08 生還の巻き


「あ~~~……死ぬかと思った~~~」


 オッス。俺は忍チューバー服部半荘こと田中半荘だ。

 今日で漂流五日目だ。


 昨日の海は大荒れで、ボロ船は揺れまくり、ひっくり返りまくり、俺も落ちまくりだったよ。

 さすがの俺も、死を覚悟したね。

 いや、生きてるのが奇跡だ。


 たしか出港する前に見た天気予報で、日本の遥か南で台風に発展するかもと言っていたか。

 昨日の感じだと、台風だったんだろうな。

 当初の予定では、その日は陸で過ごす予定だったのに、大荒れの大海原で過ごすとは……


 まぁこれも経験だ。

 生きているのだから、儲けものだ。


 とりあえず、荷物を確認しよう。


 う~ん……全部あるかな?

 怪しい雲があったから、念のためワイヤーでくくりつけて正解だったな。

 何せNASAがどうのってワイヤーだ。

 細いのに、まったく切れない。

 俺の相棒と言っても過言ではないな。


 だがしか~し!!


 ボロ船がヤバイ……


 なんとか形は保っているが、板がずれて、底から水が染み出している。

 着ていた服を破いて詰めてみたが、沈没は時間の問題かもしれない。


 仕事道具の忍び装束は、最終手段だから、まだ出番はあとだ。

 陸に着いて、パンいちでは恥ずかしいからな。


 しかし、今日こそ陸を発見できなければ、沈没は確実だ。

 そこからは、海に浮かぶしかない……


 そうなったら、さらに空からの発見が難しくなるんだろうな~……


「ここで俺は死ぬのか……」


 まぁ数奇な運命だったが、ここ一年ちょっとは良い思いをしたんだから、死ぬのは怖くないか。

 子供の頃に比べて、うまい物をいっぱい食ったしな。


 焼肉、ハンバーグ、トンカツ、カレー……


「あ~~~……やっぱり、もう一回食いて~~~!!」


 航海して後悔……


 フフ。オヤジギャグも冴えないな。

 あとは神頼みしかない。

 まだ食料も水もあるんだ。


 なんとか島が見えるまで、ボロ船よ……持ってくれ!

 それだけでいいんだ!


「神様~~~! 帰ったら、近所の神社に行くから、見捨てないで~~~!!」



 そうして俺は、夜になっても360度見渡し、島を探し続けたんだ。


 俺の願いはもちろん……


「光! 光が見える……島だ~~~!!」


 届いた!!


 幻惑? 蜃気楼?


 そんなもんしるか!

 この遭難で、初めての光だ。

 ボロ船も、もう持たない。

 この希望にすがるしかないんだ。


 そこからは、力いっぱいオールで漕いだよ。


 島まで数キロ……


 体力を温存していたけど辛い。

 ボロ船は軋み、海水が入って来る。

 いつ沈んでもおかしくない。


 それでも力いっぱい漕ぎ続けたら、島の全貌が見えて来た。


 あれが島か……小さいな。

 とてもじゃないが、人が住んでるように見えない。

 だが、灯台のような光が見えるから、誰も居なくても、連絡するような施設があるかもしれない。


 ラストスパートだ~!


 俺はそう思って力を込めたのだが、ボロ船のほうが持たなかった。

 嵐でダメージがあったにも関わらず、波を越えようと無茶をしたせいで、ついに至る所から海水が吹き出した。

 俺は荷物を持って海に飛び込み、船の残骸をかき集めて荷物を乗せるボートにする。


 ありがとよ……


 残りの残骸に礼を言うと、俺はがむしゃらに泳いだんだ。

 ライフジャケットがあるから沈む事はない。


 それに俺は、忍チューバー服部半荘だ!


 忍者泳ぎで、遠泳ならお手のもの。


 手を動かし、足を動かし、休む事なく生にしがみつく。



 そうして何時間経ったであろう……


「ハァハァハァハァ……」


 俺は生きて、島に辿り着いたんだ。


 そうして俺は、ペットボトルの水をがぶ飲みして大の字に倒れた。


「ハァハァ……もう動けね~~~!!」


 生還の喜びよりも先に、俺の体力が尽きて眠りに就くのであった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る