失意の帰還

 通用口から上階へと伸びる、踏面ふみづらが仄かに発光している階段を上りながら、ラナクは己の右の肩越しに首を捻ると、背後をついてくるマージュへ「さっきの話だけど」と声を掛けた。


 通路内に反響する声に「どれ?」とマージュが問い返し、ラナクが「俺たちを守るのがキミの役目って言ってただろ? それは、誰かに頼まれたってこと?」と訊ねた。


「そう」


「もしかして、司教様とか?」


「あなたには関係ない」


「まぁ、そうだけど……」とラナクはマージュのつれない態度に落胆しつつ、以前も似たやり取りをしたことを思い出し、「って、図書館で会った時は魔法なんて知らないとか言ってたけど、キミ自身が魔導士なんじゃないか! それならそうと言ってくれればいいのに」とねたように言った。


「あなたには関係ない」


 同じ言葉を繰り返すマージュに、会話を諦めようとしたラナクが「はいはい、そうですか。そうですね」と投げやりな返事をすると、彼女が「喋る時、鼻で息しなきゃならなくて臭いから話し掛けないで」と無感情な声で先に拒絶の意思を示した。


 文字通りマージュに対して閉口したラナクは、軽く溜め息を吐き出してから「なぁ、イブツ。なんちゃらの実を取りに戻るんだろ?」と前を行くイブツへ声を掛けた。


「いえ。エレムネスへ帰ります」


「え? 頼まれた材料はまだ虫の雌しか採集できてないけど?」


「ですが、もう日が暮れます」


「ヒガクレ……それって、暗くなるってことだよな?」と確認するラナクに、イブツが「ええ」と短く答え、「凶暴な動物と魔物が出ます」と特に逼迫ひっぱくした様子もなく続けた。


「ちょっと待ってくれ。ここへ来てからそんなに時間は経ってないだろ? 夜になるにはまだ早過ぎるんじゃないか?」


「ラナク。あなたは先ほど塔の怪物に塔のかてを吸収されたのです。ですが、そのことに気がついていないがために、経過した時間の感覚に混乱をきたしているのです」


「いやだから、その塔の糧ってのを教えてもらわないと、意味がわからないんだよ」


「塔の糧についての説明は許可されていません」


「それはさっきも聞いたってば。だいたい、誰に許可されてないんだよ? って、どうせそれも許可されてないんだろ」


「創造主です」


 要領を得ない問答にラナクが大きな溜め息を吐き出すと、イブツが「疲れましたか?」と彼の心を読んだとも言える絶妙な気遣いを口にした。




「イィブゥツゥ……!」


 突然、上方から降ってきた怒りを帯びた女性の声に足を止めて顔を上げたラナクは、階段の上部に見える戸口から漏れる明かりを背に、両脚を広げて立ちはだかっている人影があるのに気がついた。


「シャンティ!」


 前に立つイブツよりも先に声を上げたラナクが、「よかった! 無事だったんだな」と声を掛けるや、シャンティは「無事なもん……くっさッ! ちょ、あんたたち、酷い匂」とまで言ったところで嘔吐えずき、階段を駆け上っていって光の中へと姿を消した。


 階段を上り切ったラナクたちは、ずいぶんと明るさの落ちた草木の生い繁る庭園地区の一角に出るなり、すぐそばの草叢くさむらの前にしゃがみ込んで吐いているらしいシャンティの後ろ姿を見つけた。


