14 銃弾の巻き


 半荘が「独島」の事を、「竹島」と呼びながら万歳すると、ついさき程まで笑っていた三人の軍人は雰囲気をガラっと変え、緊張した顔になる。

 その三人から自動小銃を一斉に向けられた半荘は、万歳からお手上げのポーズに変わってしまった。


 あ……やっちまった。

 竹島は禁句だったのか……

 でも、それならそっちも気を使ってくれよ!

 俺は日本人だから、独島と言ったらおかしいだろ?

 そんな物、動画に残せるわけがない。

 竹島は日本固有の領土なのだからな!

 でも、いまはそんな事を言っている場合ではない……



 半荘が何か言い訳しようとすると、通訳の男が先に声を出す。


「忍チューバーさん……ここは韓国の領土『独島』です。そうでしょ?」


 うっ……脅しか?

 銃の引き金に指を掛けた……

 しかし、俺も日本人の端くれ。

 脅しに屈するわけにはいかない。


「いや、ここは『竹島』。日本の領土です」


 パーン!


 乾いた音が鳴り響き、半荘の足元の地面が弾けた。

 自動小銃から放たれた弾丸だ。


「もう一度聞きます。ここは『独島』。違いますか?」


 ヤベ……凄い殺気だ。

 さっきまでの気のいいあんちゃんと大違い。

 「竹島」ってワードは、韓国人の逆鱗って事なのか……

 ここで返答を間違うと、今度は外してくれないだろう。

 間違わなくても、俺は両国から大罪人の如く裁かれるだろうな。

 せっかく仲良くなれて、無事に帰れると思っていたのに……


 半荘は覚悟を決めて口を開く。


「ここは『竹島』。日本だ!」

「なっ……死にたいのか!!」


 半荘も通訳も敬語を忘れて言い争う。


「お前だって、俺と立場が違ったら、自分の主張を押し通すはずだ!」

「死にたいようですね……」

「死ぬ? どうしてだ? いまは議論をしているんだ。銃を向けないと、主張を通せないのか?」

「何を馬鹿な事を……」

「俺は違うぞ。この竹島は、古い文献に漁をしていたと書いてある事を知っている。領土を主張する際には、国際的な手続きを踏んで領土にしたんだ。お前らは、戦後のどさくさに紛れて奪い取ったんだ!」


 半荘と通訳が言い争っていると、基地の中で銃声を聞いた軍服の男達が集まりだし、遅れて来た上官が慌てて止めようとする姿があった。

 だが、通訳の男が大声で半荘の主張を皆に伝えると、一気に怒りの炎が燃え広がった。


『忍チューバーと言えど、やはり日本人なのだな!』

『ここは韓国の領土だ!』

『お前たち日本人は、俺たちから奪っておいて、何を偉そうに言っているんだ!』


 うん。口々に言われても、何を言っているのかわからん。

 だが、怒っているのはわかる。

 それでも俺はこう言うしかない!


「ここは『竹島』! 日本の領土だ~~~!!」


 パン! パパパパパ……


 半荘の叫びが通訳に訳された瞬間、一発の発砲音がすると、次々に引き金を引かれて、半荘は蜂の巣になる……


『なっ……どこに行った!?』


 俺は忍チューバー。

 【空蝉うつせみの術】もお手の物だ。


 半荘は借り物の軍服だけ残して、軍服の男達の後ろに回り込んだ。

 そして、まったく気付かない男達に、半荘は声を掛けてあげる。


「おいおい。日本人の俺が、日本の領土に立つ事が、銃殺されるほどの罪なのか?」


 その声に反応して、軍人は一斉に振り返って半荘を見る。


『くっそ……撃て! 撃て~~~!!』


 韓国語に訳された瞬間、一斉射撃されたが、半荘は動き回り、弾丸を避ける。

 それだけでなく、距離を詰めて延髄にチョップ。

 その攻撃で、男は気を失う。


 一人倒すとさらに射撃は激しくなり、半荘は紙一重でかわして男を倒す。

 二人倒し、三人倒し、最後の一人になると、銃を構えたままの通訳の目の前に立つ。


「はぁ……まだやるのか?」

「当たり前だ!」


 パーン!


 胸に押し当てられた銃口から弾丸が放れたが、半荘は自動小銃の先を掴んで空に向けた。


「忘れたのか? 俺は忍チューバー服部半荘。弾丸より速い男だ! ニンニン」


 半荘の決め台詞に、通訳の男は膝を突くのであった。

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