廃棄されたはずの型

 メイナの有するスピリテアの敷地は意外に広く、ラナクとシャンティが宿泊した中庭の奥にある離れとは別に、入り口を正面にして店舗の右隣はテーブルと四脚の椅子が置かれた簡素な客間となっており、吐き気をもよおさせない程度には悪臭が薄まった今、店主とその客人を含めた七人全員がそこへと集まっていた。


「はぁッ⁉︎ 半日かけて採集できたのが、キニャカヤッカの雌だけだって⁉︎」


 事情を説明したラナクは、正面に座ったメイナにどやされてビクリと首をすくめるや、両膝に手を置いて俯き加減のまま「すいません……」と囁くような声で謝罪した。


 メイナの右隣では、彼女の客とおぼしきでっぷりと腹の出た橙色の蓬髪ほうはつの男性が、彼の正面に座るシャンティをギョロッとした目で無遠慮に眺めながら、ニヤニヤといやらしい笑みを口元に浮かべて踏ん反り返っている。


 両肘をテーブルについて両手を顔の前で組んだメイナは「それから」と言い、「どうして人が増えてるんだい?」とラナクとシャンティの背後に立っている金髪のガルと銀髪のマージュへそれぞれ順番に鋭い視線を送り、「あたしゃギレメセセリガの材料を採ってこいって言ったんだ。ガキを連れてこいなんて言った覚えはないんだけどねぇ」と凄みを含んだ静かな声で言った。


「いや、これは」


 ラナクが説明を試みようとするのを、メイナが「それとも、なにかい」と遮り「こいつらを提供してくれるってのかい?」と、冗談とも本気ともつかない恐ろしげなことを口にした。


「材……」と口にしたラナクは音を立てて唾を飲み込むと、「ちょ、ともかく、話を聞いてください! 採れたのは虫だけですけど」と足元に置いた荷物を慌てた様子で探り、「数だけは大量に」と緑色の硝子ガラス瓶を卓上に三つ置いた。


 メイナは瓶に視線を落としてすぐ正面に戻し、ラナクの翡翠色の瞳をジッと見据えて「坊や。これはなんの冗談だい?」と、今にも鋭い刃が飛び出してきそうな、如何いかにもな危険を滲ませた静かな声で言った。


「え? 冗談って、これはその」とあたふたと右の肩越しに部屋の隅へと視線を送ったラナクは、「キニャカヤッカ」とイブツの助けを受け、「の雌ですけど……なにか問題でも」と言葉を続けた。


 メイナは「問題でもだって?」とあざけるように鼻で笑って組んでいた手をほどき、瓶の一つを持ち上げて「からの瓶を」と言いつつ天井の白い明かりへかざすと、目を見開いて「まさか!」と呟くなり次々と残りの瓶を持ち上げて中身を確認していった。


「どうしったぁ、メイナァ?」


 ニヤニヤ笑いを浮かべている男性の問いに、メイナが「ミトシボの旦那」と瓶を注視したまま言い、「ギレメセセリガの材料をあるだけ買い取りたいって言葉。二言はないだろうね?」と試すような口調で言った。


「あぁん? ねぇ、ねぇ」とミトシボと呼ばれたギョロ目の男性は、自分の顔の前でぶんぶんと大きな右手を振り、「あぁるだけ買ぁい取ってやぁっからよ。あぁればのはぁなしだっけどなぁ」と大きな口を横に開いて黄色い歯を見せ、こぼれ落ちそうな巨大な眼球をぎょるぎょると動かした。


「あたしゃ確かに聞いたよ、旦那」


 そう言ってメイナは席を立ち、皆が入ってきたところとは別の奥の戸口へと姿を消し、すぐに硝子製と思われる透明な受け皿を両手で抱えて戻ってきた。彼女は皿を卓上に置き、立ったまま瓶の一つを手に取ると、「覚悟はいいかい」と右の肩越しに隣のミトシボへ視線を投げるや、蓋を開けて瓶の中身を受け皿の上へとぶちまけた。


