12 歓迎会の巻き


「えっと……俺は帰る事ができるのでしょうか?」


 島の名を「独島・竹島」と知って、半荘は問いただすしかできない。

 話をしていた通訳の男も難しい顔をして答える。


「正直、上に報告すると、どうなるかわかりません」


 上に? まだ報告はしてないってことか。


「報告すると、どうなるんですか?」

「おそらく、大変な国際問題に発展するかと……」


 でしょうね。

 いまでさえ、従軍慰安婦やら徴用工やらホワイト国やらで揉めているのに、日本人が竹島に乗り込んだんだからな。


「それで……報告はしちゃうんですよね~?」

「いま、考え中です」

「え? 俺を使えば、領土問題で優位に立てるのではないですか?」

「そうなのですが……」


 軍服の男達は、どうやら半荘が忍チューバーと知って、悩んでいるようだ。


 理由は簡単。


 ここにいる全員は忍チューバ―のファンで、上に報告してしまうと拘束されて、動画の更新が確実に止まる事態となるので悩んでいるようだ。


 さらにぶっちゃけ話までして来るけど、言わないでほしい。

 せめて一日くらいは俺と語り合いたいと言われても、ムサイ男だらけだから、俺は語り合いたくない。


「なるほど……それで俺はどうしたら?」

「ひとまず、基地に行きましょう。ささやかですが、歓迎会をしようと思います。そこで帰す方法も話し合いもしょう」

「は、はい! 有り難う御座います!!」


 韓国人、めっちゃいい人!!

 こんな不法入国者を歓迎してくれるとは……

 まぁ俺が世界的な有名人ってのも理由だろう。

 有名人でよかった~!


 これが普通の日本人なら、いたぶられはしないだろうが、韓国本土に強制連行。

 ニュースでは、独島に不法上陸した日本人を捕縛したとか流れていただろう。

 そうなったら、韓国は世界中に逮捕したと言いふらし、主権を主張して、俺は日本に帰れば非国民とののしられて……


 いや、帰れるかどうかも微妙だ。

 日本人だからって、罪より重い刑罰にされるかもしれない。

 下手したら死刑かもしれないな。



 そうして半荘は、軍服の男達に続いて歩き、基地へと足を踏み入れる。

 そこで五日も漂流していたと説明していたので、先にシャワーを貸してくれた。

 ただ、真水は貴重だから、使い過ぎないようにと説明を受けた。

 早風呂は忍者のたしなみ。

 素早く洗って食堂に案内される。


『え~……こちらにおられる方は、皆も知っての通り、忍チューバーの服部半荘さんだ。皆も聞きたい事があるだろう。長い挨拶は抜きにして、今日は盛り上がろう。かんぱ~い!』

『『『『『かんぱ~い!!』』』』』

「かんぱい……」


 上官の簡単な挨拶で宴が始まるのだが、熱量が凄くて半荘はたじたじ。

 そもそもこんなに人が多い所で飲むのも、半荘は苦手だ。

 父親の毒修行のおかげで酒が弱いわけではないが、何を話していいかわからないようだ。


 新聞配達の忘年会は一度だけ参加したのだが、その時の半荘は未成年だったから一人で食事を食べるだけだった。

 その上、酒を飲めないのに高い会費を取られたから、次からは参加しなかった。


 今回は話すネタが動画の話だからネタに困らないが、半荘ばかり話をして疲れる模様。

 ジャスティスと飲んだ時も、いろんな人を呼んで来たから、くたくたになった経験がある。

 綺麗な女性もいたけど、押しが強くて緊張し、話す事もままならないヘタレな半荘であった。



 半荘が通訳を交えて質問に答えていると、皆は興奮しながら隣の者と話し出した。

 そろそろ皆も、忍チューバ―の話でおなかいっぱいになった頃合いとみた半荘は、話題を変えようとする。


「それで、どうやったら帰れますか?」


 半荘のこの発言から、軍服の男達は日本帰還への案を熱心に出してくれるのであった。

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