「大丈夫か?」とラナクが近寄ろうとするのを、振り返ったシャンティが「来ないでッ!」と涙声ながら物凄い剣幕で訴えた。


「あ、ごめ……でも、そんなに匂うか? ちょっと大袈裟なんじゃ」


 シャンティは「やめてッ! ホントに無」と言い掛け、顔を正面へ戻すと再び草叢の中へ嘔吐おうとした。


「えーっと、マージュ? その……魔法で匂いを消したりとかできないわけ?」


「できない」


 マージュの声を聴いたシャンティがもう一度ラナクたちを振り返り、「魔法? ていうか、待って……誰、その子?」と苦しそうに咳き込みながら訊ねた。


 ラナクは「ああ。彼女はマージュ」と己よりも頭一つぶんほど背の低いマージュを左手で示し、「下で怪物に襲われた俺たちを魔法で助けてくれたんだ」と簡潔に説明した。


 紹介されたほうのマージュはいつの間にやらまたフードを被っており、顔の造作や表情が影となって見えないせいか、シャンティがいぶかしげに目を細めた。


「魔法? 怪物? じゃあ、その子……魔導士なの⁉︎」


 涙と鼻水でぐしゃぐしゃのシャンティの顔は、驚きではなく困惑しているような表情としてラナクたちの目に映っていた。


「そういうことになるね」


「そんな……まさか⁉︎ ラナク、あなた魔法を見たのッ⁉︎」


「見た」


「見間違いじゃなくて?」


 するとラナクはマージュの近くへと移動し、「ここから」と言って彼女から六歩離れ、「ここまでぐらいの距離で見たから間違いない」とシャンティに身振り手振りで示した。


「一体なにがどうなってるの……」


 そう呟くシャンティに、ラナクが「ところで、なんで俺たちがここから出てくるってわかったんだ?」と訊ねると、「え? 違うわよ。あの気持ち悪い生き物から逃げてたら、たまたまここを見つけて。あいつらなぜか、あの光る階段までは追って来ないから避難してたの」という説明が返ってきた。


「そうです。キニャカヤッカの雄は明かりを嫌う性質があり、そのため明るいうちは影となる木の根元でうずくまって過ごすのです」とイブツが唐突に口を開いた。


 それを聴いたシャンティは鼻をつまんだまま急に立ち上がるや、桃色の長い髪を揺らしてずかずかとイブツへと歩み寄るなり、彼の左頰を右手で思いっきり引っぱたき「いったぁッ⁉︎」と叫ぶと、身をひるがえして左手で右の手首を押さえながら地面にうずくまった。


「大丈夫ですか、シャンティ?」


 叩かれたほうのイブツがシャンティに声を掛け、「素手でわたくしを強打すると怪我をする恐れがあります」と、済んだことに対して無意味な忠告をした。


 シャンティは立ち上がると「ああッ、もうッ!」と大声を上げ、「イブツッ! あんたのおかげで散々よッ!」とイブツに向かって怒鳴った。


「あんたの散々では意味が通じません。この場合、正しくはあんたのです」


「知ってるわよッ! 皮肉に決まってるでしょッ! もう黙ってイブツッ!」


「みなさんの聴き取りやすい快適な音量で話しているはずですが」


「もういいから本当に黙って。お願い」とシャンティは右手を広げ、自分の顔を掴むように覆って俯いた。


「そうもいきません。あなたにどうしても伝えなければならないことがあります」


 右手で顔を覆ったまま「聴きたくない」とかぶりを振るシャンティに、イブツが「あなたの生命がおびやかされる可能性がある現在、あなたの同行者として、わたくしにはそれを最優先で回避する使命があるのです」と無理やり伝えた。


「もうあんたは黙ってッ! ラナク、どういうことか説明してッ!」


 シャンティが怒鳴るのを聴いたラナクは、その剣幕に気圧けおされて「あぁ……その、空が、じゃなくて、天井が暗くなると凶暴な、動物とか魔物が出るから」としどろもどろに説明した。


 ラナクが言い終わるが早いか、シャンティは「じゃあ、さっさと出口に案内しなさいよッ! この、ポンコツッ!」と、何の感情も浮かんでいない自動人形のツルッとした顔を睨みつけた。




 イブツの案内で迷うことなく地上へと出た四人のうちラナクとシャンティは、空が黒に染まりかけていることよりも、自分たちが乗ってきたテロンの姿が見当たらないことに不安げな表情を浮かべた。