 大量の小石が跳ねているような、大量の空水が急激に降ってきたような、硬質の小気味よい音が部屋に響き渡る。


 それまでニヤついていたミトシボの笑みが消え、立ち上がってテーブルに身を乗り出した彼は、受け皿の上でうごめく大量の赤茶色い粒を目にするなり、飛び出た眼球をさらに剥いて「うぇあッ⁉︎」と奇声を上げると、おそるおそるといった様子でメイナのほうへゆっくりと顔を向けた。


 メイナは不敵な笑みを浮かべて「毎度あり、旦那」と隣の客人に言った後、正面を向いて「やるじゃないか、」と、濃緑の髪のあいだから覗く漆黒の瞳でラナクをまっすぐに見つめて言った。


 ラナクは「え、あ、いえ……そんな」と照れたように応じたものの、すぐに申し訳なさそうな表情を浮かべ、「本当にすいませんでしたッ!」と卓上に突っ伏すようにして頭を下げた。


「はぁ? なんだい、藪から棒に」


「いやだから、その」


「頭を上げな」


 メイナに言われても頭を下げたまま、ラナクは「でも、俺……約束を守れてないです。それに、いくらたくさんいても、こんな虫じゃ二十万リデなんて、とても」と尻窄まりになったのを、彼女は「あぁ、そういうことかい」と得心がいったように言い「いいかい、ラナク」とキニャカヤッカの雌を一匹摘まみ上げ、「こいつ一匹で五千リデの価値があるんだよ」と口の片端を持ち上げた。




 ミトシボはギレメセセリガの秘薬の材料を定期的に買い求めに来る客で、現在別件でエレムネスに滞在中のなか、この日はメイナの顔を見るためだけにたまたま立ち寄っただけで、もともと材料を購入する予定はないのだと、まるで言い訳をするかのように訛りの強いイグレスでラナクたちに説明した。


 秘薬の三種の材料は希少価値が高いだけでなく採集も困難であり、メイナに材料を採りに行っている者がいると説明された後でもなお、成果は乏しい結果に終わるであろうと高を括って大見得おおみえを切ったのだとミトシボは告白した。


「だぁからかぁねの持っち合ぁわせが、まぁったくねぇんだぁってばよ」


「まったく? 追い剥ぎにでもあったのかい」


「いんや。まぁったくねぇってのは言い過ぎったぁ。すんまねぇ。だっけどよ、明日あぁした用事よぉうじかぁね必要ひっつようだっからよ。たぁとえ一匹さぁん千に負っけてくぅれてもよ、そぉの瓶の半分はぁんぶんも出っせねぇわい」


「負ける? 旦那、焼きが回るにゃあ、ちと早過ぎやしないかい」


 メイナに横目で睨まれたミトシボは、「ゴハハハ!」と豪快な笑い声を上げ「やっぱ駄目だぁめかぁ」と観念したように言い、「わぁがったぁ! おぉれおっとこだぁ! 言ぃい値で全部ぜぇんぶ買ぁい取ってやっるわいッ!」と言い放った。


「商談成立だねぇ。今日のところは払えるぶんだけでいいさね。残りはツケにしておくよ」とメイナが口元を緩め、「合計額は後でこいつらを数えてから」と言い掛けたのを、イブツが「三瓶の合計で百七十四匹のキニャカヤッカの雌がいます」と口を挟んだ。


「そうかい。数える手間が省けて助かったよ。えぇと、確かアンタ」


「おぉい、おいおいおいおいおいぃ! そぉんな一瞬でわっかるわけねぇわいッ! きっちんとかっぞえねぇでなぁに言ってんだぁ、メイナァ!」とミトシボはすでに半ば飛び出し気味の眼球を、今にも発射させんばかりの勢いで突出させて椅子から立ち上がった。


「落ち着きなよ。そこの隅に立ってる水色の髪の男。さっき話しただろ?」


「あぁん? なぁんのこっとだぁ?」


「気づかないのかい? ったく、本当に焼きが回ったんじゃないだろうねぇ?」


 ミトシボは立ったまま身を乗り出すと、己の対角線上にいるイブツを巨大な眼球でギョロリと睨み、しばらく見つめた後「あッ、こぉれかぁッ!」と声を上げ、「へぇえッ! よぉくでっきてんなぁ!」と感嘆した。


