57 国連会議 其の一


 場所は変わり、国連の会議が開かれている会場……


 忍チューバ―と世間の声を聞いて、国連も黙っているわけにもいかず、問題が起きている両国を呼んで会議が開催された。

 しかし今回の会議は、安全保障に関わる事でもないので、国連総会でも特別会でも緊急特別会でもなく、加盟国で参加したい人にだけ連絡し、名目もただの会議としてある。

 ただし、世界的有名人である忍チューバ―の事とあって、緊急な召集だったにも関わらず、参加者は多数集まった。



 その席では、ある国の出席者が、多数の出席者に責められていた。


『どうして韓国は、武器を持たぬ民間人に兵器など使うのか、さっぱりわかりません』


『私の孫も忍チューバーのファンなのですから、早く解放してくれませんか?』


『最初は虐殺されたと嘘をついていたでしょ? その嘘を隠すために殺そうとしているのですか?』


『自国の民を犠牲にしようとするし、あなたの国は、人道と言う言葉を知らないの?』


 韓国から派遣されているヨンホは、数々の非難の声を、黙ってやり過ごそうとする。


 その対面に座る日本の島田は、ほくそ笑んで見ている。


(ふっ……いつも日本をおとしめようと、あることないことペラペラ喋っていたヨンホが黙っているのは笑えるな。このままいけば、竹島を我が国の領土と主張しても、どの国からも反対意見は出ないかもしれない)


 島田の使命は、国連に呼び掛けて忍チューバーを取り返す事もそうだが、本命は竹島の奪取。

 韓国艦隊を無条件で引かす事ができるのならば、そのまま日本艦隊を上陸させれば簡単だが、そうは上手くいかないと見ている。

 ならば、竹島の現状を全世界に知ってもらい、韓国に返還を呼び掛けてもらう、もしくは国際司法裁判所への出頭をさせたい考えだ。


 そうして島田が笑いを噛み締めて見ていると、ようやく韓国の反論が始まった。


『そもそもですよ。忍チューバーとは、日本の改造人間と情報が入っています。あの人間離れした動きを見たでしょ? そんな兵器に、我が国の領土を奪われたのです。兵器には兵器で対抗して当然でしょう』


 島田はヨンホの話を、「また突拍子の無い事を言ってる」と吹き出しそうになったが、各国は誰も口を開こうとしない。


『今回の一例の事件は、日本政府が極秘裏に開発した非人道的な手段で作り出された兵器を、独島に投入した事が発端です!』


『プッ……あはははは』


 ヨンホが大きな声で島田を指差すものだから、吹き出して笑ってしまった。


『何がおかしいのですか!』


『改造人間ですって? 韓国は、ついにここまでファンタジーの規模を膨らませたのかと思いましてね。あはははは』


 島田は笑い続けるが、島田以外は笑わずに難しい顔をしている。

 突拍子の無い話なのだが、改造人間と言われて初めて、忍チューバーの人間離れした動きの危険性に気付いたからだ。


 この展開に、笑っていた島田も空気を読んで反論しなくてはならない。


『まず、どうやってあの超人を作り出したと言われても、私にはわかりません。しかし、百歩譲って作れたとして、わざわざVチューブにさらしますかね? 私ならひた隠しにして、要人の暗殺に使います。あ、もしもですよ? 私はどこかの国の独裁者ではありませんからね~』


 島田の皮肉たっぷりのブラックジョークに、一部の者は笑いながらロシアの出席者を見た。

 反プーサンの記者が何度も消された事件があったので、それを知る人のツボに入ったのだろう。


 その笑いが落ち着くのを待って、ヨンホが喋り出す。


『やはり、改造人間を作ったのは認めるのですね?』


『百歩譲ってと言いましたでしょ? そんな物を作れるなら、とっくにアメリカの基地は無くなっていますよ』


 肩をすくめる島田のジョークに、また一部の者から笑いが起こる。

 おそらく、アメリカの基地がある国からの笑いであろう。


『いいえ。日本ならばやりかねません。先の戦争で、どれだけ非道な事をしたか……』


『いったい、いつの話をしているのですか……』


『たった70年で恨みが消えるわけがないでしょ! あなたこそ、やった事を忘れているのじゃないですか!!』


『だから70年、謝り続けたでしょ!』


 島田が声を大きくすると、ヨンホはチャンスと見て畳み掛ける。


『なんですか、その言い方は……皆さん見ましたか? 日本は反省などしていませんよ。この事から、忍チューバーは日本の作り出した兵器なのは明白。皆さんもそう思いますよね? 忍チューバーが日本の兵器と思う人は、挙手しないでください』


 ヨンホの回りくどい決の取り方に、皆は手を上げないで、苦笑いしている。

 しかし、誰も手を上げなかった事から、ヨンホは勝ち誇った顔になった。


『ほら。皆さん、忍チューバーは日本の兵器だと思っているみたいですよ』


 ヨンホのドヤ顔に、島田は呆れて口を開く。


『またやってるんですか? それ、前回やって、失笑されたヤツでしょ? まるで子供みたいだ~ってね』


 そう。韓国は話し合いの場で議題にも上がっていない事を無理矢理決を取り、手を上げるのも面倒な方法で賛成と思わせる手段を取った。

 当然、島田の言う通り失笑が起こり、今回に至っては島田の子供染みた言い方がおかしかったのか、大爆笑が起こるのであった。

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