13 万歳の巻き


 半荘が帰る方法を聞くと、軍服の男達は熱心に案を出してくれる。


 まずは、ボートで島根県の島に向かう方法。

 しかし、そんな所に韓国のボートが向かうと、国際問題に発展しかねないので、すかさず却下された。

 ならば、沖合にて日本の漁船を待つかとなったが、海上保安庁に見付かると、何かと面倒とのこと。


 一番手っ取り早いのは、韓国本土の何処かに半荘を降ろし、そこで半荘が捕まれば強制送還されて、早くに日本に帰れるのではないかという話でまとまる。

 その時、明日になると観光客が来るらしく、その船に密航すれば、自分達も詮索せんさくされないのではないかという話になった。


 頷きながら通訳の男の話を聞いていた半荘は、口を開く。


「たしかに、それが皆さんに迷惑が掛からないかもしれませんね」

「でも、すぐに見付かるというリスクがあります」

「そこは任せてください。俺は忍チューバーですよ? 忍んで潜むのはお手のもの。ニンニン」


 半荘のおちゃらけた言い方が通訳されると、皆から「おお~」と感嘆の声があがった。


 船の中に潜める場所があれば、半荘は隠れ切る自信がある。

 隠れる場所がなくとも、船の壁に張り付いて、バレずに岸までくっついていられるだろう。

 多少しんどいが途中で落ちても、本土が見えていれば、なんとかなるはずだ。



 そうして歓迎会がお開きになると、半荘は開いているベッドを借りて横になる。

 久し振りのベッドは半荘をすぐに眠りに誘うが、慣れないベッドのせいで、何度かトイレに起きる事となった。


 その時、こんな機会はめったにないだろうと、基地内を軽く探索。

 半荘に掛かれば物音ひとつ立てずに歩けるから、すれ違う男にもバレずに、頭の中に間取りを入れて眠りに就いた。



 翌朝は、朝ごはんをいただきながら、和気あいあいと話に花を咲かせ、最後の別れとなるので、半荘は感謝の言葉を送り続けた。

 そして記念に、皆の動画を撮りたい旨を伝えると、さすがにVチューブにアップされると困ると言われた。


 もちろん俺はアップする気はない。

 そんな事をすれば、この人のいい韓国人に迷惑が掛かる。

 命の恩人の顔と声を、一生忘れないためだ。


 その事も伝えると、基地の外でならばと許可が出た。


 そうして撮影会を開いていたら、船の汽笛が聞こえ、竹島に大きめの船が近付いていた。

 男達はこれから出迎えの準備があるらしく、ほとんどが離れて行ったので、半荘は頂上付近の岩陰に隠れて、船を眺めながら待つ。


 船は港に着くと多くの人が降りて来て、写真を撮る者や、海を眺める者、建物を指差す者と分かれていた。


 ふ~ん……意外と若い人が多いんだな。

 たしかテレビで、学校の単位のために竹島に行くような事を聞いた事があるな。

 これなら、隠れなくても人に紛れられるかも?

 俺が完全に気配を消せば、影が薄すぎて、透明人間になれるからな。

 父親ですら、目の前に居るのに見失ったぐらいだ。

 まぁ物音ひとつで発見されるから、違う方法も考えておこう。


 そうして道を歩く人を隠れて見ていると、全員建物の中に消えて行き、四人の男が半荘の元へやって来た。

 どうやら通訳の話だと、港に向かう道は一本道だから、半荘がバレないように連れて行ってくれるようだ。


 半荘は渡された軍服に袖を通すと荷物を担ぎ、四人に前後を挟まれて道を進む。

 港に着くと一人の男が船長の元へ話をしに行った。

 その間、半荘が文字の書かれた岩肌を触っていたら、三人の男にここでも動画を撮ったらどうかと言われ、どうせなら一緒に入るように言って、三脚にスマホをセットする。


「もう写ってますよ」

「あ、はい。では、何かいい掛け声なんて……」

「アレでいいんじゃないですか?」

「そうですね」


 半荘と話をしていた通訳が残りの二人にも説明すると、タイミングを合わせて決めポーズ。


「「「「忍チューバー参上! ニンニン!」」」」

「「「「あはははは」」」」


 皆で笑い、握手やハグを繰り返すと、しだいに興奮した男達は万歳をしながら声を出す。


『『『独島、ばんざ~い! 独島、ばんざ~い!』』』


 半荘もやれと言われたので、これなら大丈夫かと調子に乗ったのが悪かった。


「竹島、ばんざ~い! 竹島、ばんざ~い!」


 その瞬間、和やかな空気がガラッと変わり、半荘は三人の男から自動小銃を突き付けられるのであった。

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