「旦那、もしかして魔」


「いんやぁ! すんまねぇ、すんまねぇ! よぉくでっきてっから、気ぃづかなかったぁ! こぉりゃ、たんまげったぁ!」


 言葉を遮られたメイナは、ミトシボの顔を見てはいたもののそれ以上は何も言わず、代わりにイブツへ向かって「アンタ、まだ時間はあるのかい?」と訊ねた。


 イブツはわずかにメイナのほうへ顔を傾け、まるで二人だけが知っている秘密の合図を交わすかのように、「ええ。日付が変わるまでなので、残りわずかではありますが」と躊躇ためらいもなく答えた。


 理解ができないといった様子でラナクが「あの、なんの話ですか?」と正面のメイナに訊ねると、闇をたたえたような黒い瞳で彼を見つめ返しながら、「こいつの寿命の話さ」とよく通る低い声で言い「そこの、銀髪の嬢ちゃん」と、シャンティの背後に立つマージュへと声を掛けた。


「マージュ」


 メイナは「アンタの名前かい?」と確認し、「じゃあマージュ。ちょ」と言ったところで不自然に言葉を切り、改めて「マージュ」と脅すような太い声を出すやマージュの紅蓮の瞳を見つめながら、「アンタ、ネキワムカムの血を引く者かい」と訊ねた。


 その問いにマージュは答えず、しばしの沈黙が場に落ちた後、メイナが「まぁ、いいさね」と口を開き、顎を上げて見下すように彼女をめつけ、「マージュ、ちょいと魔力貸しな」と有無を言わさぬ調子の声音でゆっくりと言った。




 大人しくしていたと思ったら突然の体調不良を訴えたガルを客間に残し、メイナが「今回だけ特別さね」と言ってラナクたちを案内した地下の部屋は、スピリテア店内のように種々雑多な品々が蝋燭の炎に照らされた、六人もの人間が入っても十分に余裕のある石造りの広い空間だった。


「アンタ、名前は?」とメイナが訊ねたのを、イブツが「人々からはイブツと呼ばれています」と答えると、彼女は「ああ、そうだった。前にも訊いたねぇ」と思い出したように言い「イブツ、そこの陣の中央に立ちな」と命じた。


 言われてイブツが赤い塗料で床に描かれている、古代文字らしきものが円周に沿って記された、曲線と直線が複雑に絡み合う四重の円の中心へと進み出る。


「マージュ、こいつがなにかはわかってるかい?」


 そう言ってイブツに向かって顎をしゃくったメイナに、マージュは「魔導核で動く古代の自動人形」と無感情に呟き、「でも魔力が尽きかけている」と補足した。


「上出来だ。なら詳しい説明は省くよ。要はあたしとアンタでこいつに魔力を補填ほてんしてやろうって話さ」


 マージュが黙って頷くと、イブツが「メイナ。おそらく勘違いをしていると思うので言いますが、あなたたちの行おうとしている方法では無理です」と陣の中央から声を上げた。


「わかってるさね」


 そう言ってマージュは部屋の一隅へ行って何かを拾い上げ、元の場所へと引き返しながら「こいつを使うのさ」と、右の掌に乗せた暗紫色あんししょくに発光している、フブネの果実大の鉱石らしき塊を掲げて見せてからイブツへと渡した。


魔光石まこうせきですか。ずいぶんと珍しい物をお持ちですね」


「商売ってのは長くなるにつれて色々な繋がりができるもんでねぇ」


「そうですか。ですが、そのような貴重な品を、わたくしのような廃棄処分寸前のガラクタに使用するのは如何なものかと」


 メイナは「心配には及ばないよ。こいつぁ天然モノじゃあないんだ」と言い、「余計な詮索せんさくは野暮だからね」と凄むと、「さぁ、とっとと済ませちまうよ」と言ってイブツとの会話を切り上げた。


