62 別れの巻き


「ふぁ~~~」


 大きなあくびをして食堂に入った半荘は、適当な料理を用意して席に着く。

 するとジヨンも食堂に入って来て、挨拶を交わし、いつものように半荘の対面に座った。


「私の食事も用意してくれたのね」


「ああ。食べようぜ」


「「いただきます」」


 そうして静かに食べ始めた二人は、食後のコーヒーを飲みながら昨日の出来事を話し合う。


「鍵とカードは?」


 先手はジヨン。


「たぶんジヨンは、しばらく警察に厄介になると思うから渡せない。俺が帰れなくなるからな」


 寝る前に考えた言い訳で防御する半荘。

 もちろんしつこくジヨンに要求された半荘であったが、なんとか防御しきって、話を変える。


「とりあえず、今日、ボートに乗るって事でいいよな?」


「まぁ……でも、あなたが戻ったら、必ず迎えに来てよね」


「う、うん。善処します……」


「ちょっと! なによその言い方!!」


 半荘はあまり迎えに行きたくないらしく、政治家のような逃げ方をしたが、結局は固く約束させられるのであった。



 それから定時連絡とジヨンの身支度を待って、二人は基地から出る。

 今日までの出来事に話を弾ませながら、細い道を二人は歩く。


「たった数日だったけど、いろいろあったわね」


「そうだな。まさかジヨンが残っているとはな~。ビックリしたよ」


「ビックリしたのは私のほうよ。トイレに入っていたら銃声が聞こえて、そのしばらくあとには、みんなが脅されていたんだからね」


「あの時は、俺も焦っていたんだ。囲まれて銃で撃たれたんだぜ?」


「あはは。それで私を見落としたんだ」


「いちおう全員に確認したんだけどな~」


 二人が和やかに話をしていたら、ゴムボートを置いてある場所へと辿り着く。


「……ねえ?」


「ああ……」


 ジヨンの質問に、半荘は返す言葉が思い浮かばない。

 何故なら、ゴムボートは穴だらけだったからだ。

 それは数日前、韓国艦隊が半荘を撃ちまくった事で、流れ弾がゴムボートに直撃していたので、乗れなくなってしまっても致し方ない。


「どうすんのよ?」


「基地にもうひとつあったはず! 取って来ま~す!!」


 ジヨンに睨まれた半荘は、ダッシュでゴムボートを取りに行くのであった。



 30分後、辛うじて生きていたエンジンをゴムボートに設置し終わると、ジヨンを乗せて使い方の講習。

 初めて操縦するジヨンには、必要な講習だ。

 真っ直ぐ日本艦隊に向かいさえすれば、あとは東郷が拾ってくれると言っていたので、初心者でも問題ない。


 講習が終われば、ジヨンは別れの挨拶をする。


「韓国が撃って来たりしないわよね?」


「あはは。自分の国だろ~」


「そうだけど、あんな事もあったし……」


「まぁ昨日は攻撃が一切無かったし、東郷さんが国連に止められてると言ってたから、島から出る分には大丈夫だろ」


「そう……」


 ジヨンは自信が無さそうにうつむくが、すぐに笑顔を作って半荘を見る。


「それじゃあ、先に行くわね。あなたも死なないで……」


「おう! ジヨンも気を付けてな!!」


 半荘は親指を空に向け、笑ってジヨンを見送る。

 エンジン音を響かせるゴムボートは、手を振るジヨンを乗せて、島からどんどん離れて行く。


 そうしてボートが小さくなっても眺めていた半荘が基地に戻ろうとしたその時、異変が起こる。



 ボートが沈没したのだ。



 半荘は焦って走り出そうとしたが、手ぶらでは救出が難しいと思いとどまり、基地にて浮き輪を掴んでから海を走る。

 ボートが沈んだポイントまで着くと、海に浮かぶジヨンを発見。

 走りながら浮き輪をジヨンに投げて声を掛ける。


「大丈夫か!?」


「な、なんとか……」


「すぐに引き上げるからな!」


 それだけ言うと、半荘は浮き輪に巻いたワイヤーを握り、ジヨンごと引っ張って海を走るのであった。

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