61 かつあげの巻き


「はあ!?」


 東郷から、韓国艦隊増援の報せを聞いた半荘は、驚きの声をあげた。


「謝って来たのに、まだ増やすのか??」


「みたいだな。お前が出て行った場合に備えて、増強しているようだ」


「て事は……」


「お前が動き次第、竹島の奪取にあたるのだろう。その件もあって、上が揉めてるんだと思う」


「……こちらからの増援は?」


「それも揉めてるみたいだ。今まさに、開戦の瀬戸際なんだよ」


 深刻に喋る東郷に、掛ける言葉を探す半荘。

 しかし数秒の沈黙の後、軽い事を言い出した。


「へ~……じゃあ、交代要員を送ってね。ヨロ~」


 若干、現実逃避をする半荘。

 当事者から離れて、我関せずといきたいようだ。


「そんな事できるか! だからあの時……」


 半荘の態度に、若干キレて反論する東郷。

 くどくどと小言を言う。


 半荘を迎えに行かせたボートに乗っていれば、今頃海上自衛隊が常駐し、名目共に日本の領土として韓国を撃退できたのだ。

 東郷からしたら、半荘の行動でよけいこじれてしまったのだから、キレても致し方ない。


「それはもう謝っただろ~」


 自分のミスをとがめられると弱い半荘。

 しゅんとして言い訳するしかない。


「夜に隊員を送り込むにしても、韓国の警戒が高まっているから難しいんだ。バレたら即開戦。日本が戦争を仕掛けた事になってしまう」


「じゃあ俺は……」


「上が決断するまでは待機だな」


「そんな~~~」


 半荘が情けない声を出したところで、東郷に電話を切られてしまった。

 すると、一部始終を見ていたジヨンは、自分を指差し、意見する。


「私は!!」


「あ……」


 すっかり忘れていた半荘。

 ジヨンだけならば、ボートで送っても大丈夫なのではと、いま気付いたようだ。


「えっと……帰りたい??」


「帰りたいわよ!!」


 噛み付かんばかりに怒鳴るジヨンに、半荘は両手でガードしてしまう。

 しばらくジヨンにガミガミ言われ、落ち着いたところで半荘は反論する。


「でもな~。韓国には帰れないんだから、日本に滞在する事になるんじゃないか?」


「そうだったわね……じゃあ、家の鍵をちょうだい?」


「家の鍵??」


「先にあなたの家に行って、帰りを待っていてあげるわ」


「なんで俺の家に……」


「結婚してくれるんでしょ? どんな家に住んでるか楽しみだわ」


「いや、それは……あ! 実は……」


 半荘はジヨンと偽装結婚したくないようなので口ごもったが、すぐに名案が浮かんで自分の家の説明をする。


「タワマンじゃないの!? 家具も家電も無いの!? お金持ちって言ってたじゃない!!」


 そう。半荘の家は、家具もねえ。家電もねえ。タワーマンションなんて住めるわけがねえ。

 月のほとんどは、ホテル暮らしだ。


 どうやら半荘は、田舎暮らしを事細かに説明して、ジヨンの侵略を阻止しようとしたようだ。


「じゃあ、カードを出せ。それで家と家具を揃えてやる」


「か、かつあげだ~~~!!」


 スケバンとなったジヨンに、おびえて逃げ出す半荘であった。



 この日は、大部屋にこもって出て来なかった半荘であったとさ。

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