56 泣き言の巻き


「いいか! これからその時間に定時連絡を入れるから、絶対に出ろよ!!」


 東郷の怒りの声の後、スマホからは音が消えた。

 半荘とジヨンは顔を見合わせて無言が続いていたが、ジヨンがなんとも言えない顔をして口を開く。


「あなたのミスで、帰れなくなったって事ね……」


「うっ……そんな事を言うなよ~」


 珍しく涙目になる半荘。

 もしも鈴木の言葉を信じていれば、今頃、日本船に乗り込んで、日本に向けて帰っている途中だったのだから、致し方ない。


「だって、韓国兵も日本語で喋っていたんだぞ? 警戒するに決まってるだろ~」


「そうだろうけど、そのチャンスを逃したんだから、島から出るのはまだまだ先になってしまったわ」


「うぅぅ。ごめんよ~」


 涙目どころか、いまにも泣き出しそうな半荘であった。



 それから反省会をしていたのだが、ジヨンの責めに、半荘はグロッキー状態。

 自分のミスと合わせ技一本で、テーブルに突っ伏したまま動かなくなってしまった。


 さすがに言い過ぎたと感じたジヨンは、気分を変えさせるために、何か楽しい事をしようと提案する。


「何かと言われてもな~……」


「さっきは言い過ぎたわよ。ごめんね」


 半荘がまったく興味を示さないのでジヨンは謝るが、それでも半荘は体を起こさない。


「ねえ~?」


 ジヨンが半荘を誘惑するように体を揺らすので、ようやく体を起こす。


「あんまり触らないでほしいんだが……」


 どうやら半荘は、女に免疫が無いから照れているようだ。


「そこから克服したほうが面白そうね」


「や、やめてくれ!」


 ジヨンの目がキラリと光って恐怖する半荘。


「あはは。冗談よ」


 冗談と言いながら舌舐めずりするジヨンに、ますます恐怖する半荘は、話を変えようとする。


「はぁ……昨日、あんまり寝てないから眠たいんだよ」


「あ~。あんな事もあったもんね」


「しばらくWi-Fiを出しておくから、それで暇潰ししてくれよ」


「わかったわ……そっちのスマホも預かっておこうか?」


 ジヨンはテーブルに置かれた日本との直通電話を指差す。


「電話が掛かって来たら、用件を聞いておいてあげるわ」


「いや、これは箱に入れておく。スマホまでパルス爆弾にやられたら洒落にならないからな」


「そう……」


「あと、俺は部屋の隅に居るから、変な事をしないでくれよ?」


「……それはしろって意味?」


「どこの芸人なんだよ!」


 ジヨンにツッコんだ半荘は、不要な電子機器は金属製の箱に入れて部屋の隅に移動する。

 そこにポケットWi-Fiと箱を置いて寝袋を敷くと、すぐにスースーと寝息を立てて寝てしまった。


 半荘の行動を見たジヨンは「面白くな~い」と言いながら、スマホをいじって時間が過ぎるのであった。





 半荘が寝入ってから数時間……


 時計が三時ちょうどを指した瞬間、半荘はガバッと体を起こした。


「どうしたの? 私はまだ何もしてないんだけど……」


 スマホにも飽きたジヨンは、半荘にちょっかいを掛けようと近付こうとした矢先の出来事だったため、妙な言い訳をする。


「……何か来てる! スマホを箱に!!」


「あ……はい!」


 いそいそと電子機器を金属製の箱に入れると鍵を掛け、半荘は基地から飛び出して行った。

 そうして耳を澄ませて港で待っていると、一機のドローンが飛んで来るのであった。

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