拾肆 最終配信 其の三

84 ミサイル着弾前の巻き


「ミサイルは止まらないんだってさ……」


 門大統領の翻訳付き会見をスマホで見た半荘は、一緒に見ていたジヨンに目を向ける。


「ぜったい嘘よ! 止めようと思えば止められるはずよ!!」


 ジヨンは納得いかないと、半荘の胸元を掴む。


「お、落ち着けよ」


「落ち着けるわけないでしょ! あんな威力のミサイルが、何発も向かって来てるのよ!!」


 半荘をぐわんぐわんと揺らしていたジヨンは、もう助からないと確信し、泣きながら半荘を抱き締める。

 そんなジヨンに、半荘は頭をポンポンとしながらスマホを取り出して電話を掛ける。


「もしもし東郷さん?」


 電話の相手は、日本艦隊総司令官、東郷。

 東郷も電話の用件がわかっているからか、沈んだ声で答える。


「すまない……」


「え……まだ何も言ってないんだけど……」


「言いたい事はわかっている。だが、上から竹島に近付くなと命令されているんだ」


「そっか……まぁ巻き込まれたら大勢死ぬもんな」


「……すまない」


 再度謝る東郷に、半荘は明るい声を出す。


「誰が死ぬか! 俺は忍チューバー服部半荘だ! 絶対に生きて日本に帰るからな!! ニンニン」


「ははは。その時は、一杯……いや、豪遊させてやるよ」


「言ったな? めちゃくちゃ飲み食いしてやるからな!」


「ああ。私を破産させてくれ」


「ははは。待っててくれよ。じゃあな」


 それだけ言うと半荘は通話を切り、ジヨンを励まし続ける。



 そうしてミサイルが竹島に近付く中、手詰まりになりつつある半荘のスマホが鳴った。

 海上自衛隊から届けられたスマホは電話番号が登録されていないので、電話を掛けて来た者が誰だかわからない。

 だが、この番号を知っている者は日本の誰かしかいないので、東郷がまだ何か言いたい事があったのかと思い、半荘は電話に出た。


「ブラザー! 大丈夫デース?」


 スマホからは、決して上手いとは言えない日本語が聞こえて来た。

 半荘は間違い電話かと一瞬思ったが、聞き覚えのある声に、名前を口にする。


「ジャスティス??」


「そうデース! 助けに来たデース!!」


 電話の相手はジャスティス・ビーダー。

 突然の電話で、半荘は驚きと同時に喜びの声をあげる。


「お~! 久し振りだな~」


「久し振りデース」


「でも、助けにって、冗談でも笑えないな」


「冗談じゃないデース。もう間もなく島に着くデース!」


「え……」


 半荘が耳を澄ますと、確かにエンジン音が竹島に近付いている事に気付く。

 その間も、ジャスティスは電話番号を知り合いの知り合いから手に入れるのに、かなり苦労したと喋っていた。


「電話番号はわかったけど……危険だぞ。すぐに離れるべきだ」


「大丈夫デース。米軍の知り合いの知り合いからも、ミサイルの着弾時間を聞いているデース。それに、助けに来た船は俺だけじゃないデース!!」


「え……」


 再び耳を澄ます半荘は、多くのエンジン音が聞こえて言葉に詰まる。


「俺の呼び掛けに応えてくれた世界中の忍チューバ―ファンが集まって来てマース!!」


 そう。ジャスティスは「動きま~す」と言ってから、精力的に動いていた。

 まず最初にやった事は、米軍との交渉。

 しかし、領土問題に口を出せないや日本人救出に軍は動かせないと言われて断られる。

 米軍からすれば、まっとうな理由なのだが、莫大な税金を取られているジャスティスからすると、米軍に軽くあしらわれた事が納得いかなかったようだ。


 なので方針を変え、セレブを口説く事にした。

 基金を募り、船のチャーター。

 乗りたい者を募集し、死んでも文句を言わせないように誓約書も書かせる。


 竹島に近い港はほとんど日本であったため、各港に世界中から集まった忍チューバ―ファンは、ジャスティスの用意したクルーザー、漁船、観光船に分かれて乗り込み出港。

 計画では、竹島を民間船で囲んで、忍チューバ―を救出する予定だったのだが、ミサイル発射という事態にジャスティスも頭を悩ませた。

 結果、ジャスティスの乗る船だけで救出に向かう事を決断するが、ファンの熱い説得に負けて、全隻で竹島へと向かったのだ。



 ジャスティスから詳しく話を聞き終えて通話を切った半荘は、Vチューブの前に居る人に語り掛けるのであった。

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