「テロンがいない……逃げたのか?」


「ハハハ。面白いことを言いますね、ラナク。わたくしにだってそれが冗談だということくらいわかります」


「イブツ、ふざけてる場合じゃないだろ? ここから歩いたら真っ暗になる前にエレムネスに辿り着けるわけがない。それとも、さっきみたいに、おまえが俺たちを抱えて走ってくれるのか?」


「いえ、それは今はもうできません」


 ラナクは軽く溜め息を吐き、「もうどうしてかは訊かないけど、他に帰れる案でもあるなら教えてくれ」と覇気のない声で言った。


「他の案もなにも、わたくしたちが乗ってきたテロンに乗って帰るだけです」


「そういう謎々みたいなやつはもうウンザリなんだよ……頼むから要約して簡潔に教えてくれ」


「わかりました。端的に言うと、ここはわたくしたちが遺跡へと入った場所ではありません」


「じゃあ、俺たちのテロンは」


「ここからでは目視できませんが、窃盗に遭っていなければ元の場所にいるはずです」


 イブツの言葉で安心したラナクは、「わかった。とにかく急ごう。案内してくれ」と言った後、背後にある岩に偽装した遺跡への出入り口を名残惜しそうに振り返った。


 その様子を目敏めざとく見つけたシャンティが、「どうしたの?」と問い掛けたのに対し、ラナクは「いや、その」と口籠もり「後で……心の整理がついたら話すよ」と、感情を押し殺したような声で静かに言って前へと向き直った。




 辺りが暗くなり、赤茶けた大地が色濃い表情を見せて昼間とは異なる世界へと変貌を遂げつつあるなか、イブツを先頭に歩いていたラナクたちは、彼の「何者かがいます」という声でそれぞれに足を止めた。


「危険なたぐいのやつか?」


「まだわかりませんが、地面に横たわっているようです」


 ラナクがイブツの妙な言い方に「横たわっている?」と鸚鵡返しに問うと、彼は「ええ。横たわっているようです」と繰り返し同じことを言った。


「地面を這っているんじゃなくて?」


「いいえ。横たわっています」


「ねぇ、ラナク。よくわからないけど……私、なぜかとてもイライラする」


「なんとなくわかるから、落ち着けって」


 振り返ったイブツが「成人の女性がイライラする原因として考えられるのは」と語り出したのを、シャンティが「イブツ、それ以上なにか言ったら二度と口のきけない身体にするから」と、両目を見開き口角だけを吊り上げた不自然な表情を浮かべて遮った。


「ですが」


「黙れッ! もうシャンティに構うなって!」


 ラナクが一喝するとイブツは「わかりました」と答え、「ところで、横たわっている者の正体が判明しました。ガルです」と続けた。


「えッ⁉︎ だってガルは」と言い掛けたラナクは急いで口をつぐみ、一瞬だけシャンティへと視線を走らせてから、「一体どういうことなんだ?」と誰にともなく言った。


「なんなの? ガルがどうしたわけ?」


 怪訝な顔をするシャンティを横目に、ラナクが「それでその、ガルは……どういう状態なんだ?」とイブツへ訊ねると、彼は「ここからではわかりません。近くへ行ってみましょう」と言うなり歩みを再開させた。


 三匹のテロンを繋ぎ止めた近くの、四つの細長い岩が並んでいる場所のそばまでやってきたラナクたちは、イブツの言った通り、仰向けで地面に横たわっているガルを発見するや血相を変えて彼の元へと駆け寄った。


 横たわるガルの右半身側にしゃがんだラナクが「おい……ガル? ガル!」と声を掛けるそばで、立ったままのシャンティが「ガルがどうしてこんなところに?」と怪訝そうな表情を浮かべた。


