32 決着の巻き


 特殊部隊の隊長を気絶させた半荘は、手と足だけ縛ってから、パイロットに近付く。


「ハロー? ワイヤー、アップアップ、オーケー?」


 どちらも母国語しか使えないので、パイロットの説得は諦めた半荘は、隊長に活を入れて起こした。


「ぐっ……」


「起きたか」


「俺は……負けたのか……」


「拘束させてもらったよ。隊員を引き上げたいんだけど、装置の使い方、教えてくれよ」


「……ああ」


 隊長は、半荘に手も足も出なかったからか素直にお願いに応え、ワイヤーを上下する装置の使い方を教える。

 その装置を使ってワイヤーを巻き上げ、半荘は隊員を次々と引き上げて、再び降下できないように、ワイヤーはクナイで切ってしまう。

 半荘の作業している横では、隊長が隊員にって近付き、生死の確認をしている姿があった。


 しばらくして、全ての隊員を引き上げた半荘は、隊長の前にしゃがみ込み、スマホを取り出して動画を見せる。


「どうだ? 先に銃を撃ったのはそっちだし、俺は銃を使っていないだろ? 誰に何を吹き込まれたか知らないけど、俺は誰一人殺していない」


 半荘は無実の証明をするが、隊長は混乱して言葉を発しない。


「まぁそんなわけで、今日のところは帰って欲しいんだ」


 無言の隊長に撤退をお願いすると、半荘の顔を見るが、そうは上手く行かないようだ。


「それは……」


「じゃあ、質問を変える。このヘリは、本土の基地までどれぐらいの時間で着くんだ?」


「おおよそ二時間……」


「なるほど」


 「撤退はできない」と言い掛けた隊長に別の質問をすると、うっかり口を滑らせた。

 すると半荘は、スマホをイジッてから口を開く。


「とりあえず、爆弾は、二時間半後に爆発するように起動しておいたよ」


「……え?」


「さっきの爆発見ただろ? あれより小規模の爆弾をヘリの下に張り付けておいたんだ。絶対に手の届かない所に取り付けたから、ヘリに乗り込むまで時間が掛かったんだよ」


 隊長は、ヘリポートが爆発した様子は見ていないが爆発音は聞いていたので、半荘が爆発させたと予想はついた。

 さらに、ヘリの下に半荘が隠れ、数分上がって来なかった事も思い出す。


「ま、まさか……」


「信じる信じないはあんたしだいだけど、隊員も全員戦闘不能だし、帰ったほうが得策だと思うな~」


 隊長は周りを見渡し、ワイヤーで縛られて身動きの取れない隊員を確認する。


「あ、そうそう。ヘリにも武器が搭載していると思うけど、使った場合はわかっているな?」


 半荘はスマホをチラチラ見せて、爆弾の起動が手作業でも行える事を示唆する。

 これで隊長の取れる選択肢はふたつ。

 隊員を無事、本土に送り届けるか、唯一拘束されていないパイロットによる軍用ヘリでの反撃。


 しばらくの沈黙の後、隊長は決断する。


「わかった。引き上げる」


 どうやら隊長は、反撃したとしても死者が出るのなら、撤退して次の部隊に任せたほうが、確実に竹島を取り返せると考えたようだ。


「賢明な判断だな」


 半荘も隊長の考えが見て取れたのか、にっこり笑って返事をした。



 それから武器とパラシュートを全てヘリから投げ捨てた半荘は、ドアから外に出るが、隊長に呼び止められた。


「おい! パラシュートは使わないのか!?」


「ん? そんな物は必要ない。俺は忍チューバー服部半荘だからな。ニンニン」


 軍用ヘリのドアをバタンと閉めた半荘は、高さに臆する事なく飛び降りたのであった。



  *   *   *   *   *   *   *   *   *



 残された隊長は半荘の姿が見えなかったが、とある動画を思い出して呟く。


『そういえば、高い崖の上から布を広げて飛んでいたな……ハハハ。あんな無茶苦茶な奴なら、死ぬわけないか』


 風呂敷を両手両足で広げて空を飛ぶ半荘の動画を思い出した隊長は、笑いながらパイロットに帰還の指示を出すのであった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る