第2話「三白眼の猫」
まるで猫みたい、私がその少年を始めて見た時の感想だ。
「私は意味もなく死ぬ為に生きているのかな……」
ふかふかの衛生的なお布団、暖かな部屋、私には立派な個室があった、何と風呂やトイレキッチンまで完備された立派な部屋だった。
「大部屋の方が賑やかで良かったのかな?」
「でも、こんなじゃな…静に過ごしたい日に部屋を出ることも出来やしない……」
「髪、切ろうかな、なんか動くと引っ掛かる感じする」
「…いっそショートにしちゃおうかな」
「でも肩くらいが一番似合うんだよな私」
「お塩ちゃん!テレビ、1チャンネル」
彼女はパソコンの名前を呼び指示をする、天井からぶら下がったテレビが点く。
〈株の暴落が続いています〉
テレビから嫌なニュースが飛び込む、株なんて自分の生活には関係ないと思っている人も居るかもしれない、とくに彼女には関係無さそうなニュースに聞こえる、しかし巡り巡って医療費が削減されるかも知れない……。
「ベッドどうしょ、少しだけ上げたいんだけど…」
「布団ずれると嫌だし、このままでいいか」
「変にずれると戻せないしな…そんなでナースコールなんて」
彼女はベッドの中で1人呟き続ける、頭以外が動いている気配が無い…。
「お前ずっと1人で喋ってるのか?」
「誰?!」
彼女は反射的に体を起こそうとする、しかし首だけが上がり体は動かずガクンと首に衝撃が走った、嫌な事が頭をよぎる。
彼女の体は動かない、事故にあったのだ。
「痛たたた…」
「…誰?どこ?」
彼女は首を上下左右に振り、声の主を捜す。
「ここだよ」
ベッドの下から声がする。
「下に居るの?」
〈次はオリンピック関連の…
「お塩ちゃん、テレビ消して」
彼女は邪魔なテレビを消す。
「誰なの?」
彼女は窓にベッドの下が映ってないかと目を凝らすが、まだ日は高く外の景色が見えるばかりだ。
いつもの空と建物の上の方だけ……。
「ふう…」
彼女は一息ついて天井を見つめる。
「あなたは誰?どうしてベッドの下なんかに居るの?」
「あ、違う、どうして私の病室に居るの?」
「探検してる!」
「ああ、子供だ、これ子供の声だ」
少し安心し少し不安になった、子供って何するか分からない。
「探検なら他でやってもらえる、ここ私の個室なの本当は入っちゃダメなのよ…」
「解った…」
そう言うと男の子がベッドの下から這い出て来た。
黒髪、短い坊っちゃん刈りの少年だ。
立ち上がった少年の顔を彼女がよく見ると、この世に何か恨みでも持って生まれて来たのって感じの三白眼だった。
「いいね!」
「何だよ?」
「私三白眼のキャラクター好きなんだ」
「うう……」
今まで不遜に話していた三白眼の少年が少し照れる。
「良いかねーちゃん、死ぬ為に生るんじゃない、生きる為に生きるんだ!」
彼女はふっと何かに気づく。
「そうだね…死ぬ為に生きるって何か変な感じだ…………」
「ちょっと待って…?!」
彼女は更に何かに気づく。
「お前いつからベッドの下に居た!!」
「じゃまたな、ねーちゃん!」
「ちょっと、まっ、病院の中で走らなーーーーーい!!」
彼女は少年が開けっぱなしにしたであろう扉の気配を感じながら、彼の名前を聞いておけば良かったと思った。
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