「私が助けた」


 長いあいだ黙していたマージュが、唐突に口を開いた上に衝撃的なことを告白するや、三人が三人とも彼女の影となったフードの中へと視線を注いだ。


「キミが⁉︎」とラナクが真っ先に驚きの声を上げ、「でも、どう……じゃなくて、いつの間に?」と目をみはった。


「攻撃の合間に」


「よくわからないけど、それは凄いことだったりするわけ?」


「知らない」


 謙虚というのではなく、他に比べるものがなくて正直に答えた結果だろうと解釈したラナクは、「なんだか、俺が言うのも変な気がするけど、とにかくありがとう」とマージュに伝えた。


「別に。役目だから」


 地下で言ったのと同じ台詞を繰り返すマージュに、ラナクが苦笑しながら「わかったよ」と答え「じゃあ、ガルを起こしてエレムネスへ戻ろう」と言うと、その声に反応するかのようにガルが「うぅ」とわずかに呻き声を上げて身じろぎした。


「ガル!」


 ラナクの呼び掛けに薄目を開けたガルは、急に両目をカッと見開くや「うゔッ!」と嘔吐えずき、右へと顔を向けるなり彼の足元へ胃液を撒き散らした。




 空が完全な漆黒へと塗り替えられる前に、とどこおりなく首都エレムネスの門を潜ることができたラナクたち五人は、ルヴレーヌ通りの裏手にあるスピリテアを目指し、昼間よりも多くの人々とその喧騒で溢れる繁華な往来を、イブツを先頭にしてぞろぞろと歩いていた。


 辺りの建物内や路面に立つ棒状の物体からは、蝋燭や松明の炎が発する暖かな色合いの明かりではなく、タイメルケル遺跡の庭園地区を照らしていたものやイブツが両目から照射したものと同じ、目が焼けるかのようなまばゆい白色の光が放たれている。


 人々の服装は昼間に多かった極彩色が鳴りを潜め、イブツと似た銀色や門の役人の着ていた光沢のある黒など、色自体は地味ながらもその素材が街の光を反射し、より派手に、よりきらびやかにと、外的な要因で目立つような作りのものが増えている。


「ラトカルトとは大違いだ」


 ラナクは昨日エレムネスに到着した時と同様、周囲の景色にせわしなく視線を彷徨さまよわせながら感嘆の声を上げると、「なぁ、イブツ。この白い光も塔からの力なのか?」と前方のイブツに訊ねた。


「いいえ。白い光のすべてがそうであるとは限りませんが、これらのほとんどは電灯および電球などと称される照明器具からのもので、電気という物理現象の力を利用して光を発生させているのです」


「じゃあ、ダジレオの力は動力車にだけ供給されているのか?」


「だけではありません」


「へぇ! 凄いな。五塔へ動力を届かせているだけでも信じられないのに、まだ余力が残されているなんて」


「強大な力を使用するには、その力を生み出すことのできるみなもとが必要となります」


 イブツの言った意味を咀嚼して理解しようとしていたラナクは、しばらく間を置いてから「どういう意味だよ?」と口を開き、「力を生み出している源はダジレオそのものだろ? 動力供給源っていうくらいなんだから」と指摘した。


「それは動力そのものを指しているのではなく、施設の名称でしかありません」


「なら、その動力の源はなんなんだ? 確か、なんとかって呼び名が……あれって、なんだっけ?」


 ラナクの問いには答えず、イブツは「そこの左手にある路地の階段を下りたらルヴレーヌ通りに出ます」と建物同士の隙間の小径こみちを指差すと、自らが一番乗りとなって向き合った赤茶色の煉瓦塀のあいだへと消えていった。


 路地を抜け、ルヴレーヌ通りの裏手に位置するスピリテアの前へとやってきたラナクは、すべての材料を集められなかった口惜しさと、そのことで店の商品を弁償できない申し訳なさとで心を掻き乱されながらも、ゆっくりと深呼吸を二つして息を整えるや、覚悟を決めたかのように店の木の扉を手前に引いた。