 壁際に立つラナクが「どういうことなんだ?」と隣のシャンティに囁き声で訊ねると、彼女も「私だってわからないわよ」と顔を彼の耳に寄せて囁き返した。


「そこッ!」とメイナがラナクとシャンティを睨みつけ、「静かにおしッ!」と槍でも投げつけるかのように言葉を飛ばし、「後で説明してやるから黙って見てな」と言ってイブツへ顔を戻した。


 メイナがマージュへ目配せするなり、二人が同時に聴き取りづらい発音で古代言語とおぼしき響きの詠唱を始めた。やにわに魔光石が輝きを増し、見る間に暗紫色から薄い若紫わかむらさき色へと変わっていくや、やがてそれに呼応するかのようにイブツの肌が露出している部分の繋ぎ目らしき部分から、ちょうど彼の髪色を発光させたような淡青色たんせいしょくの光が漏れ出した。


 魔光石が目が眩むほどの白い輝きを放ちはじめた矢先、ふと光が消えて黒い塊へと変化したのに合わせ、メイナとマージュの詠唱もぱたりとやんだ。イブツからの発光現象も収まっている。


「終わったよ、イブツ」


「ありがとうございます」


「なぁに、約束だからねぇ。礼には及ばないさ」


「それで、わたくしは具体的にどれほど延命されたのでしょう?」


「悪いが、そいつぁ明言できない。天然モノではないとはいえ、アンタも知っての通り魔光石は貴重な鉱石だ。あたしだって手にしたのはこれが二度目だし、一度目は人に使ったから、アンタにどれほどの効果があるかは正直わからないんだよ」


「そうでしたか。いやはや、知らぬこととはいえ失礼しました」


 二人の会話が終わるのを見計らったように、ラナクが「あの、それでメイナさん。これは結局どういう」と躊躇いがちに口を開くと、メイナは「どうもこうも見ての通りさ。寿命が尽きかかってた魔導核に魔力を補充してやったんだよ」と説明した。


「えーっと……はぁ。でも、あの、それならその石はなんの意味が」


「こいつは詠唱の種類で効能が変化するのさ。今のはこいつの魔導核が吸収できるよう、魔力の構成をちょいと変換して増幅させてやったんだ」


「変換して増幅、ですか」


「いいかい。このイブツってやつぁは過去に不具合が見つかって、すべて廃棄されたはずの型なんだ」


「あのぅ」とラナクが遠慮がちに上げた声を、メイナが「黙って聴きな」と制し、「こいつはその昔、対魔導士用に大量に造られた自律型兵器なのさ」と突拍子もないことを口にした。


「兵器?」


「ああ。だから魔法攻撃による損壊を防ぐため、魔導核に特殊な加工がされているのさ。ところが、だ。それが裏目に出て、通常の方法では魔力の回復ができなくなっちまっているのさ」


「その通りです」とイブツが合いの手を入れた。


「え? でも、魔導核内の魔力は中で循環してるんじゃ」


「その通りだよ。だけどねぇ、力ってのは年月を経るにつれて磨耗し、衰えていくもんだ。あたしら人間と違って、こいつらはある程度使ったら魔力の補充が必要なのさ」


「よくご存知で」とイブツが再び相槌を打った。


「これでも魔導士の端くれだからね。闇にほおむられた魔法史が記された禁書くらいは目を通してるのさ」


 不穏な単語の数々を耳にしたラナクは理解が追いついていないらしく、最も驚いた事柄に反応したのか、それともそれが与えられた最も新しい情報だったからか、目を丸くして「メイナさんって、魔導士だったんですかッ⁉︎」と声を張り上げた。


