15 ダッシュの巻き


 あ~……やっちまった……


 半荘は、倒れ伏す軍服を着た男達の山に、自分のしでかした事を悔やむ。


 先に引き金を引いたのは向こうだけど、これって国際問題になるよな?

 どうする?

 船を奪って逃げるか?

 いや、船を奪うと、窃盗罪で俺は犯罪者だ。

 そうなったら、最悪、日本政府から韓国に引き渡されるのでは?


 たしか、日本と韓国って犯罪者の引き渡し協定を結んでたはず……

 でも、二体の仏像が盗まれた時、どうなったっけ?

 仏像が一体戻って来たような事は聞いたが、記憶があやふやだ。


 まぁどっちにしても、不法入国して韓国人を殴り倒したんだから犯罪者だ。

 今まで全うに生きていたのに、ひょんな事から犯罪者になってしまうとは……


 いや……逆に、韓国人を竹島から追い出せば、俺は犯罪者にならないのでは?

 そうすれば、日本政府が大手を振って助けに来てくれるかも?

 しかし、どうやって連絡を取るか……


 スマホは通じないし、せめてWi-Fiが入れば……


 半荘は、動画撮影をしていたスマホをスタンドから取り外すと、画面をいじって注視する。


 お……おお! Wi-Fiが使える!!

 今まで諦めていたから気付かなかった……

 パスワードさえわかれば、日本にSOSが送れる!


 そうと決まれば!!


 半荘は、項垂れている通訳の男の腕と足をワイヤーで縛って拘束すると、残りの男達は一時保留。

 立ち上がった半荘は裸だったと思い出し、少し照れながら忍び装束に着替える。

 そして男を一人担ぎ、船に乗り込んで船長も縛ってしまう。

 それから半荘は、船に積まれているロープを発見すると、倒れている男達を全て縛って船に積み込んだ。



 作業が終わり、落ちていた自動装銃を担いだ半荘は、通訳の男を連れて基地へと足を踏み入れた。


「え~……皆さん。軍人さんは、全員倒れました」


 通訳に翻訳させて話を聞かせると、観光客はざわざわし、半荘に隠れてスマホに手を掛ける者も現れる。

 なので半荘は、自動小銃を観光客に向ける。


「ストップ! スマホは仕舞ってください。じゃないと、弾丸が誰かに当たります。あなたかも知れないし、隣の人かも知れません。ですので、両手を上げて、おとなしく指示に従ってください」


 スマホを触っていた観光客が両手を上げると、次の指示を出す。


「心配されている方もいらっしゃると思いますが、おとなしくこの島から出て行ってくれるなら、危害を加えるつもりはありません。では、ゆっくりと出口に向かってください」


 観光客は半荘の指示に、反抗せずに素直に従って出口に向かって歩いていたが、一人のおっさんが半荘とすれ違い間際に襲い掛かって来た。

 だが、一瞬で腕を捩じ上げ「おとなしくしないと撃つ」と脅して歩かせる。


 そうして基地にいた観光客全員を、一本道を歩かせて船に乗せる。

 軍服の男達の数は把握していたが、観光客の数は見落としがあるかもしれないので、人数の確認をさせた。


「本当にこれで全員ですか? 残っている人がいると、最悪韓国に帰れなくなりますので、間違わないでください」


 半荘の通訳越しの問いに、皆が頷いているように見えたので、最後の指示を出す。


「では、これより船を出発させますので、俺が出て行ったら船長の縄をほどいて、帰りの船旅を楽しんでください」


 半荘は操縦室に入ると、船をフルスロットルで走らせる。

 そうして最後尾まで走り、海に飛び降りると、【水走りの術】で竹島まで戻るのであった。



 ふう……全員追い出したな。

 これでこの島は「独島」ではなく「竹島」!

 文句なく……


「日本だ~~~!」


 半荘は喜びのあまり、両手を上げて叫んでしまった。


 と、興奮している場合ではない。

 日本という事は、銃なんて持っていたら逮捕されてしまう。

 証拠隠滅しなくては!


 いや、その前にやる事がある。

 いつまでWi-Fiが繋がるかわからないし、日本にSOSを送らねば!


「よし! やるぞ~~~!」



 こうして半荘は、日本政府に迎えに来てもらえるように、スマホをいじってSOSを送るのであった。

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