 自らが異臭を放つラナクの鼻先を、屠殺とさつの現場を想起させるせ返るような血腥ちなまぐさい香りがふわりとかすめる。


 雑多な商品で溢れる店内の通路は狭くなっており、横に広がれない一行は縦にほぼ一列となって奥へと進んでいった。


「メイナさーん?」


 ラナクとシャンティが初めて訪れた時と同じく、薄暗いスピリテア店内には店主であるメイナも客の姿も見当たらず、近くに台所があってそこで料理でもしているのか、どこからか鍋が煮立っているような音が微かに響いてきているだけだった。


「おい、ラナクッ!」とガルが列の後方から押し殺したような声を上げ、「血の匂いがするぞ」と緊張を帯びた声で続けた。


「わかってる。でも、たぶん大丈夫だ。昨日ここへ来た時もそうだったから」


 各所を部分的に照らす蝋燭の明かりを頼りに、店内をおそるおそる進んでいた先頭のラナクは、突然「だぁれだぁ?」という男性の濁声だみごえが暗闇から上がったのを耳にし、息を呑んだのと同時にビクッと身体を震わせて足を止めた。


「あんだぁ? くっせぇやっつらがゴォロゴロいぃやがるなぁ。あぁ、くっせぇ、くっせぇ」


 男性の訛りが強いイグレスにラナクたちが閉口していると、店の奥から「ったく、誰だいッ! 人の店ん中でクソをブチまけたたわけはッ!」とメイナの激昂した太い声が聴こえてきた。


 ラナクはメイナの気迫に圧倒されながらも、おずおずと「あの、メイナさん。俺たちです。ラナクです。今戻りました」と、姿の確認できない彼女へ向かって話し掛けた。


「ああッ⁉︎」と大声を発したメイナは、「ラナクゥ?」と忌々しげに言った後、「ああ」と忘れていたことを思い出したかのような声を漏らし、「坊やか」と呟くと「それで、クソを漏らした締まりの悪いクソッタレはどいつだい。おまえか? ええッ⁉︎」とさらなる怒りを吐き出した。


「違います! あの、説明するんで落ち着いてください」


「お黙りッ! 説明の前に全員オモテに出て水を被りなッ! 臭くて鼻がひん曲がっちまうよッ!」


 メイナは暗闇からラナクたちへ怒声を浴びせ掛けると、若干口調をやわらげて「すまないねぇ、ミトシボの旦那」と謝罪し、「ともかく、こいつらがさっき話した連中さ」と続けた。


「こぉのくっせぇやっつらがかぁ?」


 男性の濁声が上がり、それに対しメイナが「まぁだわからないけどねぇ」と答えた直後、未だ店内に残ったままのラナクたちに気づき、「おらッ! とっととオモテに出ろって言ったのが聴こえなかったのかいッ!」と凄んで彼らを外へと追い立てた。




 メイナの所有する敷地の中庭ではなく、スピリテアの店先で彼女に衣服を剥ぎ取られたラナクとイブツが、桶になみなみと溜められた様々な薬草や香草を混ぜ込んだ水を、悪臭が薄れるまで何度も頭から浴びせかけられた一方、マージュは女性ということで店内の一角にある浴室へと特別に通されていた。


 いくら人通りがないとはいえシャンティの前で全裸にされたラナクは、股間を両手で隠しただけのあられもない格好で、「もう取れましたよッ! 中へ入れてくださいッ!」と泣きそうな声で何度も訴えを繰り返していた。


「一体、なにを浴びるとそんな酷い匂いがつくんだい」


「それが」とラナクが言い掛けたのを、イブツが「塔の怪物の肉体の組織です」と遮って答えると、メイナは「まさか」と嘲笑あざわらうかのような笑みを浮かべたものの、冗談ではないことを察したのか、間を置いてから眉根を寄せて「昔話の塔の怪物のことかい?」と訝しげな声で訊ねた。


「まぁ、いいさ。それはともかくとして」とメイナは話題を変えると顎を上げ、「それで、三種の材料は持って帰ってこれたのかい?」と言い、暗色に染まった濃緑の長い髪の隙間から、縮こまるラナクを値踏みするかのように見下ろした。

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