 メイナが怪訝そうな表情を浮かべ、「今そう言っただろ」と突っ撥ねるように言ったかたわらで、マージュが急に膝から崩折くずおれて床へ横ざまに倒れ込んだ。


「マージュッ⁉︎」と逸早いちはやく反応したラナクが、マージュのそばへと駆け寄って片膝をつき、彼女の上半身を背中側から支えるようにして軽くかかえ起こした。


 メイナはマージュのそばにしゃがみ込むと、彼女の様子を見ながら「息が荒い」と呟き、「今のではそんなに魔力を使っていないはずなんだ」と独り言のように続け、顔を上げてイブツを睨み「イブツ。この子、遺跡でどれほどの魔法を使ったか教えてくれないかい」と訊ねた。


「わかりました。わたくしが数えていただけでも、マージュの身長ほどの大きさがある火球を三十九発、それからそれら三十九発の倍の魔力を込めたわたくしの頭大の火球を三発ですので、少なくとも四十二発の火球を放っています」


「あと、それから!」とラナクが声を上げ、「ガル……上で休んでる奴のことも魔法で助けたって」と伝えた。


 メイナは表情も変えずに「マージュ。アンタ、いくらネキワムカムの血を引いてるからって、すこぉしばかり無茶しすぎなんじゃないかい」と、目を瞑って苦しそうにあえいでいるマージュへ語り掛けた。


「あの、マージュは一体」


「説明は後だ」とメイナが早口でラナクの言葉を遮り、ミトシボに「旦那。事態は一刻を争う。正直に答えてくれないか」とそのギョロ目をまっすぐに見据えて訊ねた。


「あぁん? なんだぁ?」


「アンタ、魔法が使えなくなったのかい?」


 ミトシボはビクッと身体を震わせ、長いあいだ巨大な目をおろおろと泳がせていたが、やがて苦しむマージュの姿に視線を留めると、鼻から大きく吸い込んだ息を「そんだぁ!」という言葉とともに口から吐き出した。


「わかった。その話はまた後でじっくり聞かせてもらおうじゃないか。ともかく、今はこの子の命を繋ぎ止めるのが最優先だ」


 きびきびとした口調でメイナが言い、さらに「アンタら全員とっととこの部屋から出ていきな。それから、ここへは絶対に下りてくるんじゃないよ、わかったかいッ!」と物凄い剣幕で捲し立て、マージュを除いた四人を地下の部屋から追い出した。




 客間へと戻ってきたラナクたちは、部屋に入るなりテーブルに突っ伏して眠っているガルを目にし、シャンティが口元に微かに笑みを浮かべたものの、誰一人として言葉を交わすことなく思い思いの場所へと散った。


 最前と同じ場所へどっかと腰を下ろしたのはミトシボだけで、腕を組んだラナクは壁に寄り掛かり、窓辺に立ったシャンティは人のいない裏通りを眺め、イブツは戸口付近で直立したまま室内のどこともわからない宙空へと視線を投げていた。


 ラナクたちが客間へ戻ってきてから、戸口に掛けられた約半日を示す蝋燭時計の十二ある目盛りのうち二つぶん近くが減った頃、突如として扉が開いてメイナが姿を現した。


 ガルを除いた客間にいる全員の視線が戸口へと集まるなか、俯き加減のメイナが何かを制するように左の掌を正面に向けて突き出し、溜め息を一つ吐き出してから「とりあえず、あの子は一命を取り留めた」と言うと、部屋のあちこちから安堵を意味する吐息が漏れた。


「けど、まだ安心するのは早いよ」


 ラナクとシャンティが身を震わせ、二人が不安げに顔を見合わせるのを見ていたメイナは「ところで」と言葉を続け、「まさかとは思うけど、あの子に魔法を使うよう強要したりは、していないだろうねぇ」と空腹の獣が唸っているような低い声で言い、立っている三人を近くにいるイブツから鋭い眼光で順に睨みつけていった。


 ラナクは「強要なんて」と言ったところで声が掠れ、軽く咳払いを数度してから「強要なんてしてませんよ」と言い直し、「彼女が自分から助けてくれたんです」と冷静な声で続けた。


 するとメイナはラナクを闇を閉じ込めたような漆黒の瞳で見つめながら、「ラナク。アンタ、魔法の代価って知ってるかい?」と深みのある恐ろしく澄んだ声で言った。

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