10 第一島人発見の巻き

 この回より、日本語は「これ」、外国語は『これ』で表記しています。

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「ふぅ……次は、建物に向かうか。いや、港のほうが近いかな?」


 半荘は海を【水走りの術】で渡り切り、荷物を担ぐと、整備された港に向かって岩肌を移動する。

 逸る気持ちを落ち着かせ、確実に岩を掴んで進んで行く。

 そうしてゆっくりと進んで行くと、人を発見したが、すぐに岩陰に体を隠してしまった。


 はて? 銃を担いだ人間がいたのだが……


 半荘はそおっと顔を出して、自動小銃を担ぐ人間を確認する。


 う~ん……軍服っぽい? 軍人か?

 銃を持った軍人が二人……

 と言う事は……海自の基地?

 それとも、海賊の隠れ家とか?

 海賊はないか。

 テロリストとかかな?


 半荘は自動小銃を担ぐ軍服の男を注視して、様々な可能性を予想する。


 そもそもここは日本?

 五日も波に揺られていたから、どこか違う国に行ってしまったとか?

 お近くだと、韓国、北朝鮮、台湾、中国、ロシアも……

 アジア系の顔だから、ロシアはないか。


 まぁ何処だとしても、日本に帰るには選択肢がない。

 考えすぎって可能性もあるしな。

 声を掛けてみよう。



 半荘は岩に張り付いて移動し、港が近付くと、お喋りに夢中になっている軍服の男に、両手を上げて歩み寄る。

 半荘は近付くが、なかなか気付いてくれないので、申し訳なさそうに声を掛ける。


「あの~?」

『ん?』


 男二人は、バッと振り向いて怪訝な目で半荘を見ながら口を開く。


『観光の者か?』


 あ……なんて言ってるかわからない。

 やはり、日本ではなさそうだ。

 だが、俺は日本語と、英語ぐらいしかわからないんだよな~。

 とりあえず、英語で話し掛けてみよう。


「ソーリー、ソーリー。ヘルプ、ヘルプ」


 まぁこんなもんだ。

 俺は、父親のせいで勉強が遅れていて、特に英語が苦手だったんだ。

 ジャスティスは日本語を使ってくれたから、話す事ができただけだ。


『は? なんだお前……』

『おい。今日は観光船なんて来てないぞ!』


 通じた?

 なんか早口で捲し立てているけど……

 てか、怒ってる?

 さっぱりわからん。


「えっと……アイムジャパニーズ」

『『ジャパニーズ!?』』


 二人の男は驚いたのも束の間で、半荘に自動小銃を向けた。


『『手を上げろ!』』


 はい? 銃を向けられてしまった……

 なんて言ってるかわからないけど、俺はずっと手を上げたままだから、これでいいのか?


『おい。こいつはずっと手を上げているから、手を上げろはおかしくないか?』

『あ、ああ。つい……ははは』


 今度はなんか笑ってる?

 でも、銃は下ろしてくれないんだ。


「ノーノー。ヘルプ、ヘルプ。シップ、バシャーン。ゴーホーム」


 半荘が片言の英語で話し掛けると、男達は首を傾げてしまった。


『あ? なんて言ってるんだ?』

『さあ? 助けてくれか?』

『さっきジャパニーズとか言っていたよな? 日本語できる奴を呼んでくれるか? 俺が見張っておく』

『あ~……わかった』


 軍服の男の一人は、トランシーバーを繋いで建物にいる仲間と連絡を取り、もう一人の男は、半荘のそばに近付いて喚き立てる。


『座れ! シットダウン!!』


 シットダウン? 座れって事か。


「イエス、イエス。ヘルプ、ヘルプ」


 半荘は言われた通り、ゆっくりと腰を落ろしてあぐらを組む。


『動くな! ドンムーブ!!』

「イエス、イエス」


 銃は向けられているけど、まだ撃つつもりはないみたいだな。

 とりあえず帰してくれたらいいんだけど、言葉が通じないからな~。

 あ! そういえば、外国人に取っておきの方法があったな。

 ダメ元でやってみよう。


「アイム忍チューバー! 服部半荘でござ~る~。ニンニン!」


 半荘が指で印を切ると、男はポカンとして数秒後、目を輝かせる。


『に……忍チューバー?』

「イエ~ス!」

『ハットリハンチャン??』

「オ~イエ~ス! ニンニン」


 うっ……やってて恥ずかしくなって来た。

 でも、これぐらいわかりやすい事をやらないと人気が出ないと、Vチューバー入門に書いていたからな。

 こいつには……どうだ?


『オ~! 忍チューバー! ニンニン!!』


 めっちゃ効いてる……


 男の手裏剣を投げる仕草を見た半荘は、若干、引いてしまうのであった。

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